奈良県生駒市の小紫雅史市長は、「自治体3.0」をキャッチフレーズに公民共創によるまちづくりに取り組んでいる。自治体3.0とは、市民を行政サービスの「お客さま」と捉えるのではなく、市民と職員がともに汗をかいて課題解決を目指す自治体の在り方を指す。今年5月には書籍『生駒市発! 「自治体3.0」のまちづくり』(学陽書房)も著した。コロナ禍で人が集まる機会に制限が加わる中、自治体3.0の取り組みはどのような影響を受け、今後どのような具体策を打ち出していくのか。小紫市長に話を聞いた。

オンラインでのインタビューに臨む生駒市長の小紫氏(写真提供:生駒市)

――著書で提唱した「自治体3.0」の考え方について、改めてご説明いただけますか。

 簡単に言えば、「自治体1.0」は、何の工夫もなく「お役所仕事」を続けているだけの自治体を指します。「自治体2.0」は、改革派の首長のトップダウンで市民のニーズに応えていこうとする自治体です。ただ、市民を「お客さま」とみて、そのニーズを満たすだけのやり方には限界があります。市民のニーズは多様化、複雑化しているし、他方で税収は減り、自治体の予算やマンパワーは縮小しているからです。

 そこで、(ソフトも含めた)まちづくりを行政だけで担おうとせず、民間事業者や市民など多くのプレーヤーと共に進めていくのが自治体3.0です。自治体3.0では、行政は、まちづくりの主体となることもあれば、コーディネート役になることもあります。市民を単なるお客さま扱いせず、イベントやサービスなど自分がまちに望むものを自ら実現する労を取っていただく。そして、それを他の市民や行政が本気で支え伴走する。街がよくなるだけでなく、市民の皆さんも汗をかいた分だけ街への愛着が増して、定住意向も強まるはずです。

自治体3.0のまちづくりの考え方(資料:生駒市)

コロナ禍は現役世代を地域に迎えるチャンス

――「自治体3.0」の施策は、注目を集めた「100の複合型コミュニティ」をはじめとして、基本的に人が実際に集まる取り組みが多いですよね(別項「生駒市の『100の複合型コミュニティ』」参照)。今回のコロナ禍は影響が大きかったのではないでしょうか。

 生駒市のようなまちづくりを進めている自治体にとって、コロナ禍のインパクトはとても大きいです。人が集まる機会が奪われると、市民共創型のまちづくりはストップしてしまいます。

 個人的な話をしますと、私は9年前に生駒市に来て以来、土日が両方休みになることがほとんどありませんでした。週末は市民の皆さんが活動されているところに出かけて行って、直接様々なご意見を聞かせてもらうというスタイルで仕事をしてきましたから。それが、コロナ禍で土日がどちらも休みという週が増えて、どうも調子が狂っています。

 ただ、市民の皆さんが在宅がちになり、遠出するかわりに近所を散歩したりするようになって、いやがうえにも地域に目が向く機会になっているようです。生駒市民には大阪市内に通勤している人が多く、仕事や買い物、外食などは大阪でする人が多かったのです。しかし、コロナ禍により、「外出するなら都心部よりも地元にしておこう」と考える傾向が強まり、「家のすぐ近くにこんな店があるんだ」「この公園、雰囲気がいいな」など、生駒市のいいところに気付いてもらうチャンスが増えました。

 普段からある程度街に目が向いていた人も、いつもと違う街の様子を見て、地域活動のありがたみを再認識してくださっています。例えば、生駒市では子どもたちの登校を高齢者の方々が当番を決めて見守ったり、空き地や道の雑草を自治会できれいに刈り取ったりといった地域活動が定着しています。それがコロナ禍で学校が臨時休校になって子どもの声が聞こえなくなり、見守る高齢者の姿がなくなり、雑草は伸び放題で、街の様子ががらりと変わりました。

 それを見て、これまでは地域活動に街が支えられていたんだなと気付く人が出てくる。そのような経験により、「僕ももう少し地域活動をしなければと思いました」と言って、芝刈り機を自前で買って、ボランティアで雑草を刈り始めた市の若い職員もいます。

