滋賀県の県庁所在地・大津市では、近年、コンセッション方式のPFIによるガス事業民営化、Park-PFIによる公園整備、競輪場跡地の定期借地による民間活用など、大型でスキームにも工夫のある公民連携事業を相次いで実施している。大津が目指すまちづくりと、民間活用の狙いについて、同市の越直美市長に聞いた。

(写真:水野浩志)

――2016年10月のJR大津駅ビル(ビエラ大津)のリニューアルを皮切りに、大津の中心市街地が変わり始めています。このリニューアルには市も関与しました。

 JR大津駅の駅舎に併設された駅ビルは築後40年以上を経過した2階建てのビルです。県庁所在地の駅としては規模が小さいということもあり、以前から市に対して「駅ビルを建設してほしい」という要望が寄せられていました。けれども、市内にJRの駅が16ある中で、大津駅は最も乗降客が多い駅というわけでもない。公金を入れて利用者数に見合わない過大な駅ビルを建てるわけにはいかないと思いました。

 全国には、明らかに行政が建てたと分かる駅ビルがあります。とりたてて特徴がなく、駅前の風景が似通っている。こうした、横並びのまちづくりは昭和のものだと思います。みんなが同じレベルを目指した、高度成長期の産物です。当時はそれも必要だったと思いますが、今はもう時代遅れです。行政が駅ビルを建てたら、あらゆる人の意見を聞かなくてはならない。いろんな人が「ダメ」というものを削っていった結果、誰もいいと思わない、特徴のないものができてしまう。それよりも、民間に任せて、思い切ったものをつくってもらったほうがいい。

 大津駅の駅ビルはJR西日本が所有していますが、以前は、市が運営・管理をして商業テナントを入れていました。しかし、市の撤退をきっかけに、リニューアル計画が動き始めました。建て替えではなく、元の建物を活かした改修で、市はJR西日本と協定を結び、外装の改修費を負担するとともに全体の計画についても協議・調整しました。改修では古い天井を解体して打ちっぱなしの高い天井を活かし、以前は使われていなかった屋上も利用しています。リニューアル後は観光案内所のほか、レストラン、カフェ、宿泊施設が入居し、若い人が多く集まるようになりました。

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大津駅ビルの外観(上)と内観(下)。それぞれ左側がリニューアル前、右側がリニューアル後の様子(写真提供:大津市)

駅前と琵琶湖を結ぶ道路空間を楽しく

――その駅前で、賑わいづくりを目指す「ジュネーブ構想」の一環として、今度は道路と一体化した公園の計画が進んでいます。

 まちづくりの目標に「世界から人が集まるまち大津」を掲げています。世界から人に来てもらうためには、世界で大津にしかないものが必要です。その筆頭に挙げられるのが琵琶湖。滋賀県内でも、市街地と琵琶湖が近いということが大津の特徴なんです。

 「ジュネーブ構想」は、ジュネーブを訪れた際に、レマン湖に面したジュネーブと、琵琶湖に面した大津の地形がよく似ていることに気づき、着想しました。駅と湖をつなぐ道路の長さや傾斜も近い。

 ただ、ジュネーブでは駅から湖までの道のりも楽しいのに、大津はそうなっていません。そこで、湖を生かしたまちづくりをしようというのが「ジュネーブ構想」です。

ジュネーブ構想の地図(上)と、来春完成予定でPROJECT2に当たる駅前公園整備イメージ(下)。今後、なぎさ公園の活用事業者を公募する計画だ(資料:大津市)

 まず、駅と湖を結ぶ中央大通りの車道の一車線を歩道にし、既存の大津駅前公園とつないで一体化することにしました。

 Park-PFIで民間事業者にカフェと公園施設をつくってもらい、大津市は道路と公園を一体的に整備する。夜間照明にも力を入れていて、完成したら周辺の雰囲気は大きく変わるでしょう。駅前にリゾートのような空間が出現します。事業者はすでに決まっていて、来年の春にオープンする予定です(関連発表)。

 今までのところ、歩道の拡幅は駅寄りの一部ですが、将来的には琵琶湖までつなぐことを目指し、沿道の関係者と話し合いを進めます。既存の店舗には、道路を積極的に活用していただきたいと考えています。そのために行政は、道路占用料を免除し、可動の椅子やテーブルを無料で路上に置けるようにします。

 湖岸では、「なぎさ公園」のPark-PFIによる活用事業者を公募する予定です。民間事業者の力で、琵琶湖沿いにも、カフェやレストランなど、市民や観光客が楽しめる空間をつくっていただきます。琵琶湖を、ただ眺めるだけでなく、入って遊んで楽しめる場にしていきたいと考えています。

