合意形成には、提供される情報の「中身」が重要

--昨年10月に「コミュニティと合意形成」をテーマに開催された「国際PPPフォーラム」を聴講しました。特に、バージニア州アーリントン郡公共エンゲージメント部門代表ロジャー・ムンター氏の講演が印象に残っています。アーリントン郡では「道路を作らないということも含めて議論する」というムンター氏の話には、日本と大きな違いを感じました。

 日本では行政側から市民に提示される情報は限られた選択肢で、それ以外の選択肢がなく、「どれを選んでも行政の手の内」ということになってしまいがちです。一方、米国では「情報提供そのものが善である」という考え方に基づいています。さらに、「公務員が正しいわけではない」という前提があります。行政自体がそう考えているので、市民の意見の中で良いものがあれば取り入れようという姿勢があります。

 アーリントン郡では、合意形成のプロセスを研究し、パターン化して捉え、わかりやすく可視化しています。私が質問すると、ラミネート加工されたわかりやすい資料を即座に取り出して、説明してくれました。日頃から、こうした資料を常に携行して、市民にも説明しているのでしょう。手慣れているなと感じました。それだけでなく、アーリントン郡には、「市民協働部」という専門部署があり、合意形成に関わる団体の支援なども行っています。

ムンター氏が根本氏にラミネートで提示した資料の一例(資料:ロジャー・ムンター氏、第14回国際PPPフォーラム資料より抜粋)
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ムンター氏が根本氏にラミネートで提示した資料の一例(資料:ロジャー・ムンター氏、第14回国際PPPフォーラム資料より抜粋)
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ムンター氏が根本氏にラミネートで提示した資料の一例(資料:ロジャー・ムンター氏、第14回国際PPPフォーラム資料より抜粋)

--「情報提供そのものが善である」という姿勢が、浸透していますね。

 日米では一口に「情報(information)」と言っても、情報として提供する中身に違いがある――。そう言わざるを得ません。フォーラムでも「市民参加のスペクトラム」として提示した中に「balanced and objective information(バランスの取れた客観的な情報)」という言葉がありましたが、これが重要です。

 全ての情報が「information」には違いないのですが、「balanced information」とは不都合な情報も開示することを前提に、両面の情報をバランスよく提供していくことです。また「objective information」とは、客観的な情報、つまり「できるだけ数字で示す」ことです。

IAP2(国際市民参画協会、市民参加の実践を推進・促進することを目的として設立されたNPO法人)の明示する「市民参加のスペクトラム」東洋大学仮訳。スペクトラムの初期段階「information(情報提供)」においては「balanced and objective information(バランスの取れた客観的な情報)を提供」することが到達目標として記載されている(資料:根本祐二氏、第14回国際PPPフォーラム資料より抜粋)
IAP2(国際市民参画協会、市民参加の実践を推進・促進することを目的として設立されたNPO法人)の明示する「市民参加のスペクトラム」東洋大学仮訳。スペクトラムの初期段階「information(情報提供)」においては「balanced and objective information(バランスの取れた客観的な情報)を提供」することが到達目標として記載されている(資料:根本祐二氏、第14回国際PPPフォーラム資料より抜粋)
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 日本では、この提供される情報の中身のバランスが取れてない印象です。例えば、7、8年前にある自治体の住民投票で「耐震性に問題のある市役所を建て替えるか、耐震補強するか」を問われることがありました。建て替えの予算が50億円、耐震補強では2億円という情報のみが提示され、結果、耐震補強を行う方に賛成票が集まりました。ところが耐震補強では建物の長寿命化効果がなく、その後10年程度しか保持できません。一方、建て替えれば60年は保つ、という今では当たり前の情報や考え方が共有されなかったのです。行政側が市民にどのような情報を提供すべきか、という知識や知恵が圧倒的に不足しているように感じます。

 この自治体では、最終的には建て替えの方向に変更されました。けれども、それでは住民投票を行う意味がありませんよね。

--住民投票になってしまうと、行政コストもかさみます。

 住民投票自体は悪くありません。それが行える制度がある方がいい。ただ、先ほどから申している通り、適切な情報提供をせずに実施しても意味がないと言えます。「バランスの取れた客観的な情報」が提供されているかどうかが大切です。その意味では日本全体の合意形成のレベルはまだまだ低い状況です。


* 「第14回国際PPPフォーラム」(主催:東洋大学 開催日:2019年10月28日 会場:大手町サンケイプラザ)のこと。テーマは「コミュニティと合意形成」。米国オールドドミニオン大学のロン・カーリー氏、バージニア州アーリントン郡公共エンゲージメント部門代表ロジャー・ムンター氏、日本からは富山市の森雅志市長と埼玉県宮代町の新井康之町長がゲストとして登壇した。
フォーラムの様子(写真:東洋大学)
フォーラムの様子(写真:東洋大学)