新しいプレーヤーが出てくる兆しも

――新しいプレーヤーの育成は、対面でのコミュニケーションができないと難しいのではないでしょうか。

 そうした面は確かにありますが、一方で新しいプレーヤーが出てくる兆しも見えています。これまでは地域活動に興味を持つのは圧倒的に高齢者の皆さん、次いで専業主婦の方々であり、現役世代の特に男性はとても少ない状況でした。しかし、先ほども述べたように、在宅ワークの普及によって地域活動や地域のつながり、地域のお店の大切さに気付く現役世代の人が増えました。

(オンライン・インタビューの画面より)

 それから、これはコロナ禍以前からの傾向ですが、近年では50代の男性が「地域デビュー」に悩んでいるという話を聞きます。「地域と関わりを持たないまま働き詰めで定年退職した場合、そのあとにちゃんと楽しい生活が送れるのだろうか」といったお悩みですね。地域と関わりたいと考える現役世代の男性は確実に増えています。

 そうした人がコロナ禍により、地域に目が向いたことで、地域活動に加わったり、地域ビジネスを始めたりするようになると、街にとっても大きなプラスです。こういう人たちは、ICTをはじめ様々なツールを使えるので、これまでの地域活動にも、広がりが出てくる効果も期待できます。

市が判断基準を提示し、市民の活動を側面支援

――活動を持続させるために市や市民の皆さんはどんな工夫をしていますか?

 屋外やオンラインに場を移して活動を継続している市民団体もあります。例えば、生駒市内で生産された旬の野菜を公園などで販売する「青空市」、自宅で育てた花をSNSで共有する活動、地元飲食店のテイクアウトやデリバリー情報を共有する活動、ステイホームの過ごし方を語り合うオンラインイベントなどが行われました。生駒の魅力を写真で発信するコミュニティ「イコマカメラ部」では、オンライン会議システム用の背景素材を無償提供してくれています。

 一方、自治会主催のイベントは行政のイベント以上に難しいようです。感染があった場合に責任が負えないということで、開催自体を見送ってしまいがちです。そこで、市が「三密」を避けてイベントを開くための判断基準を示しました。それを基に各課が実情にあわせて、野菜の直売会、健康体操などのシチュエーションごとに具体的に条件を示す。「判断基準を遵守すれば開催できる」「市が判断基準を示してくれたから大丈夫」という心理的な担保になるようで、皆さんに喜んでいただきました。

 また、市は、店舗支援事業「さきめし」を営むGigi(福岡市)と自治体で初めて協定を締結し、「さきめしいこま+」という事業を展開しています。応援したい地元のお店から利用チケットを買っておいて、コロナ禍が収束したら飲食や商品購入にチケットを使うというサービスです。さきめしは当初、飲食店だけが対象というお話でしたが、交渉して他の業種にも広げていただきました。このチケットに市が利用金額の30%を上乗せした「さきめしいこま+プレミアムキャンペーン」は、多くの方の利用を呼び、チケット完売、市内事業者の支援につながりました。

“中途半端”な立地を生かしてオフィス誘致を目指す

生駒市(いこまし)
奈良県の北西端に位置し、大阪府と京都府に接している。西に標高642メートルの生駒山を主峰とする生駒山地が、東に矢田丘陵と西の京丘陵がある。大阪市・奈良市の通勤圏であり、住宅地が多い。人口11万9011人(2020年10月1日現在)、面積53.15km2

――コロナ禍がある程度収束したら、市としてどのようなことに取り組みたいですか?

 オフィスの誘致を積極的に進められたらと思っています。感染症予防をきっかけに、この春から日本中でテレワークや在宅ワーク、サテライトオフィス、ワーケーションといったものがこれまで以上に導入されました。それを受けて、企業には必ずしも大きなオフィスを都心に構える必要はないとの認識も広がっているように思います。郊外にいくつかサテライトオフィスを構えて、普段はそちらに通い、たまに大阪のオフィスで仕事をするというワークスタイルも「アリ」だと考える企業・ワーカーのニーズに、生駒市として応えていく考えです。

