日本は行政サービスのデジタル化が遅れていると言われている中、ベンチャー企業のグラファーが提供するオンライン申請や行政手続き案内のクラウドサービスが、ここ2年間で80以上の自治体に採用されている。自治体が抱えるデジタル化の課題を解きほぐし、効果の出るデジタル化とよりよい行政サービスを実現するには何が必要なのか、グラファーを創業した石井大地CEO(最高経営責任者)に聞いた。

グラファー Founder & CEO 石井大地氏(写真:日経BP 総合研究所)
グラファー Founder & CEO 石井大地氏(写真:日経BP 総合研究所)

――グラファーは、スマートフォンやパソコンから各種の行政手続きなどができるクラウドサービスを自治体向けに展開し、導入数を伸ばしています。創業者である石井さんの前職は、意外にも教育や医療ヘルスケア、金融などだそうですが、畑違いにも思える行政の分野に、どんなビジネス機会があると感じてグラファーを創業したのでしょうか。

 実は、もともと行政の分野で何かをしたいと思って創業したというよりは、何か事業を立ち上げたいという思いが先にあり、創業時から出資してもらっているベンチャーキャピタルファンドや投資家の方々と事業の種を探していました。そのとき、いろいろなテーマをディスカッションする中の一つに「行政」があったわけです。投資家の方のアイデアだったのですが、私もそのアイデアにピンと来た、というのがきっかけです。

 というのも、なるべく多くの人が困っていることを解決する方が、ビジネスとして可能性があるからです。10万人のためのサービスより、1000万人、1億人のためのサービスの方が、ビジネスの広がりがあります。行政サービスの分野は、日本に住んでいる人すべてといえるほど利用者が多いところに面白さを感じました。

 もう一つ、デジタル化のニーズが高い分野だという点にも注目しました。1990年代や2000年代前半から小売りやゲーム、メディアなど、多くのビジネスがインターネットによってどんどん変わっていきましたが、一方で2010年代になっても、まだデジタル化が始まっていない分野があったのです。その一つが行政でした。「これから最もデジタル化のニーズが高まる分野はどこか?」と考えたとき、当時はまだ「行政のデジタル化」が当たり前のキーワードとは思われていなくて、ある意味、だれも行政のデジタル化に着目していない感じでした。先行者がいないのなら、なおさら会社を立ち上げるにはちょうどよい。そう考えて、グラファーを創業しました。

――起業家の目から見ても、行政の分野は「デジタル化の余地が大きい」と映っていたわけですね。実際のところ、日本の行政サービスはデジタル化が遅れているとよくいわれています。これまで自治体のデジタル化を支援してきた経験からして、その原因は何だと思いますか。

 行政サービスのデジタル化が遅れている理由は2つあると思っています。

 一つは、時期的な問題です。当社も手掛けているオンライン申請サービスは、いまでこそ多くの自治体で導入され始めていますが、もともと2000年代前半から提供されていたサービスです。ただそれらは当時、ほぼゼロといっていいほど利用されていませんでした。実際に自治体の方々からうかがった話なので、そう断言できます。

 理由は、オンラインサービスを市民が使いこなせる時代ではなかったからです。当時、インターネットを使うにはパソコンが必要でしたが、2000年代前半にパソコンを積極的に使っている人は1000万人とか2000万人くらいしかいませんでした。先進的な1割、2割のパソコンユーザー向けにオンラインの行政サービスをつくったところで、それほど使われるものではありません。利用者が少なかったことから自治体側も力を入れることなく、現在に至っています。つまり、行政サービスをデジタル化するには、時期が早すぎたのです。

 風向きが変わったといえるのは、スマートフォンの普及率が50%を超えた2013年以降です。そこからわずか数年で9割くらいの人がスマホを持つようになりました。そのときはじめて、ほとんどの市民がインターネットを使える時代になり、オンラインの行政サービスを受け入れる下地ができました。行政サービスのデジタル化は、この環境が整うのを待つ必要があったと考えています。

 もう一つは、IT(情報技術)の知見を持ち、業務プロセスを変えていける人材が自治体にいないことです。この点はいまだに何も解消していません。ただし、それを「自治体の課題」と捉えるのは酷な話でしょう。そもそも民間企業でも、ITとビジネスの両方が分かっていてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進できる人材はほとんどいません。日本全体でDX人材が足りない、という状況です。