2018年に年間観客動員数が過去最高の203万人に達した横浜DeNAベイスターズ。2012年から右肩上がりに成長を続け、横浜スタジアムでの主催試合は常に満員。2017年にスタジアムの改修を始めており、2020年3月までに収容能力を約3万5000人へ増強する計画だ。「スタジアムが都市空間に影響を与えるレベルになった」と横浜DeNAベイスターズ社長であり横浜スタジアムの社長でもある岡村信悟氏。「横浜スポーツタウン構想」を掲げる岡村氏が考えるまちづくりの方向性について聞いた。

(写真:加藤康)
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――岡村社長は、かねてより「グローバル社会になって、逆にローカルの価値が高まる」と発言されています。

 グローバル化とローカル回帰が表裏一体で進む。基本的にはこれが21世紀の社会の流れだろうと思います。

 グローバル化が進むと、人々が、自分のアイデンティティーに関してより敏感になる傾向があると思います。今は、生活がGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)と呼ばれる米国のプラットフォーマーのサービス基盤上に成り立っています。情報の波が日々押し寄せてくるなかで、自分のアイデンティティーに不安を持つ、そんな時代になってきています。

 グローバル化の波からは誰も逃れられないし、デジタル技術の利便性から離れることもできません。しかし、同時にリアルの体験やつながりの価値、つまり、無駄、遊び、気晴らし、楽しみといった、人間にしかできないことの価値が見直されていく。グローバルだけで“宙に浮く”のではなく、ローカルの価値が大切にされるようになる――。ローカルと分かちがたく結びついたコンテンツがグローバルにもつながっていく。プロ野球も「グローカル」という文脈の中で語られるようになってきている、と考えています。

プロ野球は「国内向け」に限定したコンテンツではない

――「地域密着」であるというだけでなく、ローカルから全国に広がっていくというイメージでしょうか。

 日本のプロ野球は、かつて巨人(読売ジャイアンツ)が全国どこでも絶大な人気を誇り、巨人の試合をテレビで見るのが、一般的な楽しみ方でした。20世紀型の放送によってプロ野球が享受されていたのです。私も小さい頃は巨人戦ばかりを見ましたし、夕方には同球団を題材にしたアニメに夢中でした。

  その当時は横浜大洋ホエールズも阪神タイガースも“アンチ巨人”というくくりで受け止められていて、地域の代表という色合いは薄かったように思います。みんなが同じヒーローを追いかけるという、典型的な高度経済成長期のコンテンツの在り方がそこにはありました。

  しかし、その消費スタイルはもう役割を終えたのです。生活が豊かになったり、海外の文化がより多く流れ込んできたりして、日本のスポーツ文化も多様になり、プロ野球はかつてのような「誰もが見るコンテンツ」ではなくなりました。

  かといって、野球文化が衰退したかといえば、決してそうではない。新たな形で享受されるようになっています。広島の人が広島東洋カープを、福岡の人が福岡ソフトバンクホークスを応援するように、地域に支えられているということが個性になる。「カープ女子」は全国にいますが、では広島東洋カープがどこのチームかといえば、これは間違いなく「広島のチーム」ですよね。

  実はメジャーリーグもそうで、まさに“場”とチームとが一体になっている。ヤンキースは全世界にファンがいますが、ニューヨークがあるからこそヤンキースなわけです。

――そして地元ファンは球場に駆け付ける、というわけですね。

  ファンはテレビ中継を見る一方、本拠地のスタジアムで観戦することを大切にするようになりました。だから球団経営もコンテンツだけでなく、そのコンテンツが乗る“場”が大切になってきます。

  ベイスターズも横浜スタジアムという“場”を適切にコーディネートしていけば、そのプラットフォーム上に多くの人が乗ってきます。まさに、地域の“ソフトインフラ”として機能して、地域とともに持続的に発展していくことができる。SDGs(持続可能な開発目標)の考え方とも通じるような形になっていくでしょう。チームとファンや地域の間のパイプを広げたり、メンテナンスしたりすることが私たちの役割です。相互交流によってエネルギーが循環して、チームは存続し、ファンも幸せになり、地域の活性化も望めるはずです。

