人口1600人弱の徳島県上勝町が取り組むゼロ・ウェイスト運動。ごみの発生を極力抑制し、出てきたごみを資源として循環させるという考え方で、ごみを13品目45分別するなど実践に結びつけている。SDGs(持続可能な開発目標)、サーキュラー・エコノミー(循環経済)という文脈からも世界的に注目を集め、各国から視察や研修のために多くの人が訪れる。この活動の現場を支えているのが特定非営利活動法人のゼロ・ウェイストアカデミーだ。理事長の坂野晶氏にその活動内容や海外に向けた情報発信、今後の展開などについて聞いた。

ゼロ・ウェイストアカデミーの坂野晶理事長(写真:日経BP総研)

――ゼロ・ウェイストアカデミーの設立の経緯をお聞かせください。

 上勝町は2003年、日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行い、2020年を目標にゼロ・ウェイスト、つまり焼却・埋め立てせざるを得ないごみを極力減らすという宣言をしました。その際、行政だけではやりにくい部分、例えば、仲間を広げたり、人材育成をしたりといったことがフレキシブルにできるように民間組織をつくろうということになり、2005年に特定非営利活動法人のゼロ・ウェイストアカデミーができました。私が理事長に就任したのは2015年11月です。

――どのような活動を行っていますか。

 活動の基礎となる収入は、行政からの受託事業で得てきました。受託事業は主に2つあって、1つがごみステーション(日比ヶ谷ごみステーション)の管理・運営を含めた一般廃棄物の中間処理業務。上勝町はごみ収集車がごみを集めるのではなく、町民がごみを分別して自ら施設に持ち込む「資源持ち込み方式」を採用しており、ごみステーションというのは、ごみの持ち込み先となる施設のことです。こちらは2018年度から町の直営に戻しているので、17年度までの事業です*1。もう1つがシルバー人材センターの管理・運営事務局の業務です。そのほか、この2つの周辺の様々な事業を上勝町から受託する形でやっています。

上勝町のごみが集まる「ごみステーション」。上勝町では、住民がごみを13品目45分別。「まだつかえるもの」「生ごみ」の2品門2分別以外はすべてここに廃棄する(写真:日経BP総研)
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*1 上勝町では新たなごみステーションの建設を予定している。この新ステーションとアカデミーとの連携については現在のところ詳細は決まっていないという。

――具体的にはどのようなことをしているのですか。

 例えば、ごみステーションにごみを持ち込めない高齢者のお宅を訪問してごみを回収する事業は、2017年度までアカデミーが担当し、18年度から町の直営になりました。

 このほか、不用品を無料で譲渡するリユースショップ「くるくるショップ」をごみステーションの中で運営したり、古い着物やこいのぼりを地域の方が衣服や雑貨としてリメイクして販売する「くるくる工房」を運営したりしています。

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ごみステーション内のリユースショップ「くるくるショップ」の様子(写真:日経BP総研)
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リメイクショップ「くるくる工房」店内(写真:日経BP総研)

町のゼロ・ウェイスト政策立案をコーディネート

坂野氏の背後の壁に吊るされているのは、地元の古い大きなこいのぼりをリサイクルした衣類。「くるくる工房」で縫製・販売している(写真:日経BP総研)

 このように現場運営をしている中で出てきた課題や、「こうした場合はこのような施策が必要ではないですか」といったことを行政側にフィードバックもしています。上勝町は小さな自治体ですから、ごみの担当者は他の業務と兼任の1人しかいませんし、当然、手が回らない部分が出てきます。そこで、アカデミーがシンクタンク的な役割を果たしてゼロ・ウェイストに関する計画をつくり、その実行まで担当するわけです。例えば、2015年に上勝町の「ゼロウェイスト・タウン計画」の策定をコーディネートしました。町のゼロ・ウェイスト達成の目標年である2020年までの5年をどうしていくのか、ということをまとめたものです。

 2016年度以降はこの計画を実行するということで、様々なプロジェクトを進めています。例えば、布おむつを新生児のお宅に町のギフトとして差し上げることによって、使い捨てのおむつの使用を考え直すきっかけにしようという取り組みがあります。単に布おむつをあげるだけでなく、トライアルの家庭のモニタリングをしたり、あるいは布おむつをいきなり渡されてもお母さんたちは使い方が分からないということもあるので、そのサポーター制度をつくったりとか、そんなことを行っています。

