これから整備すべきは、滞在者の子どものケア

――すでにワーケーションを推進し、成功事例として紹介される自治体としては、どのようなところがありますか。

 2019年11月に、ワーケーション受け入れ側の自治体による「ワーケーション全国自治体協議会(WAJ)」が設立されました。その中心となった和歌山県、長野県は、まさに成功例と言えると思います。

ワーケーション全国自治体協議会のフェイスブックページ。179自治体(1道21県157市町村、2021年4月2日時点)が会員として参加している
ワーケーション全国自治体協議会のフェイスブックページ。179自治体(1道21県157市町村、2021年4月2日時点)が会員として参加している

 例えば和歌山県の田辺市や白浜町は、2014年度より総務省のふるさとテレワーク事業実施や、ワーケーションの推進などを通じて都会と地域との交流の促進を実施してきました。自治体が受け入れ施設を整備したり、都市部の企業がサテライトオフィスをつくったりもしています。地域雇用にもつながり、Iターンで地域に定着する人も出てきています。

 長く継続するために重要なのは受け入れ態勢です。特にコロナ禍の最中である現在は、都心から人が来ると、「なぜ(感染対策を考えずに)来たのか」という拒否反応があったとも聞きます。地域とワーケーションを利用する人の間に入る人員が必要です。

――今後は、家族でのワーケーション(ファミリーワーケーション)のニーズも高まりそうですね。

 ファミリーワーケーションの場合、子どものケアが大きな課題となるでしょう。特に、仕事をする間に子どもが過ごす場所をどうするかという問題です。テレワークでも課題になりますが、特に幼い子どもが家にいる状態で仕事をするのはなかなか大変なことです。さらにワーケーション先では、児童館など子どもを預けられる場所が少ないのが現状です。

――二地域居住や移住、企業移転の促進を考えるうえでも、重要な論点です。

 ワーケーションに限らず、働き方が多様化していく中で、子どものケアは避けて通れない課題だといえます。

 子どもが小学校以上となると、デュアルスクールの仕組みそのものはあっても、積極的に活用できているかというと、受け入れ先側の体制が整っていません。ワーケーションで地域を訪れた子どもが地元の子どもと仲良くなって、「(ワーケーション先で友達になった子と)また遊びたい」「今度は野菜の収穫を一緒にやろうと約束した」など、地域での子ども同士の交流は、リピートの強い動機になります。

 あるいは子どもが少なくなった地域であれば、英語教育に力を入れて、都心の子と田舎の子が一緒に習うといった特徴ある学校をつくるということも考えられます。発想を変えるとまだまだできることがあるので、自治体や地域にはこうした受け入れ体制を整えることを視野に入れてもらえればと思います。

田中 敦(たなか・あつし)
山梨大学 大学院総合研究部 生命環境学域 社会科学系長/生命環境学部 地域社会システム学科 学科長/教授(観光政策科学特別コース)
田中 敦(たなか・あつし) 横浜国立大学卒業後、JTBに入社。教育旅行、営業・企画や米国本社・欧州支配人室での人事担当などを経験した後、JTBモチベーションズ(経営企画局長)、JTB総合研究所(主席研究員)を経て、2016年に山梨大学に着任(写真:稲垣純也)