2020年の東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ)開催を前に、障害者や高齢者が行動しやすい街づくりが求められている。ミライロは自治体と連携し、どうすれば効率的に街づくりを進めていけるのかについてのアドバイスや、バリアフリーの店舗が検索できる地図アプリの開発など、障害者に寄り添ったサービスを提供している。同社代表取締役社長の垣内俊哉氏に話を聞いた。

(写真:菊池一郎)

──まずは、ミライロがどんな取り組みをしている会社なのか、教えてください。

 当社の事業内容を語るうえで、私の生い立ちは避けて通れません。私は骨の病気で子供の頃から車椅子で生活しています。これは父も弟も同じで、遡れば先祖代々受け継がれているものです。今でこそ車椅子でも学び、働くことができますが、昔は舗装された道路もエレベーターもない、車椅子も高価で買えない。外に出ることが叶わなかった時代もありました。

 我々ミライロは、障害を取り除く、あるいは克服するのではなく、価値へと変えていく、「バリアバリュー」を企業理念としています。見えなくてもできること、聞こえなくてもできることではなく、聞こえないからできること、見えないからできることを増やしていこうという考え方です。

 そのために、3つのバリアを解消していくことが主な事業領域です。

街のバリアフリー化は、環境・意識・情報のバリア解消から

──3つのバリアとは、具体的にどんなことでしょうか?

 環境のバリア、意識のバリア、情報のバリアです。環境面では、段差があればスロープをつける、階段しかなければエレベーターを設置するなどのバリアフリー化のアドバイスをしています。

 ただ、環境はもはや限界に達している面もあります。世界的に見れば、日本は一番バリアフリーが進んでいるんです。石畳の多いヨーロッパに比べると道路は舗装されていて、とても移動がしやすいですし、点字ブロックが最初に開発され、普及率が高いのも日本です。

 とはいえ、環境が整っているからといって、障害者が外に出たくなるかというと、それは別の問題です。そこで、重要になってくるのが「意識のバリア」です。

 日本では人々や企業の障害者への対応は「無関心」か「過剰」の二極化です。そうした意識のバリアを解消するために、企業や教育機関、自治体に対して研修プログラムを提供しています。

 最後に、情報のバリアです。障害者が外出できないのは、どうやったら行きたい場所に行けるのか、あるいは行きやすい道順が分からないからです。そこで2016年に我々がリリースしたのが「Bmaps(ビーマップ)」というアプリケーションです。地図に存在するすべての建物や施設のバリアフリー情報が分かるサービスです。都内にある約8万店の飲食店のうち約8000店がバリアフリー化されています。一生かかっても回り切れない数ですよね。これらの情報をきちんと集めて発信していく試みです。ハードとハート、そして情報面を豊かにすることを、創業から9年間進めてきました。

陸前高田市で世界の手本となるバリアフリー街づくり

(写真:菊池一郎)

──自治体との連携も増えていますよね。その背景には何があるのでしょうか。

 これまでそれぞれの自治体でバリアフリー化を進めてきたけれども、そこには正直、無駄もあったと思います。前例主義でなんとなく続けてきたことも多い。例えばバリアフリーマップを紙で刷って配っているけれど、お店や電話番号が変わるたびに刷り直しが発生する。紙での配布なので、届く人も限定的でした。

 そこで、何が本当に必要なのかを見極め、きちんと優先順位をつけ、軌道修正する必要が出てきたのです。それが当社に依頼が増えている背景ではないかと考えています。

──予算も限られているなかで、もっと効率的に対策をしていきたいというニーズが増えているということですね。

 待ったなしになった、ということでしょう。交通機関のバリアフリー化が進んだことで、障害者や高齢者の外出機会が増えています。そうすると現場でトラブルやクレームが発生することもある。それを減らしていかなければならないという流れがあります。

 また、法律が改正され、企業では従業員の2.2%、自治体では2.5%、障害者を雇用していかなくてはならなくなりました。働くためには外出しなければなりませんから、環境(ハード)の問題や意識の問題への取り組みを考え始めたのではないでしょうか。

 そこに2020年の東京オリパラ、25年の大阪万博の開催があいまって動きが加速しています。

──自治体との連携の具体的な事例を教えてください。

(写真:ミライロ)

 陸前高田市(岩手県)の街づくりを支援しています。陸前高田市は、東日本大震災で惜しくも津波に飲み込まれてしまった。だからこそ、0から1をつくるなかで、何をするべきなのかというアドバイスをさせていただきました。バリアをなくすことはお金がかかりますが、バリアをはじめからつくらないことはお金がかかりません。企画・コンセプト設計の段階から配慮しておけば、お金をかけずにユニバーサルデザインを実現できます。いかにコストや工数を減らしながら皆が快適に暮らせる街をつくっていけるのかを自治体と一緒に考えました。

 残念ながら、障害者や高齢者は、東日本大震災の時に健常者に比べて2.5倍も致死率が高かった。それは、逃げ切れなかったからです。いざというときに、障害者や高齢者であっても逃げやすいように、見通しの良さや移動のしやすさも考えていかなければなりません。防災、減災という観点からも提言させていただきました。