 そのほかにも、店で買い物をして、レジ袋を断ったらポイントがたまる仕掛けを町内全域で展開したり、お客さんが容器を持参すれば、食料品などをパッケージなしで必要な量だけ販売する「量り売り」を導入するお店のサポートをしたりなどもしています。

――視察や研修の受け入れも積極的です。

 上勝町は視察や研修という形でいろいろな人にお越しいただいていますので、そうした人たちに向けて、ゼロ・ウェイストのことを学んでいただくプログラムを提供しています。逆に、相手先へ出向いて講演することもありますし、子供向けの教育プログラムのために学校へ行くこともあります。

――これまで、どれくらいの人たちが視察したり研修を受けたりしたのですか。

 人数は数えていないため正確には把握していませんが、年間ではおよそ1000人以上になります。しかも、日本だけではなく全世界からいらっしゃいます。日本国内からは研修と言うよりは視察が多いですね。市民グループ、行政、それに有志の方などが、上勝町はどんなことをやっているのかを学んでいかれます。その後、上勝町をモデルに「くるくるショップみたいなことを自分たちで始めました」「うちの行政でもゼロ・ウェイスト宣言をしました」というご連絡をいただくこともあります。

――研修の中で、特に学んでいってもらうポイントはありますか。

 そうですね。上勝の場合、まず分別回収が注目されているのですが、でも住民みんなに分別に参加してもらったり、回収してリサイクルするためのインフラをつくったりするのはすごく大変です。そこから始めるのは多分厳しいし、行政を巻き込まないといけないので時間が掛かる。なので、まずは「リユースショップを楽しく始めましょう」からでもいいとお話しています。来る人にもよるのですが、自分が何かお店をやっているのであれば、そのお店ではシングルユースのプラスチックは出さない、と。そして、それはなぜかという説明をするところからでもいいので、やりやすそうなことを見つけて、ファーストステップを決めるということを大事にしていますね。「できたらいいな」と思いながら上勝町から帰って、でも結局大変そうで動かないというのは、すごくもったいないですから。

海外と連携し、ゼロ・ウェイストの逆輸入を

――海外から来る方のおおよその比率と滞在期間はどのくらいですか。

 研修・視察合わせて全体のおよそ3割ぐらいです。滞在期間は人によりますが、実務を経験するインターンシップだと1カ月、人によっては数カ月ということもあります。プログラムは、それぞれのニーズ、滞在できる期間、予算に合わせて組んでおり、1日だけの人もいれば、数日間、数週間という方もいます。海外向け研修プログラムだけをプロモーションしているわけではなく、アカデミーがどういった活動に取り組んでいるかの海外向け情報発信に力を注いできました。おかげで、全世界から人が来てくれるようになりました。

――海外から訪問された方との間に継続的なネットワークはあるのですか。

 帰国後の取り組みの様子を教えてくれたりとか、海外に呼んでもらったりといった交流はありますが、継続的に「この地域とプロジェクトをしています」という形はありません。ただ、上勝町のゼロ・ウェイストをモデルに、私たちが知らないところで展開している事例が出てきているようです。例えば、この前、知り合いの大学教授の方が久々に来られて、「マレーシアでごみの取り組みを視察した時、リユースショップが新しくできていて『これ上勝町のくるくるショップと同じだね』と話したら、『実はそうなんだよ。くるくるショップをまねしたんだ』って言われたよ」とおっしゃっていました。私はその事例を全然知らなかったのですが、そういう形で皆さんが上勝町をモデルにアイデアを広げるという、素晴らしい好循環の状態に入っているようです。

――海外への情報発信に力を入れている目的は何ですか。

 大きく2つあります。1つは、経済効果です。来てもらって映像を見て話をするだけであれば、確かに私たちの活動を知ってもらう機会にはなりますが、それによって何かプラスアルファが生まれるわけではありません。上勝町という地域の視点で考えた時、視察に来た方が宿泊をしてご飯を食べて、地域の中でお金を落として帰ってもらわないと意味がないわけですね。日本国内の、いわゆる議員の方たちの「予算があるから視察に行こう」といったものだけでは視察は減っていきます。やはり海外からの、観光も含めて上勝町に学びに来るための動線をつくることが大事だと個人的に思っています。

