SDGs(持続可能な開発目標)を政策に取り入れる自治体が増える中、ユニークな施策の実行で注目を集めているのが福井県だ。2021年は、内閣府の「SDGs未来都市」に選定されたことに加え、「新・公民連携最前線」が調査した都道府県「SDGs認知度ランキング」でも、住んでいる都道府県のSDGs推進の取り組みに対する「SDGs施策認知度」と「総合認知度」で共に全国1位となった。2019年より県知事を務める杉本達治氏に、福井県がSDGsに注力する理由と施策を成功に導くポイントを聞いた。

杉本達治・福井県知事(写真:福井県提供、以下同)
杉本達治・福井県知事(写真:福井県提供、以下同)

――福井県は2021年度の「SDGs未来都市」に選定されています。SDGsの推進・普及について、これまでどのように進めてこられたのでしょうか。

 SDGsを進める上で重要なのは県民との協働であり、大きな推進力を生み出すためには県と県民がビジョンを共有することが必要だと考えています。その意味で、「SDGs未来都市」に応募し、未来都市計画を策定しました。計画の土台となったのは2020年7月に策定した「福井県長期ビジョン」です。

 私が職員たちに常々伝えていることは、「主役」は常に県民であるということ。県民の皆さんが、今どんなことに悩み、将来どんな福井県にしたいと考えているのか、現場を見て実際の声を聞く「徹底現場主義」が大切だと話しています。

 「福井県長期ビジョン」も、県内の各地域を回り、5000人以上の県民と意見交換しながらつくり上げたものです。様々な世代・立場の県民と共に考え抜いた福井の基本目標は「しあわせ先進モデルふくい」の実現で、まさに「誰一人取り残さない、多様性と包摂性のある持続可能な社会」というSDGsの基本理念と合致しています。福井県が目指す姿を達成するには、SDGsの考え方が不可欠であり、分野別の施策すべてにSDGsの17のゴールをリンクさせています。

 さらに2020年からは、県の予算の発表資料にも、それぞれの主要事業とSDGsのゴールとを明確に紐付け、SDGsの達成を意識した執行を心がけています。こうした県政運営の結果、福井県が進めようとしているSDGs施策が、多くの県民に認知されていることは大変うれしく思っています。

――「SDGs未来都市計画」の中心に据えられている「次世代の育成」というテーマは、地方創生の大きな課題ですね。

 進学や就職を機に、若者が地元から大都市圏へ流出してしまうのは、どの地方にも共通する課題です。「SDGs未来都市計画」でも、「県内高校卒業生の県内大学進学率」と「県内大学等の卒業者の県内就職内定率」をKPI(重要業績指標)として設定しています。

 福井県の場合、大まかに言うと、大学等へ進学する高校生4000人のうち、毎年二千数百人が県外に進学している状況で、つまり現在の県内大学進学率は全体の3分の1程度です。これを将来的には2分の1まで増やしたい。県内の大学と高校等との連携を強化すると共に、農や水産増養殖を学ぶ学科や、古生物関係の学部の創設など、福井の特色を生かした魅力ある大学づくりを進め、内外にアピールしていきたいと思います。

県民の活動に“ちょい足し応援”のスタンスで

――若者の流出を防ぐためには「魅力ある産業・企業を増やす」ということも課題の1つです。

 福井県は「中小企業王国」なので、大企業は多くない一方で、1982年から2019年まで、38年間連続で「社長の輩出率日本一」という記録を持ち、「起業家精神」の土壌があるのも特徴です。そうしたポテンシャルをうまく生かし、新たな産業や次世代のイノベーションにつなげていきたい。そこで、構築を進めているのが、「福井型エコシステム」。成功した経営者が新たな起業家に投資したり、メンターとして助言を行ったりするという仕組みです。

 またご存知の通り、福井は千年の昔から続く「ものづくり」の県でもあります。和紙や漆器、箪笥、打刃物など、越前市などの地域には様々な伝統工芸品が集積していますが、悩みは後継者不足。このサポートとして「伝統工芸職人塾」を立ち上げ、後継者を育成しています。このように、伝統産業や中小企業とのネットワークを大切にしながら、産業全体の付加価値を高めていく。これまでの「ものづくり」から「価値づくり」へと転換しながら、人材育成に取り組んでいきたいと思っています。