 生駒市は大都市でもなければ過疎でもない“中途半端”な立地で、そうしたニーズには実にちょうどいいと思うんです。企業が大阪のオフィスを縮小して郊外に分散させようと考えたときに、電車で何時間もかかるほど離れた田舎でも困るし、かといって大阪と環境が変わらないなら意味がないですよね。生駒なら大阪から電車で30分もかかりませんし、なおかつ、生駒山を越える分、空気のおいしさは違って感じられると思います。都心と田舎の“いいとこ取り”ができる立地なんです。

 また、ステイホームを経験した人の多くが自宅の住環境の大切さを実感したと思うので、引き続き、住む場所としての魅力も市内外にアピールしていくつもりです。

 そして、これが1番大切なのですが在宅ワークが広がったおかげで、働くことと住む・暮らすことの境界があいまいになってきました。これはとてもいい流れだと思います。生駒市ではコロナ禍の前から、ワークとライフとコミュニティを融合させていこうと呼びかけてきました。その境界があいまいなほうが豊かな人生になるはずで、その3つを充実させられる街にしたいと考えています。

 ベッドタウン(寝に帰るだけのまち)などという概念は論外ですが、ワークライフバランスという考え方も僕に言わせれば時代遅れです。仕事も家庭も、そして地域社会も大切にして、みんなが多様に生きていける。やりたいことを具体化できる仲間や機械のあるまち。それが新しい時代の本当の意味での“住宅都市”です。コロナ禍を奇貨として、生駒をそんな真の住宅都市に成長させていきたいですね。

解説:生駒市の「100の複合型コミュニティ」
――高齢者の買い物支援、移動支援を新しいスタイルで

小紫市長は、著書『生駒市発! 「自治体3.0」のまちづくり』の中で、市における「自治体3.0」の取り組みの具体例をいくつか挙げている。赤ちゃん連れでのコンサートなど多様な音楽を楽しめる「市民みんなでつくる音楽祭」、現役世代の男性による地元飲み会「いこま男会」、図書館ワークショップから生まれたトークイベント「本棚のWA」などだ。中でも、高齢化するコミュニティの様々な課題の複合的な解決を目指す「資源回収・コミュニティステーション」の実証実験は注目度が高い。

――自治体3.0の具体的な取り組みの中でも、「資源回収・コミュニティステーション」の実証実験(日常の「ごみ出し」を活用した地域コミュニティ向上モデル)は、一石何鳥もの成果が期待できそうですね。

 はい。「100の複合型コミュニティ」(2020年度予算250万円)と呼んでいますが、昨年から今年にかけて、特に力を入れている取り組みです。

 資源回収スペースと交流・滞在スペースを併設した「資源回収・コミュニティステーション」を集会所や自治会館に置き、生ごみや紙おむつを無料回収したり、高齢者世帯が断捨離や整理整頓を兼ねて食器、衣類、本・マンガなどまだ使えるものを持ち寄ってリユースしたりする場をつくります。お茶を飲みながらゆっくり過ごせるくつろぎ交流スペースや子ども食堂を行えば子育て層も集まります。自然な多世代交流の場となるのです。

 そして、こうして人が集まる場には、野菜や米の販売やスーパーの移動販売、キッチンカー、移動保健室など様々な生活支援のビジネス関係者を呼び寄せることができます。そんな場所を市内に100カ所つくろうという取り組みです。自治会単位で取り組んでもらい、生駒市がサポートします。

「100の複合型コミュニティ」の概念図(資料:生駒市)
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――「資源回収・コミュニティステーション」に移動販売車が来れば、買い物支援にもつながるというわけですね。

 高齢者の買い物支援、移動支援は全国的に課題になっています。この課題に対してデマンドタクシーやバスなどの移動手段を用意する発想ではなく、高齢者が歩いて行ける場所に買い物などの生活支援機能を用意しようというのが「100の複合型コミュニティ」の発想です。交流スペースで実施する「いきいき100歳体操」など、高齢者が集まる時間に合わせて、その会場に地元農家に朝どれの野菜を持ち込んでもらうのです。高齢者の買い物支援になる一方、買い物の機会を求める人が何十人と集まる場で販売できるのは、事業者にとってもチャンスですよね。

