昨年の「徳島LEDアートフェスティバル2016」(12月16日~25日)では、世界を舞台に活躍するアート集団「チームラボ」の猪子寿之代表が芸術監督を務めた。猪子代表は徳島出身で、フェスティバル会場ともなった新町川や城山の近くで生まれ育ったという。
チームラボは、東京大学工学部を卒業した猪子代表が同級生らと創業したアート集団だ。プログラマーやエンジニア、数学者、建築家、デザイナーなどの様々な専門家で構成され、メンバー数は約400人。約47万人が訪れた「チームラボ 踊る!アート展と、学ぶ!末来の遊園地」(2014年~15年、日本未来科学館)など、国内・海外で数々のアート展を開催してきた。
昨年の徳島LEDアートフェスティバルでは、川や緑地帯などの自然を舞台にした壮大な作品を展示。猪子代表に、それらの作品の意図のほか、土木構造物を装飾する意味などについて聞いた。
なお、アートフェスティバルのレポート記事については、「日経コンストラクション・ウェブサイト」掲載記事(前編:「光の球体」で夜の街が一変、後編:幻想的な空間へいざなう周遊船)をご覧いただきたい。
徳島だからこそ実現できた幻想的な空間
――「徳島LEDアートフェスティバル2016」で展示されたチームラボの作品は、川や森をそのまま包み込んでしまうような壮大なスケールでした。特に新町川に132個の光る球体を浮かべた作品「呼応する球体のゆらめく川」は、川の夜間景観を一変させ、訪れた人たちを圧倒していました。
もともと新町川の水際公園は、川と公園の境界が曖昧で、川の水がそのまま公園内部へと引き込まれたつくりになっています。この親水空間から川の中まで「球体」を配置しました。訪れた人が球体に触れるとLEDの光の色が変化し、その色特有の音色が響くという作品です。さらにこれに呼応して、川の中の球体の色や音色が同じように変化していきます。
――アートフェスティバルの期間に新町川を運航する夜間周遊船に乗りました。人の鼓動のように光の色が強くなったり弱くなったり、その色が次々に変化したりするさまを間近に見て、まるで異次元に来たような気持ちになりました。
もしも同じような作品を大阪などの都心部の川に浮かべたとしても、周りのネオンやビルの明かりで、ここまで幻想的な空間にはならなかったでしょう。
徳島の人口減少傾向は顕著で、都会に比べると近代的なビルや巨大な商業施設などは少なく、訪れた人は寂しいと思うかもしれません。けれども、そのおかげで街の中心部に、市民にとって近い存在である新町川のような川や、城山のような巨大な「原生林」が残ったわけです。
東京は近代化に伴い、川が次々に地下化されてしまいました。しかし徳島には、まるで公園から水辺にそのまま入っていけるようにデザインされた川がある。徳島の中心部に存在するこれらの自然は、実はものすごく価値があると思っています。