ソーシャルベンチャーのAsMama(アズママ、横浜市)は、子どもの送り迎えや預かりを知人・友人に頼る「子育てシェア」の仕組みを開発。2013年にスマートフォン用アプリをリリースし、登録会員数は約6万人に上る(2018年12月現在)。同サービスの導入で同社と協定を結ぶ自治体も現在は全国6つまで増加した。AsMama代表取締役CEOの甲田恵子氏に、自治体との連携事業や今後の展望について聞いた。

(写真:本稿すべて加藤康)

――「子育てシェア」の仕組みや工夫した点について教えてください。

  子育てシェアは、ご近所の頼り合いをインターネットやアプリを使ってシステム化したものです。子どもを預かる場所は自宅や公園、フードコートなど。必要なときにご近所の「友だち」にすぐ頼めます。

  ポイントは、アプリで知らない人とつながるのではなく、先にリアル(オフライン)のお付き合いがあることを前提としてオンラインの子育てコミュニティをつくっていることです。子育て世帯の方が友人・知人をアプリから「招待」して、システム上でもつながるという仕組みです。これなら、お互いに安心ですよね。

  もう1つ、1回500円以上の「お礼」を制度化しているのもポイントです。少額でもお金を払うことで、気がねしたりトラブルになったりという事態を防げます。

  例えば子育て中のお母さんが、歯が痛くて歯医者に行きたいから1時間だけ子どもを預けたいと思ったとき、数千円の代金と往復の交通費を支払ってシッターさんに来てもらうのかといえば、それは現実的ではないですよね。近くにいる知人に、相手にあまり負担にならない範囲で、薄謝で頼めたら一番いい。そういうことをシステム化できないかなと考えました。

――リアルな知り合いだけというのは確かに安心ですが、コミュニティを広げる仕掛けも必要になりそうです。

  地域の人同士が出会えるような「交流会」を開催しています。当社事務局が直接開催するほか、当社の無料研修を受けた地域のコミュニティ・リーダー「AsMama認定サポーター」も、自主的に交流会を開きます。認定サポーターには、活動内容に応じてAsMamaが奨励金を支給しています。現在は全国で812人(2019年1月現在)の認定サポーターがいます。

――子育てシェアのときの「お礼」から手数料を取っていないと聞きました。どこから収益を上げるのですか。

  はい、子育て世帯からはお金をいただかない事業モデルです(サービス手数料やアプリの登録料、利用料などはすべて無料)。交流会などをメディアとし、企業の宣伝やマーケティングなどに役立てることで、企業から収益を得ています。

  主なクライアントは、食品・日用品メーカー、保険会社、生協、教育関連企業などです。不特定多数へ一方的に宣伝するのではなく、地域の人が集まって聞く耳を持ってくれるので、企業の多種多様な課題解決に役立ちます。

――企業はAsMamaのコミュニティのどこに情報発信ニーズを見出しているのですか。

  立ち上げてしばらくは事業が思うように進まず、街角に立って1000人に声をかけ、ニーズを調べたこともあります。そのとき、子育て世代のニーズは確かにあるな、と確認できました。

  それからもう一つ、子育て世帯には情報が不足しがちだという実態を知ったんです。例えば、住宅購入を検討していても金利や為替のことはよく知らなかったりとか、声の大きなママ友の「あれには発がん物質が含まれている」という不確かな話をうのみにしてしまったりとか、必要な正しい情報を収集できていないケースによく出くわしました。

  こうした状況下にある子育てコミュニティに、最新の研究開発成果などを分かりやすく伝えたい企業広報などをマッチアップすれば、企業から収益が得られるし、生活者にもメリットがあると考えました。その発想にたどり着いて、ようやく収益モデルを構築することができました。