取材はオンラインで行われた
取材はオンラインで行われた

――福井県がSDGs施策を進める上で重要視しているものは何でしょうか。

 現場の声を拾い上げるコミュニケーションと、自治体と県民・民間との間のパートナーシップの構築が重要だと思っています。民間の様々な主体が、自発的にSDGsの課題に取り組み、その輪を広げていく。民間が存分に活躍できるよう、私たちが“ちょい足し”で応援する。「自治体はリーダーでなく、あくまでサポーターである」という認識で、施策を進めています。

 県としての役割は、県民の皆さん同士がネットワークを広げ、SDGsに対する活動を増やせるようにすることです。そのため、福井県がSDGs 推進の第一歩として行ったのが、「福井県SDGsパートナーシップ会議」の創設です。

県内企業をはじめ、教育機関やNPOなど約550の機関(2021年11月末時点)が登録する「福井県SDGsパートナーシップ会議」。参画するパートナー同士のコラボレーションも特徴だ
県内企業をはじめ、教育機関やNPOなど約550の機関(2021年11月末時点)が登録する「福井県SDGsパートナーシップ会議」。参画するパートナー同士のコラボレーションも特徴だ

 福井県SDGsパートナーシップ会議は、県内企業やNPOなどの団体、教育・研究機関などが参画する官民連携のプラットフォーム。参加機関は、自らが実行するSDGsの取り組みを宣言し、主体的な活動を実践しています。

 この会議では、パートナー同士が連携して、新しいアイデアや事業を立ち上げる活動も盛んです。例えば、包装資材会社と製紙所、障がい者就労事業所などの共同開発による、越前和紙の端材をアップサイクルした紙袋などが代表例です。このほか、仁愛大学(越前市)では、学生の企画・運営による「福井SDGs AWARDS 2021」など、SDGsの活動を加速するイベントも行われています。

 今後は、会議に参加する「SDGsパートナー」の活動をさらに支援して、子ども達が先端技術を学ぶ企業体験会や歴史・文化学習など、「ふくい未来人材プロジェクト」を進めていきたいと考えています。

SDGs推進のロゴマークを公募、県民にも浸透

――福井といえば「恐竜王国」でもありますが、「SDGsパートナー」が使用するロゴマークも、恐竜がモチーフですね。こうした親しみやすさや、デザイン性も非常に大切にされているように感じます。

 SDGs推進のシンボルマークは、県民による467件もの応募のなかから、福井の「F」に恐竜と福井県の形を重ね合わせ、SDGsカラーを使用したものに決定しました。高校生が考案してくれたものです。愛称も今年度募集しまして「SDGsの17のゴール」と恐竜が栄えた「ジュラ紀」をかけた「ジュナナ」となりました。ロゴマークは県内メディアでもよく取り上げられ、SDGsの認知度アップに一役かっていると思います。

右は公募で選ばれた福井県SDGsのシンボルマーク、愛称は「ジュナナ」
右は公募で選ばれた福井県SDGsのシンボルマーク、愛称は「ジュナナ」

――SDGs達成のために今後の課題となるのは、どういうことでしょうか。

 課題は、SDGsをいかに県民ひとり一人が「自分ごと」として取り組んでいただくかということ。そのためには、身近な問題について、住民自らに考えてもらうことが大切だと考えています。

 例えば、女性や若者、NPO団体を対象に、地域の課題を解決するためのアイデアなどをプレゼンしてもらい、県が支援金などでサポートする「県民ワクワクチャレンジプランコンテスト」というイベントも、そうした取り組みの1つです。

 また、課題解決に民間企業のアイデアや技術を取り入れることも積極的に進めています。最近取り組み始めた例でいうと、デジタル技術を活用した新しい交通安全対策があります。これまで、通学路などは交通事故が多発しないと危険エリアとして認識できなかったのですが、自動車の挙動を検知するセンサーを車に取り付けることで、急ブレーキや急ハンドルを切った箇所などをアプリ上で確認できます。県民の皆さんにも実証実験に参加していただき、隠れた危険エリアを可視化した「交通安全マップ」をつくる予定です。このように、「公」と「民」が知恵を出し合いながら、地域の課題の解決法を探ることも、SDGsの普及につながると思っています。

杉本 達治(すぎもと たつじ)
福井県知事
杉本 達治(すぎもと たつじ) 1962年、岐阜県生まれ。1986年東京大学法学部卒業、同年自治省(現・総務省)入省。総務省自治行政局行政課企画官、内閣参事官(内閣官房副長官補付)などを歴任。2013年に福井県副知事、2019年に福井県知事に就任(現在1期目)。座右の銘は「人に処すること藹然(あいぜん)」。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/433746/112200064/