暮らすだけで健康になれるまちをつくるチャンス

暮らすだけで健康になれるまちづくりは、高齢者にどのような影響を与えますか。

 コミュニティが機能し始めると、人の出番が増えます。グリーンスローモビリティをご存じですか? 時速20km未満の速度で公道を走る、4人乗り以上の電動カート、ゴルフ場のカートを使った取り組みです。これを導入すると、地域が抱える移動の足がない課題を解決したり、低炭素型交通が確立できたりできるのではないかと、国土交通省と環境省が実証実験事業をしています。千葉県松戸市が、手を挙げて採択され、実証実験を実施し、我々がその効果評価を行いました。

松戸市が実証実験を実施した、グリーンスローモビリティの取り組みの様子(出所:JAGES)
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 松戸市の実証実験では、グリーンスローモビリティの取り組みを通じて多くの人が活躍しました。例えば、運転手は、老人クラブの高齢者たちが引き受けてくれました。充電設備については、電気工事の仕事をしていた方が設置してくれました。さらには、かつて交響楽団員だったという方がお披露目に合わせて曲を作ってくれたのです。こうした地域の皆さんの協力があって、実証実験の前後で、GPSで測定した行動範囲を比較すると、特に傾斜の多い地域に住む人たちの行動面積が1.5倍に増えていました。

 このようなコミュニティ活動は、そこに住む人たちにいろいろな出番やコミュニケーションを生み出します。実際、まちづくりが動き出すと、必ず「こういうことができる人はいないか」という話が持ち上がり、地域に埋もれていた人材が発掘されたり、行動を共にしたりすることで人と人のつながりが生み出されていきます。

まちづくりが良い循環を生み出すことが分かりました。一方で、課題はありますか。

 仕掛ける人が、もっと欲しい。貴重な取り組みも、その効果が評価されていることは稀です。厚生労働省が地域コーディネーターを配置したり、NPOなどが、まちの人々を巻き込んでコミュニティづくりを支援したりしていますが、十分ではありません。そこで我々大学の研究者も、JAGES機構という一般社団法人を作って、行政だけでは難しい健康なまちづくりをお手伝いしたり、その効果評価にも取り組んだりしています。

 日本は、2050年には人口が今よりも40%減る居住エリアが6割以上に上ると指摘されています。こうしたところでは、いずれスーパーが撤退し、地域として成り立たなくなる恐れがあります。日本の社会の智恵を絞り出し、いろいろなセクターの総力を上げて解決策を見出さないと、大変なことになってしまうかもしれない。しかし、そこを逆手に取って、どういうまちづくりをすればよいのかを考え、上手に設計すれば、暮らしているだけで健康になれる日本社会を作るチャンスになるかもしれません。

 いろいろな試みをして、その中でどれが本当に効果があるのかを評価し、意味のあるものを選んで広げていく。それができるマネジメントサイクルが回る仕組みを社会にビルトインする──。そうして、今よりもさらに良い日本にしたい。JAGES機構を通じて、それに貢献したいと思います。

これからの人口減少時代は、それに合わせてまちを作り直す機会が増えるので、上手に設計すれば、暮らしているだけで健康になれる日本社会を作るチャンスになるかもしれない、と語る近藤氏(写真:新関 雅士)
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