地域共助の仕組みは3年でつくれる

――いくつかの自治体と協定を結んでいますが、収入としては、そうした自治体からの補助金もありますね。

  資金面では、初期に地域のコミュニティ・リーダーの発掘・育成などに関わるコストがかさむので、最初の3年間は自治体として予算を割いてもらえるように交渉します。内閣府の地方創生推進交付金や総務省のシェアリングエコノミー活用推進事業など、適用されやすい補助制度もいくつかあります。また、2017年に当社が総務省の「ICT地域活性化大賞」で大賞(総務大臣賞)をいただいて、タイアップ補助金(受賞事例の全国各地域への横展開を同省が支援)も適用できるようになりました。

[画像のクリックで拡大表示]
「ICT地域活性化大賞」(2017年)受賞時の事業概要説明(資料:総務省)

  年度で決まった予算が付くのはありがたいです。短期的な収益の状況に左右されず、計画的、安定的に活動できます。eラーニングによる研修を苦にするシニア世代にも、現地へ人を派遣して実地講習を受けてもらうといった対応が取れるので、人材も早期に育ちます。

――3年でどんな地域も自走(補助金なしで採算が合う)状態になりますか?

  どの地域も1年目の種まきが終わって2年目に入る頃に人材が集まってきて、3年経つ頃には交流会が地域のメディアとしても機能するようになります。採算については、子育てシェアのサービス全体で捉えており、地域ごとの収支は必ずしも重視していません。

――ほかに、自治体と組むメリットはありますか。

  主に、地域への周知や地元の関連団体との連携にご協力いただいています。信頼感があるので、人的ネットワークの立ち上がり方がとてもスムーズです。チラシの掲示や広報誌への掲載など、自治体のツールを使った周知も効果が大きいですね。

――AsMamaがこれまでに協定を結んだ自治体は、奈良県生駒市を皮切りに、秋田県湯沢市、富山県舟橋村、滋賀県大津市、長崎県島原市、さいたま市美園地区。都市や農村など環境は様々ですが、子育てシェアの使われ方も異なるのでしょうか。

  都市部では、お母さんが急に風邪を引いた、仕事帰りの電車が止まってしまった、といった「今日、今このとき」の利用が多いですね。一方で農村では、普段は自宅で子どもをみているお母さんが、収穫などで忙しい期間だけ近所の人に一定時間預かってもらうこともあるようです。湯沢市のような雪の多い地域では冬場、中学生や高校生も自動車で送り迎えする必要があります。これを近所で1台にまとめるのにもアプリが使われています。

既存の子育て支援サービスとは競合しない

――最初の自治体タイアップ例となった生駒市は、どこから連携の話が持ち上がったのですか。

  生駒市には、女性の起業を支援する団体があり、その団体の方がAsMamaを見つけてくださいました。生駒市の公認サービスにならないかと小紫雅史市長に直談判してくださったそうです。市長に話を聞いていただいたら、「これはいい」「すぐにやりましょう」「協定だ」「記者発表だ」とトントン拍子。2015年の10月末に面会して16年1月には記者発表をしました。

  実は、生駒市からは予算をいただいていません。自治体との連携はぜひ実現したいところで、広く展開していくためにも最初の一例が早く欲しかったからです。

――連携するときに、自治体側にどんなことを望みますか。

  子育てシェアは、一時託児所や病児保育所、ファミリーサポートなどの行政サービスや、地域に既にある民間サービスと競合するものではなく、共存していけるものです。利用者からはお金をいただいていませんし、中立的な立場ですから、同じような志を持った地域団体の情報を届けるハブになることもできます。

  ですから、自治体の担当者の方には、私たちが働きかけるべき相手(連携すべき地域のサークル、団体)を明確にして同行してもらえると話が早いですね。逆に「勝手に行ってみてください」と突き放されてしまうと、タイアップの意義が薄れてしまいます。

――自治体には、こちらから売り込みを掛けているのですか。

  自治体へは一時期、私たちから働きかけていましたが、なかなか思うような結果にならないので今はやめています。

――それはどうしてですか。

 「(こちらから売り込むと)営利企業が持ちかけてくる話だから金もうけ目当てに違いない」という偏見は払拭しがたいものがあります。AsMamaは売り上げがどんなに伸びても、利益を次の活動へ注ぎこむので、利益はずっとほぼ横ばい。そういうことが分かる財務諸表まで持ち込んで話したこともありましたが、なかなか難しいです。