 もう1つは、日本だけでゼロ・ウェイストを横展開するより、海外にネットワークを広げて、そこから逆輸入する方が日本は変わりやすいと考えたからです。日本では、そもそも「焼却ありき」で廃棄物処理の仕組みができあがっています。レジ袋を有料化する条例をつくるだけでも相当時間が掛かっているのが実情です。上勝町の取り組みを海外に発信して、海外からの注目が高まることによって逆に日本が気付くというモデルにしないと、上勝町におけるゼロ・ウェイストの価値は広がらないでしょう。

――確かに強力な焼却炉があると、ごみを分別する動機が薄くなりそうです。

 日本の場合、大型の焼却炉や設備に投資をしてきました。だからそれを使い続けるという構造になっている。焼却ありきだと、そもそもリサイクル技術にもっと投資をしようとか、リサイクルする前提で回収の仕組みをつくろうという話にはなかなかならなかったりしますよね。焼却炉を扱うビジネスも、現状のエコシステムの中にありますし。

 長期的に見た時に、資源回収とリカバリーという流れは絶対必須になってくるはずです。ただ、政策としてそういう方向性をつくらなければ、なかなかシフトチェンジはしないでしょう。とはいえ、広域の焼却炉をつくってきたのは、ビジネスではなく政策だったので、ごみ処理の文脈に関しては、そこは変わる必要があるのかなと思います。

――住民の意識はどうやって変えていきますか。

 一つは透明性じゃないかと思います。分別回収しても「あれって全部燃やされているらしいよ」みたいな話になると「じゃあ何もやらなくても良くない?」みたいな話になってしまいます。これを、ちゃんと分けることで、こういうふうにリサイクルされて、それによってこれだけお金が掛からなくて済んでいて、こうなっていますっていうのを見えるようにする。つまり、すべてのフローをクリアにすることがまずは大事じゃないかと思います。

 上勝町では、ごみステーションに全部書いています。具体的にやっぱりこっちに分けるといくら掛かる。こっちだとこれだけ安いというのが見えると、「じゃあ分けようか」となります。説明しやすいわけですね、私たちとしても。紙はお金になります。だから分けてくださいっていうのは分かりやすいわけです。やっぱりおばあちゃんたちも、「あ、これ売れるんか、って。売れるんだったら分けようか」と、そう言ってくださいます。

分別するごみの分別種類ごとに廃棄費用やリサイクル収入を見える化している(写真:日経BP総研)
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 上勝町の場合は、自分たちの焼却炉を持っていないので、焼却が一番高いんですよ。なるべく分けてリサイクルに回してくれた方が安い、と説明しています。「それでごみ処理にかけるお金が減るので、税金は他の医療費だったりとか、福祉だったりとか、教育にお金を使えますよね」というロジックなので、そこは大事かなと思っています。

――焼却炉があると、別の説明の仕方も考えなければいけない?

 そうですね。そこが難しいですね。やはりお金の面では、焼却の方が安いという話になるので、そこは変えていく必要があります。

企業がリサイクルを考えるきっかけづくりを上勝町で

――ゼロ・ウェイストアカデミーで今後やりたいことを教えてください。

 そうですね。アカデミーの活動から多くの人たちが着想を得て、いろいろな取り組みが始まっているというのは確かに素晴らしいのですが、今のモデルだけではごみがゼロになるということはありません。(私が共同議長を務めた2019年1月の)ダボス会議*2でも報告したのですが、上勝町のリサイクル率は現在81%に達していますが、商品の設計段階、流通前の段階から変えていかなければ、残り19%を減らしていくことは難しいでしょう。それには、企業を変える、あるいは社会の制度設計を変えていかないと、どうしようもありません。そのためにどうしたらいいのか、というのが次の動きになると考えています。

 もちろん、上勝町の小さなNPOがどれだけ「変えよう」と言ったところで、企業や社会は大して変わりません。まず、私たちの考え方がマジョリティになる必要があります。そのために情報発信を通じてビジネスの動向、条例や国の政策に影響を与えたいと思い、頭を悩ませています。

