「良かったこと」を共有することで、さらに良い街になっていく

――「不便なこと」ではなく「良かったこと」を調べるのはどうしてですか。

星川 もともと「不便さ調査」はずっとやっていました。これをやるとマイナスからゼロまでは行くんですね。でも、悪いところを指摘していても「ゼロからプラスに」というのが難しい。北風と太陽みたいな感じでしょうか。そこで、良いところをみんなで共有して伸ばしていけるような調査ができないか、ということで始めたのが「良かったこと調査」です。

――調査結果は、どのように理解し、活用していったらよいでしょうか。

星川 ご存じのように、障害者差別解消法では、社会生活をする上でのバリアについて、障害者から対応を求められた場合、過度の負担でない限り合理的配慮の提供を拒んではならないことになっています。

 国や自治体は法的義務、民間事業者は努力義務ということになっていますが、社会的な潮流としては、民間も努力から義務として対応すべきだという方向に変わってきています。一方で、そもそも合理的配慮(Reasonable accommodationの訳語)とはどういうことなのか、みんなよく分からない。分からないがゆえにあまり手を付けてこなかったという面もあります。

 そして、調査して見えてきた「良かったこと」というのは、ほとんどイコール合理的配慮なんです。例えば、「店員さんがこんなふうに話し掛けてくれて良かった」といったこともそうです。このように、お金を掛けなくてもできることはすごくたくさんあるんです。

杉並区の「良かったこと調査」より。食堂やレストランでは、「ステッキを立てる場所がある」といったハード面の工夫から、「手話でありがとうと言ってくれるだけでうれしい」といったソフト面まで、いろいろな「良かったこと」が集められている。調査報告書では、「駅」「乗り物」「食堂・レストラン」「商店街・道・イベント」など、街の中の空間ごとに、ぞれぞれの「良かったこと」についての個別の声をまとめている(資料:共用品推進機構「共生社会を目指した地域の取組みに関する調査報告書 ~ 東京・杉並区の良かったこと調査を通して ~(ウェブ版)」)
杉並区の「良かったこと調査」より。食堂やレストランでは、「ステッキを立てる場所がある」といったハード面の工夫から、「手話でありがとうと言ってくれるだけでうれしい」といったソフト面まで、いろいろな「良かったこと」が集められている。調査報告書では、「駅」「乗り物」「食堂・レストラン」「商店街・道・イベント」など、街の中の空間ごとに、ぞれぞれの「良かったこと」についての個別の声をまとめている(資料:共用品推進機構「共生社会を目指した地域の取組みに関する調査報告書 ~ 東京・杉並区の良かったこと調査を通して ~(ウェブ版)」)

 そんな「良かったこと」を、ある市の中で、町の中で、村の中で、みんなで共有することによって、地域全体に「良かったこと」が広がります。さらに、「それなら、こういうことだってできるよね」という気づきにつながります。こうしてより良い地域になっていくわけです。

――そんな街であれば、多くの人が出歩きたくなって、結果として健康増進にもつながりそうです。こうした地域での「良かったこと」調査は、自治体が調査主体となるのでしょうか。

星川 地域によってそれぞれです。自治体が予算を付ける場合もあれば、地域のNPOなどが中心となる場合もあります。

 ただ、自治体で新しい調査をやるとなると、新たに予算を取らなくてはならず、なかなか難しい面もあるようです。各市町村では、障害者・高齢者のニーズ調査をやっているはずなので、その中に、不便なことや要望だけでなく「良かったこと」という項目を増やしてもらえれば普及が進むと考え、そのための方策を練っているところです。同じような調査が全国各地でできれば、さらには国際的にも共通の調査ができればと思っています。