  より多くの自治体に興味を持っていただき、声をかけてもらえるようにするために何ができるのか。これからの課題の一つです。

団地やマンション単位での子育てシェアも

[画像のクリックで拡大表示]

――デベロッパーと組んで、団地やマンションなどの単位で子育てシェアを導入する動きも出てきていますよね。

  2016年末からUR都市機構(都市再生機構)と連携し、横浜市のUR賃貸住宅「港北ニュータウンメゾンふじのき台」(約30年前に竣工した15棟から成る大規模マンション)で子育てシェアを導入しています。ここでは集会所でマンション住民と地域住民が一緒に参加できるイベントを開催するなど、地域交流の活性化に努めています。ここでの活動も2年目に入って、コミュニティ・リーダーは10人ほどが活動中です。月に2回の交流会があり、それ以外にもランチ会など小規模なイベントが頻繁に行われています。今後は周辺の商業施設などとのコラボを目指す一方、企業の福利厚生として産休・育休に入る社員と支援者のマッチングも構想しています。

  大阪府吹田市にある関電不動産開発の大型マンションでも連携が決まっています(マンションは、吹田市千里山にあったUR都市機構の団地跡地を開発したもので2019年3月販売開始)。家事代行マッチングサービスの「タスカジ」や、本を媒介にしたコミュニティづくりの仕組み「まちライブラリー」と共に、当社の子育てシェアも導入されることになっています。

  最近、住宅選びに関して、自宅と保育園や学童保育施設が近い「育住近接」というキーワードが注目されていますよね。これを実現するためのツールとして、子育てシェアへの注目も高まっているのではないでしょうか。

  こうした不動産物件単位での導入では、とても円滑に利用されているように感じます。お互いの顔が見える距離感のコミュニティであることが、導入がスムーズな要因かもしれません。

――子育てシェア事業は、何を指標に成果を評価していますか?

  私たちのミッションである「地域共助の促進」です。アプリを使って送迎や託児が行われた回数を指標としていますが、それだけで測れるものでもありません。認定サポーターの数、交流会に参加した人の数、サポーターが自主開催した交流会の数、アプリ登録数なども合わせて指標にしています。

アプリに「おすそわけ」機能など追加、参加ハードル下げる

――取り組みたい課題や改善点はありますか?

  当面はアプリの機能を拡充したいですね。共助はこれまで送迎・託児に特化してきましたが、これまでも実際には行われてきた「おさがり」「おすそわけ」「一緒に食事」といったものもアプリの機能として盛り込みます。いきなり送迎・託児はハードルが高いと感じる人に、段階を踏んで利用してもらえるのではないかと思います。並行して、テキストチャット機能の追加や多言語化も進めていきます。

――今後について、中長期的にはどのような構想がありますか?

  子育てシェアの仕組みを応用して、高齢者の生活のちょっとした不便を地域の共助で解決するような取り組みを考えています。

  「待機児童」という言葉も、もう10年もしたら死語になるかもしれません。一方で、高齢者がますます増えてくるなかで、その人たちが地域で必要とされながら生き生きと暮らしていくことが、より重要な社会課題になってきます。

  介護や生活保護は行政や専門事業者の領域ですが、生活支援に関しては高度な専門知識は必要ないので、地域共助を促進するオンラインサービスも有効なはずです。電球交換ができなくなったり、2階の物置が整理できなくなったりするのを、ご近所同士でフォローできるといいですよね。

  まずは子育てシェアにしっかり注力して、次はシニアをターゲットに。社会の今一番の課題を、マッチングの仕組みで解決していきたいと思っています。

甲田恵子(こうだ・けいこ)
AsMama代表取締役社長
甲田恵子(こうだ・けいこ) 大阪府枚方市出身。1998年に日本環境安全事業に入社。2000~2007年、ニフティにて海外事業企画、IRを担当。ITベンチャーのngi group(現在のユナイテッド)広報・IR室長を経て2009年11月にAsMamaを設立し現職。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/021100037/