「メガソーラービジネス」2020年1月23日付の記事より

固定価格買取制度(FIT)の対象となる再生可能エネルギーのなかで、小水力発電は、出力200kW未満の新設で売電単価が34円/kWhと比較的高い水準が維持されている。太陽光・風力に比べて設備利用率が高く、ベース電源として期待されるものの、FIT開始後の新規導入量は200MWにも満たない。全国小水力利用推進協議会の代表理事を務める上坂博亨・富山国際大学教授に、小水力発電の現状と課題、将来展望について聞いた。

「1MW未満」は100MW程度

全国小水力利用推進協議会の上坂博亨代表理事・富山国際大学教授
(撮影:日経BP)

ーーFITでは、30MW未満の水力発電所を「中小水力」として、4区分(200kW未満/200kW~1MW/1M~5MW/5M~30MW)ごとに売電単価を設定しています。全国小水力利用推進協議会では、「小水力」をどのように定義していますか。

上坂 「小水力発電」に明確な定義はありませんが、2002年にFITに先駆けて導入された再エネ推進制度(RPS法)では、定格出力1MW未満を「小水力」として導入促進の対象にしたこともあり、「1MW未満」を1つの目安にしています。その後、2012年7月に施行されたFITでは、水力に関しては30MW未満が対象になっていますが、現実的に新規開発の件数が多いのは1MW未満になっています。

 技術面での小水力の特徴は、大規模なダムを伴わない「流れ込み式」、つまり、水を大規模に堰き止めず、もともとの落差を利用する手法が基本です。そのため、1MWを超えるような開発が可能な立地は少なく、また、メガワット(MW)クラスの設備規模では建設費用が数十億円になるため、投資資金の調達やファイナンスのハードルも高くなります。

 ただ、「小規模」と言っても、太陽光のような「低圧」連系は少なく、50kW以上の高圧連系案件がほとんどです。新規開発では、100kW台と数百kW程度のプロジェクトが多くなっています。MWクラスまで大規模化の進む風力や太陽光に比べると、出力は小さいですが、設備利用率が50~90%と高いため、太陽光発電と比較した場合、同じ設備容量(kW)なら5~8倍の電力量(kWh)を発電できます。

 例えば、出力200kWの小水力発電で、1MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)と同等かそれ以上の電力量を生み出せることになります。

ーーFITがスタートして8年ほど経ちますが、1MW程度までの小水力発電の導入状況を、どのように評価していますか。

上坂 経産省の公表している30MW未満までの「中小水力」の導入量は2019年6月時点で約9.8GWで、FIT導入前の約9.6GWから、約0.2GW(約200MW)増えています。このうち、1MW程度までの「小水力」の新規導入は100MW程度と見ています。

 やはり、太陽光、風力に比べると、適地は限られますし、利害関係者の調整など、ある程度の時間がかかります。それでも、潜在的な開発余地はまだまだ多いと考えています。

包蔵水力量は3GW

上坂 基本的に流量と落差があれば、水の流れをエネルギーとして利用でき、この潜在量を「包蔵水力量」と言います。日本は、雨や雪がよく降り、山地が多いので、世界的にも「包蔵水力量」が豊かです。全国小水力利用推進協議会の試算では、1MW以下の小水力発電の分野で、未開発の包蔵水力量を3GW(300万kW)と概算しています。

 潜在資源が大きいにもかかわらず、これまで売電事業としてほとんど開発されてこなかったのは、小規模ゆえに経済性に課題があったこと。そして、河川法など法的な制約、そして地域関係者の理解を得るのが簡単ではなかったからです。

 これらの課題のうち、FITによって、経済性の問題がクリアできたことは、たいへんな追い風で、新規開発が動き出し、導入量も増えています。

 実は小水力は、昔から脱穀や籾摺りなど農業の動力源として使われてきました。「売電事業」として開発され始めたのはRPS法が施行されてからです。ただ、同法では売電単価が電力会社との相対で決まり、卸電力市場より安い8~9円/kWhというケースがほとんどで、開発できたのは限定的でした。FITによって、売電単価はRPS法当時に比べて3~4倍に上がったわけですから、FITの貢献度にはたいへん高いものがあります。

