別府や湯布院があり、温泉地として名高い大分県。実は企業誘致も進んでいる。そこへ降ってわいたかのような「宇宙港」の事業。これまでの県の取り組みと底力をどう生かし、どのような効果が期待できるのか。課題も含め、広瀬勝貞知事に聞いた。

広瀬勝貞・大分県知事(写真:山本 巌)
広瀬勝貞・大分県知事(写真:山本 巌)

――スペースポートジャパンは、大分空港を「宇宙港」の候補としてヴァージン・オービットに推薦しました。その理由をどう考えていますか。

 いくつか考えられます。1つは、3000mの滑走路があること。もう1つは、1960年代からのコンビナート構築と、その後の企業誘致などによる産業集積によって、何か起きた時に助かると評価されたのではないでしょうか。

 3つめは、別府をはじめとする観光、リゾートがあることです。ロケットが宇宙へ上がっていく時に依頼主が見に来るらしいので、その前後に楽しんでいただくというわけです。

 また、全日空が県よりも先にスペースポートジャパンと提携していたので、全日空の推薦もあったのではないかと推測しています。

――世界で宇宙開発に求められているのは、どのようなことでしょう。

 宇宙開発で現在、一番問題なのは、いかに低コストで人工衛星を打ち上げ、活用していくかです。

 (米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が率いる宇宙企業の)スペースXは、打ち上げたロケットを回収し、それを整備して再度使うことに成功しています。

 一方、ヴァージン・オービットのやり方は、飛行機にロケットを搭載して飛び立ち、海上でロケットを発射します。ロケットはまず水平に飛び、その後上昇して宇宙空間へ達し、人工衛星を切り離します。2021年1月の打ち上げテストでは、1回で小型人工衛星を10基、打ち上げました。

 飛行機は戻って来ますし、ロケットの回収も考えているらしいです。飛行機で途中まで持っていくので、ロケットは、地上からドーンと打ち上げるタイプのように大きくなくていい。コストを大幅に抑えられる方法として期待されています。我々はこの拠点を「水平発射型の人工衛星打ち上げ拠点」と呼んでいます。

ニューヨーク日帰りも夢じゃない

ヴァージン・オービットがロケットの搭載を想定しているジャンボジェット機「ボーイング747」。2019年7月の落下試験中に初めてロケットを空中で発射した(写真:Virgin Orbit/Greg Robinson)
ヴァージン・オービットがロケットの搭載を想定しているジャンボジェット機「ボーイング747」。2019年7月の落下試験中に初めてロケットを空中で発射した(写真:Virgin Orbit/Greg Robinson)
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――大分空港もこのタイプの宇宙港になります。日本における宇宙港のニーズをどう考えていますか。

 スペースポートジャパンの調べによると、2022年までに合計23基の人工衛星を打ち上げる計画が国内の企業や大学の間であります。

 現在、日本で人工衛星を打ち上げているのはJAXA(宇宙航空研究開発機構)ですが、大きなロケットに自分たちの大きな人工衛星を積んでいます。そこに隙間があれば他の機関の人工衛星も搭載してもらえるのですが、タイミングが合うとは限りません。

 そのため、日本の企業や大学は海外に頼らざるを得ず、日本にとって大事な宇宙開発のチャンスを逃しているのです。海外まで行くので、コストもかかります。日本の宇宙開発のためには、簡便に打ち上げられるシステムを日本に持ってくることが重要だと思います。

――宇宙港が増えれば、この問題の解消になりそうですね。ほかにもニーズはありますか。

 もう1つは、スペースXやヴァージン・オービットが議論している「二地点間移動」です。飛行機に取り付けるロケットの代わりに、耐熱性のある小型飛行機を積みます。そして、低軌道領域と呼ぶ宇宙と空の中間あたりまで上昇して、小型飛行機を切り離します。その後、小型飛行機は目的地まで飛行します。この方法なら、大分とニューヨークを1時間ほどで結ぶことができるそうなので、ニューヨーク日帰りも夢ではない時代になるのです。

 二地点間移動の実験をするとなった時、我々が宇宙港に名乗りを上げて、ヴァージン・オービットとパートナーシップを結んでいると、チャンスがあるのではないかと考えています。現に、オーストラリアやシンガポールなどは、二地点間の拠点を取ろうと激烈な運動をしています。ひとまず日本は取れて、よかったと思います。

 大分空港の宇宙港化は、こうした日本の将来の宇宙開発、宇宙利用の大きな拠点としても大きな意味を持ちます。

インバウンドで利用者急増もコロナ禍で出直しに

(写真:山本 巌)
(写真:山本 巌)