 既に、なぎさ公園ではSUP(スタンドアップ・パドル)やヨガを開催しており、今年はナイトシネマも行います。 

「宿場町構想」で、市役所の一部を町家に移転

――中心市街地の「大津宿場町構想」についても教えてください。

 琵琶湖と並ぶ大津の特徴は、東海道最大級の宿場町だったという歴史です。大津の中心市街地は戦災に遭っていないので、伝統的な町家が約1500棟残っており、そのうち200棟ぐらいは空き家と見られています。そのまま放置しておけば、いずれはなくなってしまうかもしれません。大津にとってかけがえのない財産ですから、なんとか保存活用を図りたい。昔の街並みの復活を目指す試みなので、「まちづくり」ではなく「まちもどし」と呼んでいます。

 取り組みの一環として、2017年4月に町家改修の宿の第一号「大津町家の宿 粋世(いなせ)」が誕生しました。市の「中心市街地活性化基本計画」に基づくもので、経済産業省への補助金申請をお手伝いしています。外国人観光客が多くいらしていて、私も話を聞いたのですが、町家に泊まることそのものが得がたい体験だと言ってくださいました。

 2018年6月には、大津駅から徒歩圏にある7棟の町家を改修した「商店街HOTEL 講 大津百町」がオープンしています(関連記事)。まちなかに点在しており、いかにも宿場町らしい宿泊施設になりました。大工さんを育てるクラフトマン・カレッジ、大家さんのための学校も開催されています。

 今後は、新たな活用策として、町家をスモールオフィスやコワーキング、ワーケーションやスタートアップに使って欲しいと考えています。そのモデルケースとして、今年5月に、市の都市再生課が町家を改装したオフィス「まち家オフィス結」に引っ越しました。都市再生課はまちづくりを担当する部署ですから、庁舎よりまちなかにいたほうがいい。加えて、従来の行政の在り方、カウンターを挟んで職員と市民が対峙するようなスタイルを変えたい思いもありました。

「まち家オフィス結」の外観と内観(写真:大津市)

 この「まち家オフィス結」は、コワーキングスペースを備えており、職員の席も決まっていないので、職員も訪れた市民の方も、同じ大きなテーブルの好きな場所に座って仕事をします。「宿場町構想実行委員会」のミーティングの場やワークショップにも使われます。官民の枠を取り払ってひとつのテーブルを囲み、まちづくりについて語り合う拠点ができました。

 ほかにも、昨年10月に開催した「リノベーションスクール@大津」の成果で、空き町家を活用した児童クラブとプログラミング教室ができる予定になっています。

競輪場跡地や空き保養所を民間の力で活性化

――中心市街地以外でも、公民連携の取り組みが進んでいます。例えば、「大津びわこ競輪場跡地」の活用は、まちづくりの中で、どのような位置付けになるでしょうか。

 こちらは既に事業者が決まって(関連発表)、公園と一体になったユニークな商業施設の建設が始まり、11月にオープンする予定です。

 競輪事業は2011年に廃止したのですが、施設の解体費用が10億円以上と試算され、これまで壊すこともできずにいました。しかも、敷地は都市計画公園内に位置しています。地元の意見を聞くと、やはり公園や広場の要望が多かったんです。

 そこで、サウンディング型市場調査を行い、事業提案を募って土地を貸し付ける方針をまとめました。条件は、事業者の負担で競輪施設を解体すること、一定規模以上の広場を整備すること、定期借地の期間と賃料を提示していただくことでした。

 採用案は「公園の中の商業施設」がコンセプトで、公園を使ったスポーツイベントも企画されており、市民の方に楽しんでいただけるものができると期待しています。

大津びわこ競輪場跡地に定期借地(事業期間31年6カ月)で開発する複合商業施設「ブランチ大津京」の完成予想イメージ(資料:大和リース)

 また、市の北部の琵琶湖沿いには企業の保養所が162あります。琵琶湖がとても綺麗な風光明媚な場所ですが、時代の変化により空き保養所が増えてきました。転用しようにも、市街化調整区域内に立地しているため、これまでは用途変更ができませんでした。

 保養所の所有者にアンケートで意見を聞いてみると、空き保養所を活用したいという意向が多く寄せられました。そこで、今年5月から開発許可制度の運用を弾力化し、観光振興に役立つ宿泊施設や飲食施設などであれば、用途変更を許可することにしました。申請の手引きをつくって募集したところ、これまでに4事業所が手を挙げています。市北部には比良山から琵琶湖を一望できるびわ湖テラスができ、観光客も増えているのですが、これまで宿泊施設が不足していたので、空き保養所の活用に期待しています。

公共交通やいじめ対策にICT活用

――大津市はMaaSをはじめ、ICTやAIなど最新テクノロジーの公共交通への導入にも熱心な印象ですが、現在の取り組み状況を教えてください。

 交通面では、高齢者の生活の足と、観光客の周遊の便という2つの課題があります。市北部には、駅と住宅地を結ぶ路線バスが走っていないなど、高齢者が免許を返上してしまうと病院にも買い物にも行けなくなる地域があります。また、市内には琵琶湖・比叡山延暦寺・三井寺・石山寺などの観光地がありますが、相互に行き来するには鉄道や路線バス、ケーブルカーなどを乗り継がなくてはなりません。

