ど真ん中に原生林や川が残る世界でも珍しい都市
――アートフェスティバルで芸術監督を務めた今回のイベントを通して、徳島で実現したいと思われたことがありましたら、教えてください。
僕は新町川の近くで生まれ、城山の麓の小学校に通い、大学進学のために18歳で東京に出るまでは、徳島で過ごしました。その後、世界の様々な街でアートプロジェクトを実践してきたのですが、改めて感じるのは、徳島のように県庁所在地のど真ん中に原生林が残っていて、多くの川が流れている都市は、世界でも珍しいということです。
例えば、地域を代表するような大きな美術館がある街では、美術館の中で展覧会をすればいいし、そうした条件下であればもちろん僕らもそうします。けれども徳島には、美しい川や森が、市民に近い存在として街の中心部に広がっている。そうであれば、この自然をそのまま生かすという概念で、アートフェスティバルを実現したいと思ったのです。
今回のイベントでは、光と音とテクノロジーを使って、これらの森や川、街を丸ごとアート空間に変化させました。そうした空間を体験してもらうことで、県外の人たちが「わざわざ徳島に来て良かった」と思い、あるいは住民が「ここに住んでいて良かった」と思えるようなものをつくりたいと思ったのです。
都会と違って、人口流出が止まらない地方都市では、少し居心地が良かったり、格好が良かったりするだけの公共空間をつくっても、なかなか人は集まってはくれません。圧倒的なアート空間として、ある種、異物のものをつくる──。そうすることで徳島にわざわざ足を運びたくなるような、体験の場をつくっていけるのではないかと考えたのです。