――大分空港の発展について、これまでどのように取り組んできたのですか。

 ビジネスと観光で経済発展の基盤を整え、それを中心に大分空港を発展させる戦略をとっています。

 大分県は、1960年代からコンビナートの整備に取りかかり、鉄、石油、機械、造船など、基礎・素材産業の一大拠点ができました。そこを中心に経済発展を図りました。もう1つは企業誘致です。2003年から2020年までに520件の企業誘致があり、約2万2000人の新規雇用を生み出しました。これほど企業を誘致できたのは、キヤノンとダイハツが工場をつくってくれたことが大きい。裾野が広い産業なので、関連企業も一緒に来ました。

 観光振興も大切です。別府は、早い時期から国際観光拠点としての発展を目指しました。県のキャッチフレーズは「日本一のおんせん県おおいた・味力(みりょく)も満載」。大分県は、源泉の数も湧き出るお湯の量も、都道府県として日本一です。しかも自然が豊か。山海の珍味も楽しめるということで売り出しています。

着陸すると、ターミナル壁面に掲げられた「日本一のおんせん県おおいた・味力(みりょく)も満載」のフレーズが目に入る(左)。保安検査場でも「おんせん県」をアピール(写真:中川 美帆)
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着陸すると、ターミナル壁面に掲げられた「日本一のおんせん県おおいた・味力(みりょく)も満載」のフレーズが目に入る(左)。保安検査場でも「おんせん県」をアピール(写真:中川 美帆)
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着陸すると、ターミナル壁面に掲げられた「日本一のおんせん県おおいた・味力(みりょく)も満載」のフレーズが目に入る(左)。保安検査場でも「おんせん県」をアピール(写真:中川 美帆)
関アジ・関サバなどが有名な大分県。空港内のレストランでも、魚やしいたけといった特産品を使った郷土料理を提供している(左)。搭乗口の近くではキヤノンの製品を陳列(写真:中川 美帆)
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関アジ・関サバなどが有名な大分県。空港内のレストランでも、魚やしいたけといった特産品を使った郷土料理を提供している(左)。搭乗口の近くではキヤノンの製品を陳列(写真:中川 美帆)
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関アジ・関サバなどが有名な大分県。空港内のレストランでも、魚やしいたけといった特産品を使った郷土料理を提供している(左)。搭乗口の近くではキヤノンの製品を陳列(写真:中川 美帆)

――2018年度に、大分空港の旅客数は16年ぶりに200万人を超えました。

 200万人のうち、約14万人が外国からのお客様、インバウンドでした。14万人は少ない気もしますが、その前の3年間で7万人から14万人へと倍増しているのです。アジアの各地域に近いためか、特に台湾、韓国、中国からのお客様が増えました。

 2019年のラグビーワールドカップでは、東京都、神奈川県に次いで多い5試合を大分県で開催。すると、それまで少なかった欧米や大洋州のお客様がドッと来てくれました。アジアのお客様はずいぶんお金を使うなと思っていましたが、欧米のお客様はもっと使う傾向にあります。

――2020年からは新型コロナウイルス禍に見舞われています。

 今後の少子高齢化、人口減少を踏まえると、国内とアジアからのお客様に加え、欧米・大洋州のお客様を増やしていくことが大事だと考え、積極的に誘致していこうとした矢先でした。今、出直そうとしています。

大分空港には、全日空と日本航空のほか、ソラシドエアなど様々な路線が就航している(写真:中川 美帆)
大分空港には、全日空と日本航空のほか、ソラシドエアなど様々な路線が就航している(写真:中川 美帆)
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官民で「ホーバークラフト」を復活

――大分空港の弱点は。

 大分空港から主要都市の大分市、別府市まで時間がかかることです。観光でお見えになったお客様は景色を楽しむ余裕もありますが、仕事で来られたお客様はイライラされる。「空港からのアクセス、なんとかならないの?」とよく言われます。

 その解決策として、「ホーバークラフト」を運航します。ホーバークラフトは2009年まで、大分市内と空港との間で運航していましたが、当時はお客様が少なかった。ビジネス客は乗るのですが、それだけではなかなか…。すると運賃が高くなる。そして、ますます乗らなくなるという悪循環に陥ったこともあり、運航をやめました。