 もう一つ、この取り組みで大事なのは、高齢者の皆さんを単なる「お客さま」にしてしまわないことです。おじいちゃんおばあちゃんにも、しっかり地域に貢献してもらいます。例えば、お子さんが独立して夫婦二人になった家庭では、食器などが余りがちですよね。そうした家庭の不用品をコミュニティ拠点に持ってきてもらう。フリマアプリなどを使って販売すれば、そのコミュニティの活動資金になります。

 売れるものでなくても構いません。お子さんが置いていった古い漫画などを持ってきてもらうと、そのサロンに子どもたちが遊びに来るようになります。食べきれないお菓子でもいい。生ごみでもいいと思います。肥料にして花や緑を増やすのに使えます。こんなふうに自由にアイデアを出しあって、みんなで場をつくれば、協力できる関係も自然につくっていけるはずです。

――「100の複合型コミュニティづくり」のアイデアは現在、どの程度まで実現されているのでしょうか。

 2019年度に、環境省の補助を受けて、資源回収スペースと交流・滞在スペースを併設した「資源回収・コミュニティステーション」を市内2カ所に設置する実証実験を行いました。

資源回収・コミュニティステーションの様子(写真提供:生駒市)

 実証期間は2カ月ほどでしたが、思った以上の効果がありました。例えば、認知症のおばあちゃんが、コミュニティで子どもたちと触れ合うようになってから、お化粧をされるようになり、認知機能も少し改善したそうです。冬季の実証だったので、こたつを置いたら、子どもたちがこたつに入って宿題をして、それを近所のおじいちゃんがみてあげるといった光景も見られました。さつまいもを焼いたりコーヒーをいれたり、ステーションでは自然な支え合いや交流が生まれていました。

 そんなコミュニティを楽しんでいた子どもたちが、ステーションが休みの日曜日にやってきて、「日曜もここに来たいから日曜は僕たちでシフトを組んで運営する」と話し合いを始めるなど、良い意味で予想もしなかったことが起きました。いまや8割が核家族の時代ですから、多世代交流の機会は貴重ですよね。子どもたちも得るものがあるでしょうし、お年寄りも生活に張り合いが出るだろうと思います。

 生活支援のビジネス関係は、野菜の販売、スーパーの移動販売、パン教室の開催などが行われました。

――意欲的な取り組みですが、コロナ禍の下、なかなか人を集めにくいのではないでしょうか。

 2月末でこの実証事業が終わって、ご承知の通り、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい、ありとあらゆる地域活動がストップしました。

 地域のいろんな困りごとをこの拠点でなんとか解決していこうという取り組みですから、自治会ごとに必要な機能は異なるはずです。まず話し合ってそのニーズをまとめるところから始めなくてはいけません。コロナ禍でその話し合いすら難しい状況でしたが、アンケートで自治会長にニーズ把握をしたところ、驚いたことに市内127の自治会のうち約半数が関心を示してくれました。

 また、8月30日に開催した自治会長向けの市政研修会でこの100の複合型コミュニティについて説明したところ、104自治会の参加がありました。事業計画の策定を経て、2020年度中に、市内数カ所で新しいコミュニティ拠点が開設されると期待しています。その中から成功例が一定数出れば、高齢者の買い物難民化に対して、移動支援とは別の解決法を提示できることになります。全国の自治体にも参考にしていただけるモデルになりえると思っています。

小紫雅史(こむらさき・まさし)
小紫雅史(こむらさき・まさし) 1974年兵庫県小野市生まれ。97年3月、一橋大学法学部を卒業、同年4月に環境庁(現・環境省)に入庁。2003年6月、米国シラキュース大学マックスウェル行政大学院卒業(行政経営学修士)。在米日本大使館一等書記官、環境省地球環境局地球温暖化対策課総括補佐など歴任。霞が関から日本社会を変えることを目指すNPO法人プロジェクトK創立メンバー、元副代表理事。11年8月、全国公募371件の中から選ばれ生駒市副市長に就任。15年4月、生駒市長選初当選(現在2期目)。市民と行政が共に汗をかく「自治体3.0」のまちづくりを提唱している。

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