「もういちど7歳の目で世界を」とのコンセプトで地方にいる大人に学ぶ機会を与えてきた「熱中小学校」。2015年1月、日本アイ・ビー・エム常務などを歴任した一般社団法人・熱中学園代表理事の堀田一芙氏が同志を集め、山形県高畠町で廃校となった小学校を利用して開校した。これまで国内外で14校が開校し、今後も北海道旭川市江丹別で2020年4月下旬にネット上で、宮城県丸森町では「復興分校」が6月13日に開校する予定だ。また10月には熊本県人吉市、鹿児島県肝付町、千葉県銚子市でも開校を予定している。堀田氏に、創設の経緯と今後について話を聞いた。
一般社団法人・熱中学園代表理事の堀田一芙氏(写真:佐々木温)
一般社団法人・熱中学園代表理事の堀田一芙氏(写真:佐々木温)
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――熱中小学校は「地方にいると、学びたいのに学べない」という大人たちに向けて、全国で活躍する一線級のビジネスパーソンや著名人らを「先生」として各地に赴いてもらうというものです。事業の内容をもう少し詳しく教えてください。

 熱中小学校プロジェクトは、簡単にいうと「人材のシェアリングモデル」なんです。地方に住んでいると同じコミュニティーの人たちと付き合うことが多いが、新しいことを学ぶ機会は乏しい。インターネットは地方にも普及しているので新しい「情報」はみんな持っているのです。だが、「経験」がない。そこで、各地で活躍している経験豊富な人材に先生となってもらい、各地の熱中小学校で授業をしてもらう。そうして「互いに学び合う」のが熱中小学校の良さだと思っています。

「7歳の目でもういちど世界を見よう」をテーマとして、①地域に根ざした人材の活性化、②地域を超えた人のつながりを創る活動、③経済的に自立できる「稼げる人を地方に増やす活動」をメーンのテーマとし、起業や創業に関する知識のほかビジネススキル、観光開発、地場産業の振興などの講義を行っています。

熱中小学校のスキーム。運営資金の多くは、地方創生関係の交付金と自治体の補助金だ(日経BP総研作成)
熱中小学校のスキーム。運営資金の多くは、地方創生関係の交付金と自治体の補助金だ(日経BP総研作成)
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 熱中小学校の運営資金の多くは、地方創生加速化交付金(H27補正)、地方創生推進交付金、地方創生推進交付金(H29~)などの地方創生関係の交付金と自治体の補助金。地方創生推進交付金はKPIの設定とPDCAサイクルを組み込み、従来の「縦割り」事業を超えた取り組みを支援するもの。熱中小学校(大人の社会塾)官民協働、政策間連携、地域間連携、自立性についての先駆的な事業としての取り組みが評価された。なお、熱中小学校の名称は、第1号となった高畠町で活用している校舎が、1978年から日本テレビ系列で放送された俳優・水谷豊氏主演のテレビドラマ「熱中時代」のロケ地だったことに由来する。

地方の生徒は「経験」の価値を見抜く

――全国各地に取り組みが広がっていますね。

 現在では北海道から宮崎県までに13校、海外でも米国シアトルでも開校したことで計14校となっています。

――首都圏などから全国の企業経営者や大学研究者らを講師として招くことで、集客力も高そうです。

 地方で地元に根付いた生徒たちは、けっこう厳しい目で先生を選別していますよ。情報はすでにどこかで聴いたことあるわけですから、「先生の経験が本物かどうか」を実にシビアにみています。単に「何か新しい情報を教えてやろう」程度の先生だと本質を見抜かれてしまい、逆に「なぜ私は事業に失敗したか」のような話を真剣に聞きたがっています。

 先生がたも自身の体験を語り教えることで新たな発見や気づき、そして成長があるという反応がほとんどです。互いに成長を求めるのが熱中小学校。なので、先生がたには基本的にボランタリーベースで、宿泊費と交通費のみで地方に来てもらっています。

