「『東京グリーンボンド(外貨)』完売のお礼」――。2020年11月26日、東京都財務局のウェブサイトに、こんな「お知らせ」がアップされた。2017年度から毎年発行されている環境債「東京グリーンボンド」は、都が個人と機関投資家向けに発行しているSDGs債券だ。投資家から集めた資金は、都の環境改善事業に充てられる。知る人ぞ知る人気金融商品になっている東京グリーンボンド。人気の理由と舞台裏について、都財務局主計部公債課長の吉浦宏美氏に話を聞いた。

東京都財務局主計部公債課の吉浦宏美氏(写真:羽切利夫)
東京都財務局主計部公債課の吉浦宏美氏(写真:羽切利夫)

――東京都は2017年度から「東京グリーンボンド」を発行し、調達した資金を自然環境の保全など環境事業に充てています。そもそも、どのような経緯でグリーンボンドを発行したのですか。

吉浦 東京グリーンボンドは、調達資金をSDGs(持続可能な開発目標)に関する事業に充てるSDGs 債の1つで、資金使途を環境事業に限る「グリーンボンド」です。債券発行のきっかけとなったのは、2016年8月に小池百合子都政がスタートしたこと。2015年に国連がSDGsを採択、2016年に「パリ協定」が発効するなど、世界で環境問題への関心が高まるなか、小池都知事は都政においても環境に焦点を当て、課題解決に力を注ぐ方針を打ち出しました。

 グリーンボンドの発行には、「民間からの投資」を呼び込む狙いもありました。都の施策を理解、賛同してもらって、資金を提供していただく。民間投資を促すスキームとして、グリーンボンドには大きな可能性があると考えたのです。

 2016年に、まず「東京環境サポーター債」という名前でトライアル発行し、2017年10月、自治体として初めて、本格的なグリーンボンドの枠組みに沿った「東京グリーンボンド」の発行に至りました。資金の充当先は様々ですが、例えば都の保有施設における太陽光パネルの設置です。東京都では現在、スマートエネルギー都市づくりの一環として、太陽光発電設備の設置を進めていますが、グリーンボンドは重要な財政的基盤になっています。この他、河川の水辺空間の緑化や都市公園の造成などといった「自然環境の保全事業」や、豪雨対策として進められている環状七号線地下の広域調節池整備を始めとする「気候変動への適応事業」など、幅広い分野、プロジェクトが対象となっています。

* 2016年に発行した個人向け都債「東京環境サポーター債」100億円は、売り出し初日に完売。
■東京グリーンボンドの概略
■東京グリーンボンドの概略
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――発行以来、高い人気が続いています。

吉浦 東京グリーンボンドは、個人向けと機関投資家向けに発行しており、個人向けは東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県にお住まいか在勤・在学の方、同エリア内に主たる事務所・営業所を有する法人・団体を対象としています。また、機関投資家向けは、大口の法人投資家を対象にしています。

 これまで発行した個人向けは期間(満期)5年で、発行額は毎年約100億円。例年、購入件数は5000件を超える状況が続いています。当初の想定を超える関心と評価をいただいています。

 機関投資家向けは、これまで期間(満期)5年と30年の2年限で発行しており、一般の事業会社をはじめ、金融機関や各種団体など幅広い投資家からご支持をいただいています。昨年度(2019年度)の発行は100億円でしたが、今年度(2020年度)は200億円に増やしました。

40歳未満の若い世代も購入、資金の使途に高い関心

――どのような方が購入しているのですか。

吉浦 個人向けの購入金額のボリュームゾーンは、日本円で概ね10万円から100万円程度です。購入者は一定の資産をお持ちの高齢者の方が中心ですが、40歳未満の若い層もいらっしゃいます。若年層の関心を高めるため、PR動画を作成したり、証券会社と協力してSDGs債のセミナーを開催したりと、若い世代向けの販促活動も行ってきました。

東京グリーンボンドのポスター(資料:東京都)
東京グリーンボンドのポスター(資料:東京都)
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――2020年度の個人向けは、豪ドル建てでした。豪ドル建てにした理由を教えて頂けますか。

吉浦 2017年度は豪ドル、2018年~2019年度は米ドル、そして2020年度は再び豪ドル建てによる起債となりました。外貨建て債券としているのは、主に金利が理由。国内の超低金利傾向は続いており、円建てによる好金利の提供は難しい環境です。しかし、米ドルや豪ドル建てであれば、一定の金利を確保することができます。2020年度は米国で大統領選があり、先行きが見えにくかったなどから、豪ドル建てを選択しました。

――国内債券に比べ高い金利を享受できる外貨建て債券ですが、それでも東京グリーンボンドの利率は0.41%(税引き前)です。同じ期間5年の個人向け国債(0.05%、税引き前、円建て)よりも高い水準ではあるものの、外貨建て債券には為替リスクがあり、必ずしも有利だとは言い切れません。金利以外の人気の理由をどう分析していますか。

