解説:生駒市の「100の複合型コミュニティ」
――高齢者の買い物支援、移動支援を新しいスタイルで

小紫市長は、著書『生駒市発! 「自治体3.0」のまちづくり』の中で、市における「自治体3.0」の取り組みの具体例をいくつか挙げている。赤ちゃん連れでのコンサートなど多様な音楽を楽しめる「市民みんなでつくる音楽祭」、現役世代の男性による地元飲み会「いこま男会」、図書館ワークショップから生まれたトークイベント「本棚のWA」などだ。中でも、高齢化するコミュニティの様々な課題の複合的な解決を目指す「資源回収・コミュニティステーション」の実証実験は注目度が高い。

――自治体3.0の具体的な取り組みの中でも、「資源回収・コミュニティステーション」の実証実験(日常の「ごみ出し」を活用した地域コミュニティ向上モデル)は、一石何鳥もの成果が期待できそうですね。

 はい。「100の複合型コミュニティ」(2020年度予算250万円)と呼んでいますが、昨年から今年にかけて、特に力を入れている取り組みです。

 資源回収スペースと交流・滞在スペースを併設した「資源回収・コミュニティステーション」を集会所や自治会館に置き、生ごみや紙おむつを無料回収したり、高齢者世帯が断捨離や整理整頓を兼ねて食器、衣類、本・マンガなどまだ使えるものを持ち寄ってリユースしたりする場をつくります。お茶を飲みながらゆっくり過ごせるくつろぎ交流スペースや子ども食堂を行えば子育て層も集まります。自然な多世代交流の場となるのです。

 そして、こうして人が集まる場には、野菜や米の販売やスーパーの移動販売、キッチンカー、移動保健室など様々な生活支援のビジネス関係者を呼び寄せることができます。そんな場所を市内に100カ所つくろうという取り組みです。自治会単位で取り組んでもらい、生駒市がサポートします。

「100の複合型コミュニティ」の概念図(資料:生駒市)
「100の複合型コミュニティ」の概念図(資料:生駒市)
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――「資源回収・コミュニティステーション」に移動販売車が来れば、買い物支援にもつながるというわけですね。

 高齢者の買い物支援、移動支援は全国的に課題になっています。この課題に対してデマンドタクシーやバスなどの移動手段を用意する発想ではなく、高齢者が歩いて行ける場所に買い物などの生活支援機能を用意しようというのが「100の複合型コミュニティ」の発想です。交流スペースで実施する「いきいき100歳体操」など、高齢者が集まる時間に合わせて、その会場に地元農家に朝どれの野菜を持ち込んでもらうのです。高齢者の買い物支援になる一方、買い物の機会を求める人が何十人と集まる場で販売できるのは、事業者にとってもチャンスですよね。

 もう一つ、この取り組みで大事なのは、高齢者の皆さんを単なる「お客さま」にしてしまわないことです。おじいちゃんおばあちゃんにも、しっかり地域に貢献してもらいます。例えば、お子さんが独立して夫婦二人になった家庭では、食器などが余りがちですよね。そうした家庭の不用品をコミュニティ拠点に持ってきてもらう。フリマアプリなどを使って販売すれば、そのコミュニティの活動資金になります。

 売れるものでなくても構いません。お子さんが置いていった古い漫画などを持ってきてもらうと、そのサロンに子どもたちが遊びに来るようになります。食べきれないお菓子でもいい。生ごみでもいいと思います。肥料にして花や緑を増やすのに使えます。こんなふうに自由にアイデアを出しあって、みんなで場をつくれば、協力できる関係も自然につくっていけるはずです。

――「100の複合型コミュニティづくり」のアイデアは現在、どの程度まで実現されているのでしょうか。

 2019年度に、環境省の補助を受けて、資源回収スペースと交流・滞在スペースを併設した「資源回収・コミュニティステーション」を市内2カ所に設置する実証実験を行いました。

資源回収・コミュニティステーションの様子(写真提供:生駒市)
資源回収・コミュニティステーションの様子(写真提供:生駒市)

 実証期間は2カ月ほどでしたが、思った以上の効果がありました。例えば、認知症のおばあちゃんが、コミュニティで子どもたちと触れ合うようになってから、お化粧をされるようになり、認知機能も少し改善したそうです。冬季の実証だったので、こたつを置いたら、子どもたちがこたつに入って宿題をして、それを近所のおじいちゃんがみてあげるといった光景も見られました。さつまいもを焼いたりコーヒーをいれたり、ステーションでは自然な支え合いや交流が生まれていました。

 そんなコミュニティを楽しんでいた子どもたちが、ステーションが休みの日曜日にやってきて、「日曜もここに来たいから日曜は僕たちでシフトを組んで運営する」と話し合いを始めるなど、良い意味で予想もしなかったことが起きました。いまや8割が核家族の時代ですから、多世代交流の機会は貴重ですよね。子どもたちも得るものがあるでしょうし、お年寄りも生活に張り合いが出るだろうと思います。

 生活支援のビジネス関係は、野菜の販売、スーパーの移動販売、パン教室の開催などが行われました。

――意欲的な取り組みですが、コロナ禍の下、なかなか人を集めにくいのではないでしょうか。

 2月末でこの実証事業が終わって、ご承知の通り、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい、ありとあらゆる地域活動がストップしました。

 地域のいろんな困りごとをこの拠点でなんとか解決していこうという取り組みですから、自治会ごとに必要な機能は異なるはずです。まず話し合ってそのニーズをまとめるところから始めなくてはいけません。コロナ禍でその話し合いすら難しい状況でしたが、アンケートで自治会長にニーズ把握をしたところ、驚いたことに市内127の自治会のうち約半数が関心を示してくれました。

 また、8月30日に開催した自治会長向けの市政研修会でこの100の複合型コミュニティについて説明したところ、104自治会の参加がありました。事業計画の策定を経て、2020年度中に、市内数カ所で新しいコミュニティ拠点が開設されると期待しています。その中から成功例が一定数出れば、高齢者の買い物難民化に対して、移動支援とは別の解決法を提示できることになります。全国の自治体にも参考にしていただけるモデルになりえると思っています。

小紫雅史(こむらさき・まさし)
小紫雅史(こむらさき・まさし) 1974年兵庫県小野市生まれ。97年3月、一橋大学法学部を卒業、同年4月に環境庁(現・環境省)に入庁。2003年6月、米国シラキュース大学マックスウェル行政大学院卒業(行政経営学修士)。在米日本大使館一等書記官、環境省地球環境局地球温暖化対策課総括補佐など歴任。霞が関から日本社会を変えることを目指すNPO法人プロジェクトK創立メンバー、元副代表理事。11年8月、全国公募371件の中から選ばれ生駒市副市長に就任。15年4月、生駒市長選初当選(現在2期目)。市民と行政が共に汗をかく「自治体3.0」のまちづくりを提唱している。