――すべての熱中小学校が、それでうまく地方の人材活性化につながっているのでしょうか。

 やはり先生によって、その熱量がうまく伝わり地方の人材を動かすかどうかも違います。熱中小学校では、「校長」「教頭」「用務員」と呼ぶ、経験と人脈が豊富で、地域のことをちゃんと考える先生をそれぞれ配置しています。一線で活躍しているすごい人たちを各地の「校長」「教頭」「用務員」として、どこにどう配置するのか――。それを考えるのが、私の仕事のほとんどです。

各地に展開する熱中小学校(提供:熱中学園)
各地に展開する熱中小学校(提供:熱中学園)
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2020年3月までに国内外で14校が開校。旭川市で2020年4月下旬にネット上で、宮城県丸森町では「復興分校」が6月13日に開校予定だ。オレンジ色は施設再生によるもの。(熱中学園提供資料を基に日経BP総研作成)
2020年3月までに国内外で14校が開校。旭川市で2020年4月下旬にネット上で、宮城県丸森町では「復興分校」が6月13日に開校予定だ。オレンジ色は施設再生によるもの。(熱中学園提供資料を基に日経BP総研作成)
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民間の事務局員がスピードアップに不可欠

――自治体はどのような形でプロジェクトに関与していくのですか

 現場運営のポイントは、実際に熱中小学校を運営していくための事務局となる人たちです。地方ですし人件費もあるのでそんなに多くの人手はかけられません。2~3人とか、1人という自治体もある。当初は自治体の職員が事務局を担当することもありますが、「できるだけ1年くらいで民間に事務局を移行してください」とお願いしています。

 自治体の方が事務局だと、その土地にとっては精神的にも経済的にも安心感はあり学校運営には有利でしょうが、例えば災害が起こったりすると自治体職員は忙しくなって毎日のオペレーションに時間を割けなくなるケースも考えられます。それに、毎日何をやるかを先生たちと話しながら動ける専任の民間人の方がアイデアも出やすいしスピード感も高まるんですね。

――自治体側の関与は少なくてよい、ということでしょうか。

 考え方の基本は「他力創発(たりきそうはつ)」です。優秀な人材を集めて交流させることで、新しいことが生まれる、できるという発想です。そこから生まれるのは、人を動かす「熱量」ですね。熱中小学校にはマニュアルがあるわけではないんです。それぞれの自治体が、それぞれのやり方でやりたいように熱中小学校を運営してもらうのが基本です 。

 重要なのが、自治体トップの理解と応援ですね。熱中小学校の第1号である山形県高畠町は最初から民間NPOが事務局となっていました。最初の熱中小学校ということもありますが、やはりいろいろな運営を展開してきて動きも速く、おかげで各地からの視察も非常に多いのですが、やはりトップである町長がこれを良い機会と捉えていろいろと支援してくれたのは大きかったですね。

 自治体の首長が理解して広報などでアピールを支援してくれたりすると影響力は高まります。高畠町も周辺にある米沢市や山形市などから学ぶ機会を求める大人たちがやってくるようになりました。町は小さくても、周辺に大きな都市があると人を呼び込むきっかけになります。小さい町の方が危機感は非常に強いだけに、首長が一体となって熱中小学校を盛り上げてくれると注目度も高まります。

高畠熱中小学校の卒業式(提供:NPO法人はじまりの学校)
高畠熱中小学校の卒業式(提供:NPO法人はじまりの学校)
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高畠熱中小学校の外観(提供:NPO法人はじまりの学校)
高畠熱中小学校の外観(提供:NPO法人はじまりの学校)
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「QRコード付き郵便スタンプ」を横展開

――熱中小学校の活動を通じて、地域が大きく変わった例は?

