企業がリサイクルを考えるきっかけづくりを上勝町で
――ゼロ・ウェイストアカデミーで今後やりたいことを教えてください。
そうですね。アカデミーの活動から多くの人たちが着想を得て、いろいろな取り組みが始まっているというのは確かに素晴らしいのですが、今のモデルだけではごみがゼロになるということはありません。(私が共同議長を務めた2019年1月の)ダボス会議*2でも報告したのですが、上勝町のリサイクル率は現在81%に達していますが、商品の設計段階、流通前の段階から変えていかなければ、残り19%を減らしていくことは難しいでしょう。それには、企業を変える、あるいは社会の制度設計を変えていかないと、どうしようもありません。そのためにどうしたらいいのか、というのが次の動きになると考えています。
もちろん、上勝町の小さなNPOがどれだけ「変えよう」と言ったところで、企業や社会は大して変わりません。まず、私たちの考え方がマジョリティになる必要があります。そのために情報発信を通じてビジネスの動向、条例や国の政策に影響を与えたいと思い、頭を悩ませています。
――企業からリサイクル関連ビジネスの相談を受けることはありませんか。
何社かの企業とはお付き合いがありますし、こちらへ来ていただいてリサイクルの何が難しいのかをお話しすることもあります。例えば、紙おむつメーカーの方には、「上勝町でリサイクルできていない19%のごみの2割が紙おむつなんです」という話をして、驚かれました。これが企業の方にリサイクルを考えていただくきっかけになればと思っています。
ただ、上勝町だけだと人口規模も少ないですし、出てくるごみの量もしれています。企業が紙おむつのパイロット事業を上勝町でやるべきかというと、難しい部分もあるかもしれません。例えば同じくゼロ・ウェイスト宣言をしている福岡県大木町では、リサイクル技術を持った企業とパートナーを組んで、紙おむつを全量リサイクルする仕掛けを始めています。なので、いろいろな地域でいろいろな解決策が、それぞれやりやすいところから生まれていくというのでいいとは思うのですが、その最初の種をつくるというところでは、上勝町が貢献できるかなと思っています。企業とパートナー関係を結んで、一緒にビジネスに取り組むやり方については、独自にスタートさせた「ゼロ・ウェイスト認証制度」*3の展開なども含め、現在模索中ですね。
――企業の間でもSDGs(持続可能な開発目標)が注目を集めています。ゼロ・ウェイストにも追い風が吹いているのではないですか。
確かに、日本でもSDGsへの関心が高まっています。ただ、SDGsへの関心が高まったことと、企業がどこかの団体や地域とパートナーを組んで行動を起こすことはイコールではありません。ものすごく感度が高い企業は、SDGsが注目される前からすでに何かしら動き始めています。行動が伴わないうわべだけのSDGsを「SDGsウォッシュ」と呼びますが、言葉だけでそれ以上は進んでいないところもたくさんあります。企業からの視察は確かに増えていますが、パートナーとしてアプローチしてくる企業が以前に比べて増えた印象はありません。ただ、皆さんシーズを探している段階なので、可能性はあるとは思います。
世界的に見ると、SDGsはみんなで取り組む必要がある共通認識だとは思うのですが、その感覚は、日本とはだいぶ違います。世界的には、「SDGsに取り組む」と言うよりは、サステイナビリティならサステイナビリティの文脈で「必要なアクションをする時の指標としてSDGsを使いましょう」ということだと思います。日本のように、SDGsが掲げる目標やターゲットを見て「この中から選んでやらなければ」みたいな感じではありません。
――10年後、20年後にご自身はどうなっていると考えていますか。
難しい質問ですね。大きなミッションとしては、やはりサステナブルなこと、地球自体の環境が良くなっていくことに貢献したいとは思っています。でも、読めないですよね、10年後の社会がどうなっているのか。5年後、1年後でも怪しかったりしますから。
とはいえ、せっかくローカルな地域に軸足を置いて経験を重ねているので、それを他でどう展開していけるのか。政策レベルへの関与に転換していけるような仕掛けがどうできるのか。あるいはビジネスに寄与できる部分は何なのか。そうした転換のインタープリター(翻訳者)という文脈で活動できるようになりたい、そのためにはどうしたらいいのかをこの先2年ほど模索したいと考えています。
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長