 小水力発電の開発コストは、プロジェクトごとに大きく異なりますが、FITにより事業性を持って開発できる立地が大幅に広がったのは言うまでもありません。

ーーとはいえ、国内小水力が持つ包蔵水力量に比べると、実際の導入量は大幅に少ないのが実情です。普及拡大に向け、解決すべき制約は何ですか。

上坂 開発速度が期待ほど上がらないのは、先ほど挙げた課題のうち、依然として残っている課題があるからです。法的な課題としては、河川法に基づく「水利権」がありますが、これは、FIT制度のスタートと並行して、国土交通省が前向きに取り組んだおかげで、大きな制約要因ではなくなっています。

 開発に時間がかかる最大の要因は、「地域の合意」になっています。例として、富山県内の小水力の開発状況とその主体について説明しましょう。

 富山県は、小水力の多い地域の1つで、FIT以前の稼働も含め、現在50件弱が稼働し、合計出力は約17MWに達しています。これらの発電事業者の主体を多い順に挙げると、土地改良区が20カ所、富山県が10カ所、市町が8カ所、電力会社が7カ所、民間が4カ所などとなっています(図1)。

図1●富山県内で稼働中の小水力発電所の事業主体
(出所:上坂教授の資料を基に日経BP作成)
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「地域の合意」が課題

上坂 土地改良区が最も多いのは、農業用水を管理し、自身が利害当事者のため、用水を利用した発電事業を計画・運営しやすいからです。

全国小水力利用推進協議会の上坂博亨代表理事・富山国際大学教授
(撮影:日経BP)

 また富山県内では、県や市など行政による公営事業として早くから小水力が開発されてきました。この場合、収益は広く地域に還元されるため、理解が得やすくなります。

 これらの事業主体に比べ、企業や住民など民間による開発が4カ所に留まっているのは、やはり「地域の合意」を得るのに時間がかかるためです。

ーーメガソーラーの開発でも、地域外の資本が投資して利益を吸い上げる「植民地型」に対しては、反対運動が起きるケースがあります。

上坂 そうですね。民間主体のプロジェクトにも、地域の人が取り組む場合と、地域外の企業などによる場合の2タイプがあり、当然、地域外に売電収益が流出してしまうケースでは、地域社会には抵抗感が強くなります。

 ただ、地域の人たちが主体になった場合なら、すんなりとプロジェクトが進むのかというと、必ずしもそう簡単ではありません。

 「地域の合意」を得るうえで、問題になりやすいのが、「内水面漁業権」です。内水面漁業とは、河川や湖沼などの内水面で行われる漁業や養殖業のことで、これらを行う権利は、河川や湖沼周辺地域の共有財産になっています。

河川の漁業権で交渉

上坂 民間主体により、河川で小水力発電を行う場合、内水面漁業権に対する補償がネックになることがあります。地域外の主体の場合、この問題を乗り越えて前に進めるには、補償金額の多寡を巡る「交渉」になります。一方、地域の人が小水力事業を行う場合、漁業権で利益を得るのは「同じ地域の仲間」になるので、補償金額の問題ではなく、話し合いなどによる「合意形成」を目指すことになります。

 地域外の主体との「金額交渉」では、両者が納得する水準に至るのは容易ではありませんが、地域の人同士による「合意形成」も簡単ではありません。特に地域内に小水力の推進で強いリーダーシップも持つ人がいない場合、仲間同士だけに様子を見合ってしまい、なかなか前に進まないケースを多く見かけます。

 つまり、民間主体の場合、地域外からの投資であっても、地域の人による開発であっても、事業化までには時間がかかるのです。当初、FITによって、民間主体の小水力開発が進むと期待されましたが、それほど実績が増えないのは、こうした背景があります。

ーー小水力の主体には、さまざまなケースがあるとのことでしたが、今後のあるべき小水力事業をどのように見ていますか。

上坂 風力や太陽光などの再エネは、大規模化することでコストを下げ、国のエネルギー政策で主力電源を目指すところまで成長してきました。しかし、小水力は、ダムのような大規模開発ではなく、小規模な施設で安定的な電力を生み出すことが特徴になっています。

 「主力電源として国家のエネルギー供給を担っていく」というような志で大上段に構えているわけではありません。

 経済産業省は、FIT見直しの議論の中で、今後の再エネ推進の在り方に関し、大規模化による「競争電源」と、小規模な「地域活用電源」に分ける方向を示しています。これは、世界的な再エネ普及の動向を見ても、的を射ています。

 再エネ先進国のデンマークが典型的です。かつて同国では、農民の出資により農村に陸上風車を建ててきました。しかし、再エネの大量導入期に入ると、風車は巨大化し、新規開発の主流は大規模な洋上風車に移りました。そうなると開発の主体は、個人ではなく大資本が担うようになってきました。