吉浦 1つ目は、都を応援してくれているファンが多いということ。東京都はグリーンボンド以前にも、都民などを対象とした「個人向け都債」を発行し、根強い人気を得ていました。同都債は、公共交通の整備などを発行目的としていましたが、「自分のお金を、目に見える形で、地元に役立てたい」と考える人は多いようです。

 もう1つは、資金の使途が「環境」であること。投資の世界では、環境、社会、ガバナンスを重視して投資先を選ぶESG投資が進んでいます。「グリーンボンドだから」購入している方は多いのだと思います。

 購入者の傾向として挙げられるのが、投資の意義に重きを置く人が多いこと。発行後、毎回アンケートを実施していますが、「東京グリーンボンドに何を希望しますか」との質問には常に「資金の使途について知りたい」という回答が上位に入っています。

■東京グリーンボンドの購入理由と希望
購入理由
・信用力の高さ 40.1%
・資金使途への共感 36.3%
・都の政策の応援 23.9%
発行意義にどの程度共感したか?
・共感した(「大いに共感した」「少し共感した」含む) 92.1%
東京グリーンボンドへの希望
・資金使途について知りたい 45.6%
・定期的に発行して欲しい 25.4%
・債券の安全性について知りたい 24.2%
(第4回東京グリーンボンド(外貨)購入者アンケート結果より)
■「東京グリーンボンド(外貨)」の発行概要
年限(通貨)/回号 5年(豪ドル)/第4回
発行額 1億3900万豪ドル(100億円相当)
利率 年0.410%(税引後利率 年0.326%)
売出期間 2020年11月20日から12月7日まで
利払日 年2回/6月・12月の2回
償還日 2025年12月5日
申込単位 1000豪ドル単位(1000豪ドル以上)
購入限度額 1人または1団体当たり500000豪ドル
購入対象者 東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県に在住または在勤・在学の個人の方、同エリア内に主たる事務所・事業所を有する法人、団体
(注)数字は第4回債のもの(2020年発行)。現在は購入できない。

「需要があるから発行」は早計

――2020年には、新たに長野県と神奈川県もグリーンボンドを発行しました。世間のSDGsに対する関心も高いことから、新たなファイナンス手法として期待する自治体も多いようです。

吉浦 個人や機関投資家の間で、SDGsやESG投資に対する関心が高まってきており、東京グリーンボンドがその恩恵を受けているのは確かでしょう。「環境事業への理解を通じて都民のオーナーシップ意識を喚起する」ことを取組意義の一つとして掲げるグリーンボンドですが、都政に関心を持ってもらえるチャネルが増えたことは大きな成果です。

 しかし「需要があるから」といった理由だけで発行を決めるのは、少し早計かもしれません。グリーンボンドの発行は、手間もかかるからです。例えば、発行に当たっては、通常の信用格付けに加え、国際資本市場協会(ICMA)が定めたグリーンボンド原則に則り、外部評価を受けることが推奨されます。東京グリーンボンドは、海外の評価機関から「原則に適合」と認められましたが、評価項目は多岐にわたり、評価を受けるまでの過程では、紆余曲折もありました。

■東京グリーンボンドの主な発行フロー
青色文字は通常の地方債にはない手続き
発行準備
  • 発行計画の検討
  • 調達資金の充当対象プロジェクトとプロジェクト評価・選定プロセスなどの検討
  • 見込まれる環境効果の算定
  • 格付け取得
  • 引受会社の選考
  • 外部機関による評価の取得
  • IR
  • ドキュメンテーション
  • プレ・マーケティング
債券発行
  • 発行条件(発行額、利率等)の決定
  • 投資家からの払い込み
債券発行後
  • プロジェクトの実行
  • 環境効果の算定、レポーティング
  • 投資家への利払い、償還
(環境省「グリーンボンド発行のフロー」と東京都への取材を基に作成)

 加えて、グリーンボンドは売れば終わりという商品ではなく、プロジェクトを通して得られた社会的リターンに関する説明責任もあります。過去4回の発行で好評を得た東京グリーンボンドですが、まだまだ発展途上段階です。自治体が発行する債券として、どのような商品性が適切なのか。人気にあぐらをかくことなく、他の自治体と情報を共有しながら、グリーンボンドのあるべき姿を探っていきたいと思います。

東京グリーンボンドの起債に関わった東京都財務局主計部のメンバー。左より、朝光慎也氏、北尾望氏、鈴木孝典氏、吉浦広美氏(写真:羽切利夫)
東京グリーンボンドの起債に関わった東京都財務局主計部のメンバー。左より、朝光慎也氏、北尾望氏、鈴木孝典氏、吉浦広美氏(写真:羽切利夫)
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吉浦宏美(よしうら・ひろみ)
東京都財務局主計部公債課長
1998年東京都入都。産業労働局商工部商工施策担当課長、交通局総務部お客様サービス課長などを経て、現職。「東京グリーンボンド」をはじめ、都債の企画、発行などを担当。

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