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横浜スタジアムは2020年の完成に向けて増築・改修工事を進めている(関連記事)。左右両翼の観客席を増やすほか、屋上テラス席、個室観覧席、2階回遊デッキを新設するなど“場”としての魅力アップを目指す。左はリニューアル後の全体イメージ。右は屋上テラス席のイメージだ(資料:横浜DeNAベイスターズ)

――政府は2020年に訪日外国人観光客4000万人を目指すなど、観光先進国を標榜しています。インバウンドについてはどのように捉えていますか。日本のプロ野球は国内向けのコンテンツではないかと思うのですが。

 私は、国内向けだけのコンテンツだとは思っていません。横浜スタジアムが外国人観光客にも喜ばれる観光地になると確信しています。ニューヨーク・ヤンキースのヤンキー・スタジアムと同じです。野球やメジャーリーグを特に好きなわけではなくても、ニューヨークを訪ねたら、せっかくだからヤンキースの試合を見てみようと思う人は多いでしょう。街のど真ん中であの賑わいですから、「いったい、どうなっているんだろう」と興味を持って、スタジアムに行ってみたくなると思うんです。ハマスタもそうやって遠方から人を呼び込める場所になりつつあります。インバウンドにも必ず効果があるはずです。

「横浜スポーツタウン構想」で南北に都市軸を

――ベイスターズは、スタジアムを核としたまちづくりを目指す「横浜スポーツタウン構想」を掲げていますが、あらためてその方向性を聞かせてください。

 これまではスタジアムの賑わいはスタジアムに閉じていましたが、今はスタジアムの敷地でもある横浜公園との連携を進めています。さらにここに賑わいの(南北の)縦軸をつくることを目指しています。横浜港大さん橋から日本大通り、そして大通り公園という軸です。その中心となる関内の旧市街地では、横浜市庁舎がみなとみらい地区に移っていく中で再開発されていきます。

  さらに、関内駅の南側では横浜文化体育館の建て替えが決まっており、旧横浜総合高校の敷地と合わせてメインアリーナ、サブアリーナを整備する計画です。教育文化センター跡地に関東学院が設置する「オープンナレッジポート」にもスポーツ施設が入ると聞いています。そして我々は「THE BAYS(ザ・ベイス)」というスポーツ×クリエーティブをテーマとした交流拠点を横浜公園の向かいで運営しています。つまり、関内エリアにスポーツ関連の諸施設が集積していく。こうなると、都市の骨格はそのままに、スポーツというソフトウエアをみがき上げることで、より多くの意味を持つ可能性が出てきます。

関内駅周辺地区(赤枠内)の位置(資料:横浜市「関内駅周辺地区エリアコンセプトブック」より日経BP総研が一部加工)
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 我々としては、ベイスターズの魅力を空間的にも内容的にも拡充して、この都市軸に発信していきたいと考えています。取り組みは既に始めていて、ファンは試合だけでなく一日丸ごと、この関内エリアでベイスターズのコンテンツに触れて過ごすことができます。スタジアムで野球を観戦し、交流拠点「THE BAYS」で買い物や食事を楽しみ、オフィシャルホテルである「ホテル横浜ガーデン」に泊まる、といった過ごし方が可能です。

ホテル横浜ガーデン「横浜DeNAベイスターズ・オフィシャルホテルプログラム」の客室イメージ(写真:ホテル横浜ガーデン)
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THE BAYSの外観。横浜市の歴史的建築物を活用。スポーツクラブ、飲食・物販店舗、スポーツ産業の共創に特化した会員制シェアオフィス/コワーキングスペースで構成(写真:日経BP総研)
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 さらに範囲を広げると、スタジアムに足を運ぶ習慣のない市民の方も、ラッピング電車「ベイスターズトレイン ビクトリー号」(東京急行電鉄、横浜高速鉄道)に乗ったり、横浜駅周辺では、「相鉄ジョイナス」で買い物をするなかでオフィシャルショップの「ベイストア」に立ち寄ったり、横浜駅西口の「横浜ビブレ」に掲出された筒香嘉智選手の巨大装飾を見かけたりして、ベイスターズへの関心が高まるかもしれません。地域のソフトインフラとしての広がりをつくって、街中で自然にベイスターズ(関連のグッズやコンテンツ)に触れられるようにしていきたいですね。

