国内外の水道事業の実態に詳しい日本政策投資銀行の足立慎一郎氏に、日本の水道事業の現状や問題点をふまえながら、水道事業を立て直すために今後、取るべき施策について話を聞いた。同氏による寄稿「フランス・パリ市の水道事業、『再公営化』の真実」も併せてお読みいただくことで、水道事業における民間活用の在り方についての方向性が多角的に見えてくるだろう。

日本政策投資銀行 地域企画部担当部長の足立慎一郎氏

水道インフラは朽ち、料金の大幅増は不可避、人材も不足する

──「改正水道法」が昨年12月に成立したことにより、公共が施設保有しつつ水道事業の運営を民間企業に委託する「公共施設等運営権(コンセッション)方式」の導入推進が期待される一方、“民営化”による水道料金の高騰や水質劣化を心配する声も聞かれ、現状ではコンセッション方式に対して慎重な意見が多いようです。足立さんはどのようにお考えでしょうか。

 3月に寄稿した「フランス・パリ市の水道事業、『再公営化』の真実」もご覧いただければ分かる通り、コンセッション方式の導入=民営化ではありません。フランスだけでなく日本でも、水道事業は公共が最終責任を負っており、コンセッション方式は、その大きな枠組みの中で、民間のノウハウ・技術・資金などを効果的・効率的に活用しようとする官民連携手法の1つです。

 民間は勝手に料金を引き上げたりすることはできません。料金の上限設定などは議会の議決に基づいて公共が権限を持ち、契約に事前に定められたルールを超える改定は基本的にできない仕組みになっているためです。改正水道法によって、公共が責任を持ちつつ民間ノウハウを適切に導入するための官民連携手法の選択肢が1つ増えたと理解して頂ければ良いと思います。

 そもそも、コンセッション方式という「運営の手段」の是非を問う前に、現在の日本の水道事業が置かれた危機的状況を知らなければならないと思います。具体的には、職員の高齢化と技術継承、水道インフラの老朽化、人口減少にともなう給水収益の悪化など「ヒト・モノ・カネ」の3分野を中心に、待ったなしの多くの課題を抱えている状況なのです。

──どのような課題があるのですか。

 大きくは次の5つです。

1. 給水人口の減少による収益悪化
2. 設備・管路の老朽化
3. 職員の高齢化・技術継承
4. 地域間の料金格差
5. 人口規模の小さな自治体ほど経営が厳しい

 まず、「1.給水人口の減少による収益悪化」「5.人口規模の小さな自治体ほど経営が厳しい」という点についてですが、給水人口は2010年をピークに減少し、一人当たりの水の使用量も減っており、水道事業の収益が悪化しています。全国には約1300もの公営事業者があるのですが、人口規模が小さい地域ほど経営が逼迫しています。特に人口5万人以下の自治体の水道事業は赤字のところも多く、一般会計などからの補填で事業を維持している状態の自治体もあります。そして、「4.地域間の料金格差」も顕在化しています。水道料金の格差は、最も高い自治体と最も安い自治体の間で約10倍もの差がついているのです。

■給水人口・1人当たり水使用量の推移
2010年をピークに減り続ける給水人口(資料:日本政策投資銀行)
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■地域間の料金格差
水道料金の自治体間最大格差は約10倍(資料:日本政策投資銀行)
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