本質を知らずに企業が参入すると、かえって逆効果に

健康になれるまちづくりの具体策として、高齢者が交流する「サロン」の活用も提唱されています。

 何が介護予防に役立つのか手探りの時代に、自治体と一緒に良さそうだと思うことを試しながら、追跡調査をして評価研究を進めてきました。その一つが、高齢者が集うサロンづくりです。ボランティアを募って、楽しくできることを考えてもらいました。さまざまな特技を持つ人には講師を務めてもらったり、一芸を披露してもらったりしました。その人たちを「出前ボランティア」と名付けてリストを作り、全ての会場に配りました。面白いと評判が立って人気が出た講師や芸人には多くのサロンから声がかかります。

調査データはサロンを開設する際にも使われたんでしょうか。

 サロンの参加者は高齢者なので、自分で歩いて行ける所でなければ参加し続けられません。まちの中央公民館1カ所で36回実施するよりも、コミュニティセンター12カ所で3回ずつ実施した方が参加率は高まると考えました。実際にデータを取ってみると、参加率は遠い場所の場合はわずか1%だったところ、近い場所の場合には20%にまで高まりました。やり方を変えたら参加者数が6倍増えたのです。

 こうしたデータを自治体に見せると、当然「参加者数は多い方がいい」という話になります。つまり、サロンをどう開設すればよいのか、エビデンスに基づく政策決定に貢献できたことになります。

自治体が支援してサロンを開設し、その運営については住民主体で高齢者のボランティアが担っているんですね。高齢者に積極的に参加してもらえるようにするのは大変でしたか。

 この取り組みを最初に始めた愛知県武豊町で「サロンを10数カ所開設したい」と提案すると、保健師さんはあまり乗り気な様子ではありませんでした。理由は、手伝いをしてくれる登録ボランティアが20人しかいないから。そこで、このまちで行った、どんな人が認知症になりやすいかを調べた追跡調査の結果報告会をすることにしたのです。

ボランティアなど地域組織への参加の有無と認知症発症の関係。3年間の継続研究の結果、地域組織に参加していない人の方が、認知症発症の確率は男性で2.19倍、女性で1.74倍高い(図:JAGESの資料を基にBeyond Healthが作成)
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 3年間の追跡研究の結果、認知症を発症する確率は、地域組織に参加している人に対して参加していない人は男性で2.19倍、女性で1.74倍高いことが明らかになりました。これをまちの皆さんに報告し、地域のボランティア組織に参加しませんかと呼びかけたところ、ボランティアが増えてサロンの開設につながったのです。これもデータの見える化による一つの成果です。

サロンがまちにあることで高齢者が活動的になって仲間もでき、自然と介護予防ができる暮らしになるのですね。

 実際、サロンの参加者に「参加して何が変わったか」というアンケートを取ってみると、「健康意識が高まった」「人との交流が増えた」「気持ちが明るくなった」「将来の楽しみが増えた」という回答がありました。中でも、特筆できるのは「幸せを感じるようになった」が実に8割を占めたこと。健康に無関心な人も幸せにはなりたいから、サロンには参加する。つまりこの施策は、健康に無関心な人たちを集めることにも成功したのです。

健康になれるまちづくりは、行政だけではなく企業の取り組みとしても増えていますか。

 現在、全国では、高齢者人口の5.7%が住民主体の「通いの場」に参加していると、厚生労働省が発表していますが、その通いの場を提供する企業が出始めています。例えば、自動車販売店が商談スペースで体操をできるようにしたり、コーヒーチェーン店が毎日来る高齢者の見守りをしたり、店の空いている時間をサロンに使ってもらったりしているところもあります。

 ただ、こうした企業の人たちが健康になれるまちづくりの本質を知らずに参入すると、かえって逆効果になる恐れがあります。例えば食事は、一人で取るよりも、誰かと一緒に取る方が健康にも良いし見守りにもなります。従って食事を一人ひとりのお宅に宅配するサービスよりも、何人かが集って食事をする会食サービスを開発・提供してくれた方が、健康になれるまちづくりには良い効果をもたらすと考えられます。