 市内の交通不便地では、2015年からデマンド型乗り合いタクシー「光ルくん号」の運行を行ってきました。収益率も50%ほどに達し、一部地域では市の補助金なしで自主運営が始まっています。山間部の駅から遠い地域では、昨年度、国交省の自動運転の実証実験が行われました。また、乗り合いで車を運行するコミュニティ・カーシェアリングの導入検討も始まります。今後はMaaSやライドシェアや自動運転を組み合わせて、利便性と収益性の向上を目指します。

 今年度からは、交通不便地だけでなく、市民と観光客のために、中心市街地と比叡山周辺を結ぶMaaSの実証実験も行います。JR大津駅と琵琶湖を自動運転のシャトルバスで結び、既存の複数の交通機関の一括検索・決済を可能にします。買い物や飲食、宿泊など交通以外のサービスとも連携して、MaaSアプリ内のクーポンで割り引きなどが受けられるようにします。この事業は、国土交通省の「新モビリティサービス推進事業」と経済産業省の「パイロット地域分析事業」の両方に選定されました。

2019年度の大津市版MaaS実証実験区間。将来的には、統合する公共交通の種類を増やし、サービスの質・量を拡充していく(資料:大津市)

 自動運転は、これからの超高齢化社会で欠かせないものであると考えています。市民の高齢化だけでなく、バスの運転士の高齢化も深刻です。そこで大津市では、京阪バスと一緒に、昨年度から自動運転の実証実験を進めており、2020年にはMaaSと自動運転の実用化を目指しています。

 大津市には「イノベーションラボ(18年度までの名称はデータラボ)」という部署があり、ICTやAIを活用した取り組みに関しては、ここで横断的に進めています。今年の5月15日からは、AIによるイベント情報集約サイトの実証実験を始めました。ほか、会議録の自動作成や介護保険のケアプランチェック、保育所AI入所選考、道路状況の自動判断やドローンによる橋梁点検などにも取り組んでいます。最も特徴的なのは、AIによるいじめ事案の分析と深刻化の予測です。

 大津市では2011年に起きたいじめによる自殺事件の反省から、いじめの疑いが生じたら、24時間以内に学校から教育委員会に報告書を提出することになっています。以前は年間50件程度だった報告件数が、現在は70倍ほどに増え、これまでに約9000件の情報が蓄積されました。その内容を専門家の意見を入れながらAIを使って分析し、いじめが起きたときの深刻化や対応を予測するなど、学校現場でのいじめ対策に役立てます。

 2017年からはLINEによるいじめ相談も始めていまして、相談者数は電話の7倍に上ります。また、相談の内容もいじめが深刻化する前のものも多く、中学生が気軽に相談できる窓口になっています。

 イノベーションラボは市の組織ですが、どの事業も行政だけではできないので、さまざまな民間事業者と協定を結ぶなどして連携しています。データサイエンスの分野では滋賀大学とも協定を締結しました。

事業者が参加しやすい競争環境をつくる

(写真:水野浩志)

――市政全体を通して、公共と民間事業者の連携をうまく進めているように見受けられます。そのために、心掛けていることはありますか。

 今の時代、アイデアや技術の面でも財政面でも、行政ができることは限られています。私が目指しているのは、公共事業主体のまちづくりから脱却し、市民や民間主体の、大津にしかない個性的なまちづくりをすることです。

 私はもともとM&Aを専門とする弁護士だったので、民間事業者との連携にあたって、スキームの構築には力を入れています。まず、公募の前にサウンディングを行い、どのような条件であれば、事業者が参加してくれるのかを見極めます。重要なのは、コンサルタント任せではなく、市にとって譲れない条件や優先順位をはっきりさせた上で、事業者が参加しやすい競争環境をつくることです。

 また、大津駅ビルのリニューアルの経験で強く感じたことは、目に見える変化があれば市民の理解が得られやすいということです。庁内で何年もかけて計画を策定しても、ホームページの計画を見てくださる方は少ないです。でも、駅が変われば、何も説明しなくても市民は一目でわかる。何百ページの計画書よりも、目に見える変化が大切です。

 これからは、まちづくりもAIの活用も、小さく早く始めて、市民からフィードバックを得て、そこから改良を重ねていく。何年も計画を立てていては、時代遅れになります。目にみえる風景やプロトタイプを早く作って、前に進めていきたいです。

越 直美(こし なおみ)
大津市長
1975年生まれ。北海道大学法学部・大学院修了。2002年、弁護士として西村あさひ法律事務所に入所。専門はM&Aやコーポレートガバナンス。2009年、ハーバード大学ロースクールを修了、ニューヨーク州司法試験に合格。ニューヨークの法律事務所に勤務後、コロンビア大学ビジネススクール客員研究員。2012年1月、大津市長就任。現在2期目。
大津市
琵琶湖の南西に広がる滋賀県の県庁所在地。JR京都駅から約10分(大津駅・大津京駅)に位置し、比叡山延暦寺、石山寺などの歴史文化遺産があることでも知られる。面積464.51km2、人口34万3349人(2019年8月1日現在)

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