「経済資本」「社会資本」「環境資本」をバランスよく増やす

――カヤックは、まちづくりや地域創生に関連した事業も手掛けられています。そうした事業と、カマコンは連携しているのでしょうか?

 事業とカマコンには、相関関係のようなものはありますが、リンクはしていません。

 まちづくりや地域創生に関連した事業を当社は「ちいき資本主義事業部」という部署が中心になって手掛けていますが、大きく分けて、「地域横断的なプラットフォームサービス」と「地域へ深く入り込む個別サービス」の二つがあります。

 地域横断的なプラットフォームサービスでは、全国約1700自治体に共通の課題に対して共通するITサービスを提供します。第1弾として、地域への移住を促進する「SMOUT(スマウト)」を提供しました。また第2弾として、使えば使うほど住民が仲良くなるデジタル地域コミュニティー通貨を提供する「まちのコイン」を展開中です。

 地域へ深く入り込む個別サービスでは、地域ごとの課題解決を個別に支援する事業を行っています。鎌倉市をはじめとする幅広い地域のお手伝いをさせていただいています。観光資源の発見、シティプロモーションによる移住の促進、関係人口の創出のほか、地場企業と協調した事業展開を行っています。

 それに対して、カマコンは無償のボランティア活動です。地域横断的なプラットフォームの一つと言えますし、プロジェクトごとに協業することも多くありますが、会社の事業とは別です。カマコン的な新しいことを積極的に行う地域のほうが、まちづくりや地域の課題解決に向けた事業についても前向きですので、相関関係はありますが、カマコンと事業はリンクしなくてよいと考えています。

――カヤックのまちづくり支援事業の特徴を教えてください。柳澤CEOが提言されてきた「地域資本主義」の考え方をどのように取り入れていますか?

 「地域資本主義」では、経済的な資本や売り上げに対応する「経済資本」、人のつながりに対応する「社会資本」、自然や文化に対応する「環境資本」の三つを定義して、それぞれをバランス良く総合的に増やすことが、個人の幸福につながると考えます。

 テクノロジーがこれからも進歩して、どこでも住める人たちが増えていくと、地域には東京にない魅力が一段と問われるようになります。住民1人当たりの収入といった経済資本の指標では東京が圧倒的に大きく地域はかないません。しかし、社会資本と環境資本は東京に勝っている地域も多く、まちづくりにおいても強みになります。

 「地域資本主義」という言葉をつくった背景には、経済資本と同様に、社会資本や環境資本を数値化して、客観的に追求できるようにしたいという思いもありました。

 「人のつながり」である社会資本について、東京をしのぐ地域が多いことは、みなさんが感覚で分かっていますが、この地域にはどれくらいの人のつながりがあるのかを数値で示したいと考えてきました。

 そこから生まれたのが、前述した「まちのコイン」というデジタル地域コミュニティー通貨のサービスです。利用者は、「他人と知り合いになる」「まちづくりのプロジェクトに参加する」など地域ごとに協賛企業や団体が作成したチケットに基づいて、デジタル地域コミュニティー通貨を取得するとともに、買い物に使うことができます。地域商品券のように地産地消を増やすだけでなく、人のつながりを増やすのが狙いです。

柳澤氏が“地域資本主義”という言葉をつくった背景には、「経済資本と同様に、社会資本や環境資本を数値化したい」という思いがあったという(写真:皆木優子)。右は、「まちのコイン」アプリの画面例(資料提供:カヤック)
柳澤氏が“地域資本主義”という言葉をつくった背景には、「経済資本と同様に、社会資本や環境資本を数値化したい」という思いがあったという(写真:皆木優子)。右は、「まちのコイン」アプリの画面例(資料提供:カヤック)
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 人のつながりをもとにデジタル地域コミュニティー通貨の取得や支払いができるため、まちのコインの1人当たりの流通総額が多い地域は人のつながりが濃く、社会資本が充実している街だと言える――そういう思いもあって開発しています。

 環境資本の数値化についても実現すれば、「この地域の良さは海と山があるからです」といったあいまいな表現ではなく、「この地域には環境資本がこれだけあります」と数字で示すことができます。また、地域の住民や自治体が魅力的なまちづくりを行う際の指標として活用できるようになります。

 まちのコインでは、SDGs(持続可能な開発目標)とデジタル地域コミュニティー通貨のチケットを紐付けることができるようにしました。例えば、海をきれいにする活動はSDGsの何番の目標達成に該当するかを示して、その活動を実行すると、デジタル地域コミュニティー通貨を取得するチケットが作成可能です。

 利用者は自分の行動がSDGsの何番の目標の達成に貢献しているのか、自治体は街全体でSDGsの達成に貢献する行動をしている人がどれぐらいいるのかがまちのコインで可視化されるため、SDGsの推進を促すことができます。

 もちろん、経済資本、社会資本、環境資本はそれぞれリンクしていて、経済資本が増えないと人が集まりませんし、人が増えないと社会資本も増えないという関係もありますから、経済資本を高めるために、どの地域も必ず何らかの産業を戦略的に集積させる必要はあります。しかし、産業振興だけでは、どこもショッピングセンターや工場がある、似たような地域になってしまうのではないでしょうか?

柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ)
カヤック 代表取締役CEO
柳澤 大輔(やなさわ・だいすけ) 1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人とともに面白法人カヤックを設立。サイコロで給与を決めるユニークな人事制度や、全国を移動しながら勤務するワークスタイルを実践。「面白法人」というキャッチコピーで新しい会社づくりに挑戦している。