*2 坂野氏は、2012年から世界経済フォーラム(ダボス会議)の33歳以下のネットワークであるGlobal Shapersのメンバーとして活動。19年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会では、このGlobal Shapersから6人の若手リーダーが選出され、マイクロソフト社代表取締役らとともに、坂野氏が共同議長を務めた。

――企業からリサイクル関連ビジネスの相談を受けることはありませんか。

 何社かの企業とはお付き合いがありますし、こちらへ来ていただいてリサイクルの何が難しいのかをお話しすることもあります。例えば、紙おむつメーカーの方には、「上勝町でリサイクルできていない19%のごみの2割が紙おむつなんです」という話をして、驚かれました。これが企業の方にリサイクルを考えていただくきっかけになればと思っています。

 ただ、上勝町だけだと人口規模も少ないですし、出てくるごみの量もしれています。企業が紙おむつのパイロット事業を上勝町でやるべきかというと、難しい部分もあるかもしれません。例えば同じくゼロ・ウェイスト宣言をしている福岡県大木町では、リサイクル技術を持った企業とパートナーを組んで、紙おむつを全量リサイクルする仕掛けを始めています。なので、いろいろな地域でいろいろな解決策が、それぞれやりやすいところから生まれていくというのでいいとは思うのですが、その最初の種をつくるというところでは、上勝町が貢献できるかなと思っています。企業とパートナー関係を結んで、一緒にビジネスに取り組むやり方については、独自にスタートさせた「ゼロ・ウェイスト認証制度」*3の展開なども含め、現在模索中ですね。

*3 ゼロ・ウェイストに取り組む事業所を認証する制度。2017年4月に上勝町町内の飲食店6店舗を初認定。19年4月にはパートナー認定第1号として象印マホービン「給茶スポット」を認定した。

――企業の間でもSDGs(持続可能な開発目標)が注目を集めています。ゼロ・ウェイストにも追い風が吹いているのではないですか。

 確かに、日本でもSDGsへの関心が高まっています。ただ、SDGsへの関心が高まったことと、企業がどこかの団体や地域とパートナーを組んで行動を起こすことはイコールではありません。ものすごく感度が高い企業は、SDGsが注目される前からすでに何かしら動き始めています。行動が伴わないうわべだけのSDGsを「SDGsウォッシュ」と呼びますが、言葉だけでそれ以上は進んでいないところもたくさんあります。企業からの視察は確かに増えていますが、パートナーとしてアプローチしてくる企業が以前に比べて増えた印象はありません。ただ、皆さんシーズを探している段階なので、可能性はあるとは思います。

 世界的に見ると、SDGsはみんなで取り組む必要がある共通認識だとは思うのですが、その感覚は、日本とはだいぶ違います。世界的には、「SDGsに取り組む」と言うよりは、サステイナビリティならサステイナビリティの文脈で「必要なアクションをする時の指標としてSDGsを使いましょう」ということだと思います。日本のように、SDGsが掲げる目標やターゲットを見て「この中から選んでやらなければ」みたいな感じではありません。

――10年後、20年後にご自身はどうなっていると考えていますか。

 難しい質問ですね。大きなミッションとしては、やはりサステナブルなこと、地球自体の環境が良くなっていくことに貢献したいとは思っています。でも、読めないですよね、10年後の社会がどうなっているのか。5年後、1年後でも怪しかったりしますから。

 とはいえ、せっかくローカルな地域に軸足を置いて経験を重ねているので、それを他でどう展開していけるのか。政策レベルへの関与に転換していけるような仕掛けがどうできるのか。あるいはビジネスに寄与できる部分は何なのか。そうした転換のインタープリター(翻訳者)という文脈で活動できるようになりたい、そのためにはどうしたらいいのかをこの先2年ほど模索したいと考えています。

坂野晶(さかの・あきら)
特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長
兵庫県西宮市生まれ。関西学院大卒。海外インターンシップ事業を展開する国際的な学生NPOアイセックのモンゴル代表などを経て、2015年にNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミー理事長に就任。

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