 そうしたなかでも、デンマーク政府は、洋上風力と並行して、地域の陸上風車には地域住民の出資を推進するなど、地域主体の電源としての位置付けを維持しています。

 つまり今後、再エネは、大資本による大規模開発と、地域資本や住民を主体に開発される小規模な電源に2極化していくのです。小水力発電は、後者の「地域活用電源」として地域を支えていくための電源であることは明らかです。

売電収益で「合掌造り」を守る

ーー国内の小水力で、デンマークの「農村風力」のように、地域住民主体によるプロジェクトは出てきていますか。

上坂 私も関係し、2016年11月に運転を開始した富山県南砺市上平地区の「小瀬谷発電所」は、小瀬集落の有志によって企画・建設された160kWの小水力発電所です。

 同地区には、世界遺産として登録された「五箇山合掌造り集落」があります。小瀬集落にも県指定重要建築物の合掌造り家屋がありますが、茅葺屋根の葺き替えに多額の費用がかかることもあり、10軒あった合掌造りは2軒にまで減っていました。

 そこで、小瀬谷支流の流れを利用した小水力発電を建設し、その収益を積み立てておき、茅葺屋根の葺き替え費用に充てるというアイデアでプロジェクトが立ち上がり、富山国際大学も協力して、運転開始にこぎ着けました。

 160kWの小水力が生み出す売電収益は年間で3000万円以上になります。過疎化の進んだ集落にとって、これだけの新たな収入源は大きなインパクトがありますし、160kWの出力を得られれば、200軒以上の電力需要を賄えるだけの発電量になります。

 地域主体で開発し、地域に利益を還元できる仕組みは、いろいろな意味で、地域社会に活力を与えてくれます。小水力は、国のエネルギー政策というより、地域社会のために大きな意味を持つ電源になるのです(図2)(図3)。

図2●富山県南砺市の「小瀬谷発電所」事務所
(出所:全国小水力利用推進協議会)
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図3●「小瀬谷発電所」の水力発電設備
(出所:全国小水力利用推進協議会)
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50年以上使い続けられる

ーー地域住民による再エネ開発の場合、初期投資に必要な資金をいかに賄うのかが課題になると思います。「小瀬谷発電所」の場合は、どのように資金を調達したのですか。

全国小水力利用推進協議会の上坂博亨代表理事・富山国際大学教授
(撮影:日経BP)

上坂 そうですね。地域住民主体の小水力でもまさにそこが大きな壁になります。小瀬谷発電所の場合は、地元の有力酒造メーカーが加わる形で、発電会社を設立し、同社の信用力も借りてファイナンスに成功しました。

 こうした信用力のある地元企業の参画がなくても、住民主体の小水力の建設に成功したケースもあります。岐阜県群上市白鳥町の「石徹白(いとしろ)番場清流発電所」がそれです。農業用水路を活用した125kWの小水力です。

 同発電所のある石徹白地区は、100世帯足らずの中山間地の集落です。同集落のほぼ全世帯が組合に出資するスキームで、総工費約2億3000万円を賄い、2016年6月に稼働しました。年間約2000万円の売電収入から得られる収益は、農業関係に使われます。

 とはいえ、こうした地域住民主体の小水力開発は、過疎の進む地域社会にとって負担が大きく簡単ではありません。当初は、資金力ある企業が主体になって投資・建設し、投資回収しながら、徐々に地域の所有に転換していく形が現実的かもしれません。

ーーFITによる買取期間が終了した後、売電単価が大幅に下がりますが、小水力は存続できますか。

上坂 この問題は、FITで建設された再エネ設備全体の大きな課題です。ただ、小水力は、相対的に運転維持費が安く、プロペラの補修や交換程度で、大規模なリニューアルなしに50年以上、場合によっては100年運転できます。このため、再エネのなかでもFIT後の発電コストには競争力があります。

 このコラムの冒頭で、「小水力の課題はコスト」と言いましたが、これは10~15年での投資回収を想定する民間企業の視点からで、50年から100年使い続けることを前提に考えれば、むしろ再エネの中でも発電コストは安くなります。

 地域主体の小水力への筋道として、域外企業の投資で建設した設備を徐々に地域の所有に移していくという流れを提唱しましたが、これが可能になる理由は、小水力の技術・設備が長寿命だからです。

 また、今後、こうした小水力の特徴に着目し、金融機関が超長期の融資スキームを提供してくれれば、地域社会に大きな初期負担がなく、当初から地域所有の小水力を建設することも可能になると期待しています。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/021800064/