 そういった意味でも、陸前高田市はこれからの日本の手本はもちろんのこと、世界の手本になると思います。

──陸前高田市はゼロからつくった事例ですが、既存の建物や設備の見直しも増えていますか。

 かなり多いですね。建物の耐震工事、免震工事のタイミングでバリアフリー化をしておこうといったニーズもありますし、意外なところではお墓のバリアフリー化を請け負うこともあります。お墓って山奥にあったり砂利道だったりして行きづらいですよね。そこを整備することで今まで行けなかった人も墓参りができるようになったと喜ばれています。

一般の人と障害者の接点を増やさないと街は変わらない

──障害者に対応した街づくりに関して、必要な考え方はどんなことでしょうか。

 多くの自治体が建物の段差を減らそうなどとさまざまな条例を定めていますが、もっと民間に寄り添った法整備をしないと実現不可能だと感じます。

 例えば、段差も一段であれば、車椅子の前輪を上げるか、誰かに押してもらえればすむかもしれません。段差は絶対にダメではなく、一段なら問題ないですよ、というように、ある程度ゆるさをもった条例を作っていくべきなのです。日本の慣習を考えると、敷居に段差をつけたいといった意匠性の観点もあるでしょう。自治体、障害者、民間のみんなが納得できるような落としどころを付けていくことが、これからの街づくりに求められることだと考えています。

 当社では障害のある方にモニターになっていただいて、その意見を自治体への提言に反映させています。取捨選択し、優先順位をつけられることが我々の強みです。

──全部やらなければならないと思うからコストが掛かりすぎてできなくなってしまう。そこの折り合いをつけることをアドバイスする必要があるということですね。ところで、障害者対応が進んでいる地域と進んでいない地域がありますが、その違いはなぜ生まれるのでしょうか。

 理由は明確で、進んでいない地域は障害者が外に出ていないからです。東京、大阪など公共交通機関の利用率が20%を超えている地域では、障害者も交通機関を使いますし、街中で見かけますよね。そうするともっとバリアフリー化しなければという意識が生まれやすいのです。

 一方で、地方は車で移動しますので、街中で障害者をあまり見かけません。そうすると意識もしない。一般の人と障害者の接点を増やさない限りは進んでいきません。

 そういう意味で、鳥取県の事例はすごく良い試みです。日本財団からの助成金で、鳥取県内を走る800台のタクシーのうち200台を車椅子ごと乗れる「ユニバーサルデザインタクシー」に変えました(鳥取県・公益財団法人日本財団・一般社団法人鳥取県ハイヤータクシー協会による「官民一体となった先駆的なタクシーのバリアフリー化」)。結果、障害者や高齢者の外出が増えました。

車椅子ごと乗れる「ユニバーサルデザインタクシー」(写真:日本財団)

 人々のハート(意識)が変わらなければハード(環境)も変わっていきませんので、進んでいない地方ではまずハートを変えていく必要があるでしょう。

──高齢化がますます進んでいきますが、障害者対応は高齢者対応にもつながりますよね。

 例えば目が見えない、耳が聞こえないという障害と同じことが、高齢者にも起こります。高齢者には同時に複数の症状が現れる上に、その人数もどんどん増えていきます。高齢者のニーズは、障害者のニーズを統合した状態ですから、障害者のことを理解せずして高齢者の理解はあり得ません。

 そして、人口が減少していく日本においては、障害者や高齢者が外に出てお金を稼ぎ、お金を使うことが社会的、経済的意義にもつながります。それがもっと日本を、地方を元気にしていくことにつながるはずです。

──今後、東京オリパラ、大阪万博を控え、日本の街づくりはどのように変化していくとお考えでしょうか。

 ここ数年でも劇的に変わっている実感があります。JR山手線の新橋駅や中央線の御茶ノ水駅は、構造上無理だと言われ、エレベーターが設置されていませんでしたが、東京オリパラ開催が決まったら設置が実現しました。

 1970年の大阪万博のとき、旧国鉄阪和線・我孫子町駅に日本ではじめて点字ブロックがついたのがきっかけで全国的に点字ブロックが普及していきました。今回も2020年、2025年に向けて、新たにより多くの街が暮らしやすさという視点で変わっていくチャンスですし、実際に変わっていくだろうと予測しています。このときに時代の流れに任せるのではなく、意志をもって企画し、実行していくことにより、充実度と速度は各段に上がります。無駄なく効率よく進めていくことが大事です。

垣内俊哉(かきうち・としや)
ミライロ代表取締役社長
垣内俊哉(かきうち・としや) 1989年愛知県安城市生まれ。立命館大学経営学部在学中の2010年、株式会社ミライロを設立。13年一般社団法人日本ユニバーサルマナー協会代表理事、15年日本財団パラリンピックサポートセンター顧問、16年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アドバイザーに就任するなど、障害を価値に変える「バリアバリュー」の視点から、企業や自治体、教育機関におけるユニバーサルデザインに取り組んでいる。(写真:菊池一郎)

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