 北海道にある「十勝さらべつ熱中小学校」は、これまでで最大規模の予算があり、また十勝全体から生徒が集まってきて150人を超える生徒がいます。その生徒たちが自主的に活動する「部活動」も非常に盛んなのですが、その中で「クレヨン部」というのがありまして。北海道標茶町でクレヨンをつくっている「トナカイ」(https://www.tuna-kai.com/)に勤めている方が中心となり、十勝で取れた自然の素材――例えば、タマネギの皮だとかヨモギの葉を使って、100%自然素材のクレヨンを作り出しました。これは海外でとても受けるのではないかと思っています。国連のSDGs(持続的開発目標)といったものにも合致しますし、とても将来性がある商品が生まれつつあります。

 そのほかにも、教諭(先生)として十勝に赴いたベンチャーキャピタリストが、ちょっと時間が空いたからと札幌の農業ベンチャーを見学にいったのですが、見学した企業の事業の面白さと将来性に感じ入って「出資させてほしい」と申し出たことなんかもありました。

 ほかにも、全国の郵便局にあるご当地スタンプを活用したケースも面白かったですね。鳥取県琴浦町の熱中小学校では、琴浦町のランドマークである船上山に「屏風岩」「天皇水」「万本桜」などの名所がありますが、これに地域に流されてきた縁のある後醍醐天皇をモチーフとしたスタンプを作ったわけです。これが正式の風景印として以西郵便局で使われるようになりました。

 その後が面白くて、それを受けて十勝さらべつ熱中小学校では、更別村の郵便局で広大な農地を走るトラクターなどの図案を使ったスタンプを作ったのですが、そこに「QRコードを入れてみてはどうか?」というアイデアが出た。そこで地域の情報にスマートフォンからアクセスできるQRコード入りのスタンプを試作して実証実験をしたわけです。

 これまで何でもなかったスタンプが、QRコードを加えたことでデジタル世界に移行できるわけですから、ちょっとしたイノベーションですよ。ハガキや手紙のスタンプに使えば、最新の地域情報をQRコードとネットを通じて発信できるようになるんですから。

 しかしこれは、残念ながら郵便局側が難色を示して採用には至りませんでした。でも、そのQRコードスタンプを今度は高知県越知町の熱中小学校(名称は「越知ぜよ!熱中塾」)が活用して、越知町を流れている「奇跡の清流」と呼ばれる仁淀川の流域にある自治体の仁淀川町、越知町、佐川町、日高村、いの町、土佐市が連携して情報を発信するためのスタンプとして活用し始めたんですね。こういう“横展開”の速さが、民間の良さでもあるわけです。

「地方にも仕事はあるが、売り出す言葉をつくる力がない」

――熱中小学校の活動を通じて、地方で活躍できる人材の育成を刺激してきたわけですが、地方が経済的に自立していくにはまだまだ壁がある、困難があるとの意見もあります。これをどう突破していくのがよいのでしょうか

 「地方には仕事がない」という人が多くいますが、実際には仕事ってたくさんあるんです。何しろ人がいないわけですから。人手不足で回っていないということは、かつてそこには人がやっていた仕事があったということです。

 でも、お金に結びつけることに疎いケースが多い。例えば、都会から人がやってくると、人がいいから無料であちこちを案内して回る。お金は取らない。ネットを通じて地域の魅力を語れば、もっとお金を払ってでもやってきたい人がいるのに、ネットで語る言葉を持たないし、それを書けない。

 人が外から入ってくる前に「自分で売っていく」ことができるかどうか。インテリジェンスを使って、どう生き延びるかを考えねばならない時代です。幸いにして、熱中小学校ではさまざまなアイデアを元にした地元ならではの特産品を生み出す例が増えています。それを全国に流通させようと、「熱中通販」というようなEC(電子商取引)サイトも立ち上げました。これからさらに充実させねばならないと思っています。

熱中通販のウェブサイト(https://necchu-shogakkou.com/ec/)
熱中通販のウェブサイト(https://necchu-shogakkou.com/ec/)
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国に頼らない新しい地方創生への挑戦

――そもそも、なぜ、こうした事業を始めようと考えたのですか。

 2011年3月11日の東日本大震災が起きた後に、「日本はどうなるのか、自分に何ができるか」と考えて、まず東京で「オフィス・コロボックル」という個人事務所を構えました。そこを開放することで、いろんな人が知恵を出し合い、インテリジェンスで新しい何かを創っていくことを考え、その一つが「熱中小学校」となったわけです。優秀な才能ある人を集めることで、新しいことを生み出せる。それを全国に広げていった結果が熱中小学校であるとも言えます。