――ホーバークラフトが復活すると、時間の短縮以外では、どう変わるのですか。

 県がホーバークラフトを買い、それを貸与して、民間企業に運航していただきます。運航事業者に決まった第一交通産業(北九州市)のプランでは、現在の大分空港アクセスバス「エアライナー」と同じくらいの値段にするらしい。すると、お客様が増えるでしょうし、それに影響されてバスの運賃も下がるかもしれません。いろいろな意味で、アクセスがずいぶん良くなるのではないかと思います。

 第一交通産業が手がけるのですから、当然ながら、彼らはMaaS(マース)を考えています。空港からホーバークラフトに乗って(大分市側の発着地となる)西大分に着くと、タクシーなどの車に乗って、自宅や会社まで行く。そのサービスを一貫して、MaaSの考え方で運営していこうとしているわけです。利便性が高まるので良いと我々は考えています。

 また、MaaSにふさわしい拠点として、さらに空だけではなく宇宙までつながった空港として、ターミナルをつくります。

 ターミナルは、2025年の大阪・関西万博の会場デザインを手がける藤本壮介さんらのJV(共同企業体)の設計となります。しゃれていますよ。このまま宇宙に行けるのではないかと思うくらいです。

大分市側のホーバークラフトターミナルのイメージ(資料:藤本壮介建築設計事務所・松井設計JV)
大分市側のホーバークラフトターミナルのイメージ(資料:藤本壮介建築設計事務所・松井設計JV)
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 ヴァージン・オービットは、2022年に英国コンウォールからロケットを打ち上げるとしており、大分からも最速で2022年の打ち上げを目指しています。予定では、ホーバークラフトの運航開始(早ければ2023年度)よりも先になりそうです。宇宙港の機能を持つ空港とホーバークラフトとそこにつながるターミナルを一貫して見ると、空港の価値と人気は、ものすごく上がるのではないかと楽しみにしています。

キヤノンやダイハツに鍛えられた技術力を発揮

――大分空港の宇宙港化で、県はどのような役割を担うのですか。

 1つは、地元対策です。聞き慣れない「宇宙港」という言葉に対し、「大丈夫だろうか」と心配する人もいます。そのため宇宙港の構想などをお話しています。今はむしろ歓迎ムードです。

 もう1つの役割は、一定の作業を担うことです。飛行機にもロケットにも燃料を装填しないといけませんし、人工衛星を1つずつシステマチックに積んでいく必要もあります。そうした一定の作業を日本側でやることになるので、作業場や、燃料を積むためのトレーラーなどが必要になるでしょう。民間、国、県のどこがやるかは分かりませんが、民間でやるところがあればやってもらえばいいと思います。

大分空港内で存在感を放つ「宇宙港」の掲示(写真:中川 美帆)
大分空港内で存在感を放つ「宇宙港」の掲示(写真:中川 美帆)
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――課題は。

 飛行機にロケットを積んで上昇し、そこから人工衛星を打ち上げるという例は、これまで日本にありません。しかもそれを米国の最先端企業が持ってくるとなると、企業秘密の技術もあるでしょうし、それをどう保護するかなどは課題だと考えています。

――大分空港へのコンセッション導入についての見解を。

 役人が運営するよりも、民間の資金を活用しながら、民間の弾力的な発想で運営してもらった方が、地域に合って、もっと親しみが持てる楽しい空港になると思います。

 大分空港は、ビジネスあり、観光あり、ホーバークラフトありで、材料はかなりそろってきました。あとはコンセッションで民間の方がうまく料理をしてくだされば、メニューが充実するのではないでしょうか。コンセッションには、大いに期待しています。

――地域振興も期待できますか。

 大分空港が宇宙港になれば、人工衛星も大分空港に輸送されてきます。すると「部品が足りない」「ちょっと急いで修理してほしい」といったニーズがあるでしょう。大分県の企業は、かねてよりキヤノンやダイハツのもとで鍛えられているので、宇宙関係のニーズにも応えられると思います。データ開発などの企業も、大分に来る必要があるかもしれません。

 大分空港は、ビジネス、観光、そして宇宙港としてのニーズによって、価値が高まるでしょう。宇宙港からの広がりを、大分県の発展の大きな足掛かりにしていきたいと考えています。

広瀬 勝貞(ひろせ・かつさだ)
大分県知事
広瀬 勝貞(ひろせ・かつさだ) 1942年6月大分県日田市生まれ。1966年東京大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。在スペイン日本大使館一等書記官、内閣総理大臣秘書官などを経て、1999年に通産省事務次官、2001年に経産省事務次官。2002年に経産省を退官。2003年から現職。2010年九州地方知事会会長就任(写真:山本 巌)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/433746/092800063/