民間の事務局員がスピードアップに不可欠

――自治体はどのような形でプロジェクトに関与していくのですか

 現場運営のポイントは、実際に熱中小学校を運営していくための事務局となる人たちです。地方ですし人件費もあるのでそんなに多くの人手はかけられません。2~3人とか、1人という自治体もある。当初は自治体の職員が事務局を担当することもありますが、「できるだけ1年くらいで民間に事務局を移行してください」とお願いしています。

 自治体の方が事務局だと、その土地にとっては精神的にも経済的にも安心感はあり学校運営には有利でしょうが、例えば災害が起こったりすると自治体職員は忙しくなって毎日のオペレーションに時間を割けなくなるケースも考えられます。それに、毎日何をやるかを先生たちと話しながら動ける専任の民間人の方がアイデアも出やすいしスピード感も高まるんですね。

――自治体側の関与は少なくてよい、ということでしょうか。

 考え方の基本は「他力創発(たりきそうはつ)」です。優秀な人材を集めて交流させることで、新しいことが生まれる、できるという発想です。そこから生まれるのは、人を動かす「熱量」ですね。熱中小学校にはマニュアルがあるわけではないんです。それぞれの自治体が、それぞれのやり方でやりたいように熱中小学校を運営してもらうのが基本です 。

 重要なのが、自治体トップの理解と応援ですね。熱中小学校の第1号である山形県高畠町は最初から民間NPOが事務局となっていました。最初の熱中小学校ということもありますが、やはりいろいろな運営を展開してきて動きも速く、おかげで各地からの視察も非常に多いのですが、やはりトップである町長がこれを良い機会と捉えていろいろと支援してくれたのは大きかったですね。

 自治体の首長が理解して広報などでアピールを支援してくれたりすると影響力は高まります。高畠町も周辺にある米沢市や山形市などから学ぶ機会を求める大人たちがやってくるようになりました。町は小さくても、周辺に大きな都市があると人を呼び込むきっかけになります。小さい町の方が危機感は非常に強いだけに、首長が一体となって熱中小学校を盛り上げてくれると注目度も高まります。

高畠熱中小学校の卒業式(提供:NPO法人はじまりの学校)
高畠熱中小学校の卒業式(提供:NPO法人はじまりの学校)
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高畠熱中小学校の外観(提供:NPO法人はじまりの学校)
高畠熱中小学校の外観(提供:NPO法人はじまりの学校)
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「QRコード付き郵便スタンプ」を横展開

――熱中小学校の活動を通じて、地域が大きく変わった例は?

 北海道にある「十勝さらべつ熱中小学校」は、これまでで最大規模の予算があり、また十勝全体から生徒が集まってきて150人を超える生徒がいます。その生徒たちが自主的に活動する「部活動」も非常に盛んなのですが、その中で「クレヨン部」というのがありまして。北海道標茶町でクレヨンをつくっている「トナカイ」(https://www.tuna-kai.com/)に勤めている方が中心となり、十勝で取れた自然の素材――例えば、タマネギの皮だとかヨモギの葉を使って、100%自然素材のクレヨンを作り出しました。これは海外でとても受けるのではないかと思っています。国連のSDGs(持続的開発目標)といったものにも合致しますし、とても将来性がある商品が生まれつつあります。

 そのほかにも、教諭(先生)として十勝に赴いたベンチャーキャピタリストが、ちょっと時間が空いたからと札幌の農業ベンチャーを見学にいったのですが、見学した企業の事業の面白さと将来性に感じ入って「出資させてほしい」と申し出たことなんかもありました。

 ほかにも、全国の郵便局にあるご当地スタンプを活用したケースも面白かったですね。鳥取県琴浦町の熱中小学校では、琴浦町のランドマークである船上山に「屏風岩」「天皇水」「万本桜」などの名所がありますが、これに地域に流されてきた縁のある後醍醐天皇をモチーフとしたスタンプを作ったわけです。これが正式の風景印として以西郵便局で使われるようになりました。

 その後が面白くて、それを受けて十勝さらべつ熱中小学校では、更別村の郵便局で広大な農地を走るトラクターなどの図案を使ったスタンプを作ったのですが、そこに「QRコードを入れてみてはどうか?」というアイデアが出た。そこで地域の情報にスマートフォンからアクセスできるQRコード入りのスタンプを試作して実証実験をしたわけです。

 これまで何でもなかったスタンプが、QRコードを加えたことでデジタル世界に移行できるわけですから、ちょっとしたイノベーションですよ。ハガキや手紙のスタンプに使えば、最新の地域情報をQRコードとネットを通じて発信できるようになるんですから。

 しかしこれは、残念ながら郵便局側が難色を示して採用には至りませんでした。でも、そのQRコードスタンプを今度は高知県越知町の熱中小学校(名称は「越知ぜよ!熱中塾」)が活用して、越知町を流れている「奇跡の清流」と呼ばれる仁淀川の流域にある自治体の仁淀川町、越知町、佐川町、日高村、いの町、土佐市が連携して情報を発信するためのスタンプとして活用し始めたんですね。こういう“横展開”の速さが、民間の良さでもあるわけです。