――その東京にあるオフィス・コロボックルを2019年末に閉鎖して、今度は宮城県丸森町に移転しました。その狙いは何でしょうか。

 熱中小学校という米国シアトルにまで広がったプロジェクトは一定の成果を生み出したという判断から、今度は新しいことに挑戦できないかと考えています。

 これまで熱中小学校は、国の「地方創生関係交付金」などを活用するケースがほとんどでしたが、その交付金も20年度で第1期が終了します。今度は、国の補助なしでもできることがないかと考えて、今年からはその方針で活動したいと考えていました。

 一つは、企業などと組んで、50代以降のシニア世代社員を地方にある企業に「インターンシップ」として派遣する仕組みづくりです。政府は70代になっても働いてほしいと思っているかもしれませんが、企業はやはり50代より上の世代が長くいても困ると思っている面もある。そこで、企業が早期退職支援などにかける資金を使って、経験のある有能なシニアを地方の企業で働く経験をしてもらう、というスキームです。

宮城県丸森町で「復興型」の熱中小学校を<

 もう一つが、新たに宮城県丸森町に移って今年からの開始を目指す「復興型熱中小学校」です。私の事務所も移転し、「オフィス・コロボックル・ノマド」という名称で新たに始めます。

 丸森町は昨年10月の台風19号で大きな被害を受けました。もともと丸森町は熱中小学校を開校する候補地として昨年から自治体と調整を始めていたのですが、当初は町おこし予算案に計画が乗らないなどで検討を断念した経緯があります。しかし、台風に被災して役所の体制は一変し、震災復興を最重要と考えるようになった。現在では物理的に被災した建物を復旧させていくフェーズですが、中期的には町の再興という視点から新しい人材や企業の育成・誘致が必要だと考えるようになりました。

 そこで今年1月から私のオフィスを丸森町の起業家育成シェアオフィス「CLUSTA(クラスタ)」に移転する形で「復興型の熱中小学校」という企画を進めていくことにしました。

 丸森町では現在、企業の意志のある人23人を「町おこし隊」として採用し、外部コンサルタントの力を借りて3年間で起業させていく計画です。私(堀田氏)はここでも用務員として調整役を務めます。

 今年は9月までの間に3回程度のオープンスクールを実施するほか、6月には生徒40人ほどで熱中小学校の「丸森復興分校」を開く計画です。復興が最優先でお金もないため、クラウドファンディングで資金を手当てするほか、先生もできるだけボランティアで交通費や宿泊費をかけてでも丸森町にやってきたいという方をお呼びしていこうと思っています。

 新しい時代を地方が生き抜いていくため、地方でも大人が学び続けていく機会をもっともっと提供できたらと考えています。新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大して、熱中小学校も米シアトルなど6校が一時的に休校となっていて、ネットでの授業再開も模索しています。

 しかし、やはり熱中小学校は地方に集まって熱気を伝え合うのが重要だと思っています。その点で、特に首都圏など大都市圏での人口や経済の集積に対しては、見直すべきとの機運が高まってきているのではないでしょうか。宮城県丸森町や旭川市江丹別など4月以降の開講を目指している熱中小学校でも、首都圏の方が参加する比率が高まっています。地方にワークシフトしていくことは熱中小学校にとっても追い風だと思っています。

堀田一芙(ほった・かずふ)
一般社団法人 熱中学園代表理事
堀田一芙(ほった・かずふ) 1969年慶応義塾大学大経済学部卒、日本アイ・ビー・エム入社。PC販売、ソフトウェア、ゼネラルシステムの各部門で事業部長などへて常務取締役。1976年インディアナ大学MBA取得。2007年に59歳で日本アイ・ビー・エムを退社し、2011年の震災を機にオフィス・コロボックルを開設して熱中小学校を含む地方創生プロジェクトの支援を開始。2019年3月に一般社団法人・熱中学園を設立し代表理事に就任。多くのハイテク企業でも顧問や取締役などを務めた。
訂正履歴
初出時、2ページの写真キャプション中「高畑熱中小学校」とありましたが、正しくは「高畠熱中小学校」です。お詫び申し上げます。記事は修正済みです。[2020/5/18 17:45]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/042000069/