――関内駅前からみなとみらい地区に市庁舎が移転すると、横浜スタジアムのある関内エリアのまちづくりは新たな局面を迎えます。

  市庁舎移転後の跡地活用は、空間をどうデザインするかが非常に重要だと思います。もしも我々がまちづくりに参画できるなら、人が歩ける空間づくりを大切にしたい。横浜公園の活用方法も従来の都市公園の使い方とは違ってくると思います。

  現在、関内駅の手前に市庁舎が建っているため、駅から横浜スタジアムを望むことができません。庁舎移転後に街区がどのように利用されるかは分かりませんが、もしも駅からスタジアムが一望できるようになれば、横浜の“玄関口”としてスタジアムの存在感が出てくると思います。

  ヨーロッパの主要都市も東京駅周辺も、人が多く集まる街には広場があります。関内エリアにも、市庁舎街区や(横浜スタジアムのある)横浜公園、日本大通り、そして大通り公園という広場空間から連なる都市軸がある。この南北の都市軸を我々が活性化できれば、元町は元町、中華街は中華街、馬車道は馬車道なりに、それぞれの個性を生かしておのずと発展していくでしょう。魅力的な旧市街があってこそ、みなとみらい21地区の先進的な個性が際立つように、エリア同士が持ち味を補い合う効果も期待できそうです。

公民連携、成功のカギは「偏見を取り除くこと」

(写真:加藤康)
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――まちづくりにおける行政との連携については、どのように考えていますか?

 私自身が行政の出身(2016年まで約20年にわたって旧郵政省、総務省に勤務)ですから、公共領域、公共空間は大きな課題だと認識しています。ベイスターズも営利企業である以上、企業として存続することを第一に考えなければなりませんが、その存続のしかたは、公共領域を支えることによって必要とされ続けるという形にしたいと思っています。私たち民間事業者も公共領域を担えるということを証明したいですね。

 ただ、「餅は餅屋」です。公共領域の事業を我々が手掛けていくには、公共性を追求して営利を考えずに取り組める自治体との連携が不可欠です。横浜スポーツタウン構想も、行政との連携なくしてはありえません。だからこそ、わが社は横浜市と(2017年3月にスポーツ振興と地域経済活性化などに向けた)包括連携協定を結びました。横浜スタジアムの改装に当たっては、市に規制緩和の形でご協力をいただきましたし、THE BAYS事業も、旧関東財務局横浜財務部の建物・中庭を市からお預かりして(15年間の定期建物賃貸借契約)管理・運営しているものです。

――公民の連携を成功させる秘訣のようなものがあるとしたら、どういったことでしょうか。

 行政も企業も同じ人間がやっていることで、あまり身構える必要はないと思います。心に巣食う偏見や懸念をなるべく取り払って向き合うことが大切ではないでしょうか。「民間だから(提案なども)どうせ金もうけのために違いない」「行政の人間は頭が堅い」といった偏見は、連携の障害になってしまいます。

 私たちもこの街に生きる人間であり、お客さんが喜んでくれて、街が盛り上がってくれたら、それが何よりの喜びなんです。行政の人が街に誇りを持ち、横浜が日本一、世界一の街になってほしいと願うのと、根底の思いは同じです。

 お互いにしっかりコミュニケーションを取ることが成功への近道でしょうね。私はよく「オンリー・コネクト」という言葉を使います。英国の作家、エドワード・モーガン・フォースターの「ハワーズ・エンド」の冒頭から借りた言葉で、ただ結びつけさえすればいいという意味です。例えば横浜市の公共セクターの誰かとわが社の従業員など、小さくとも結びつきを一つひとつ増やしていけば、世の中はおのずと変わると信じています。

岡村信悟(おかむら・しんご)
横浜DeNAベイスターズ代表取締役社長
ディー・エヌ・エースポーツ事業本部長、横浜スタジアム代表取締役社長を兼務。東京都出身。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。1995年に郵政省に入省。総務省を経て2016年4月、ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。2016年10月より現職。

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