地域をよくする“小商い”を促進

――改正法によってスポンジ化への対応策が制度化されたことでどのようなことが可能になるとみていますか。

 対応策として基本的な枠組みはあったものの、それに現場で取り組もうとすると滞りがちになる点がある。そこを、税制優遇などで進みやすいようにしていくという意義があるとみています。特別に画期的なことができるようになるわけではありません。スポンジ化という課題を抱えている自治体が、先進自治体と同じような対応策に取り組んでいくとき、例えば先進自治体で5年掛かりだったものが3年で済むようになる。そんな印象です。

 民間にとっては、スポンジ化への対応策にビジネスとして取り組むきっかけになると考えています。地場の宅建業者や工務店が取り組みやすいスキームを想定しているからです。スポンジ化への対応策は、不動産の開発という“大商い”ではなく、不動産の運営・管理という“小商い”です。ただ、小さなビジネスながら、地域をよくするという大義がありますので胸を張ってできる仕事になるはず、と期待しています。

――スポンジ化への対応策で空き家や空き地の活用が進んでいくと、コンパクト・プラス・ネットワークが、そのうち実現されていくとみていいですか。

 コンパクト・プラス・ネットワークは、公共による都市機能整備の取り組みを一つのコアとする都市構造です。しかし、そのコアは何も一つである必要はありません。

饗庭氏の発想に基づくスポンジ化対応策とコンパクト・プラス・ネットワークの関係。公共が都市機能を整備する一方で、民間が「スポンジの穴(空き家・空き地)」を活用していく。すると、それらを中心に居住地の維持が図られ、コンパクトシティ化が次第に進んでいくというシナリオを描く(資料:首都大学東京・饗庭研究室)
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 上の図をご覧ください。グレーの小さな丸はスポンジの穴。空き家や空き地です。赤丸は、それを活用した民間の取り組みを指しています。つまり、スポンジ化への対応策です。その周囲で居住地が維持されるようになっていけば、都市のコアはおのずと、公共による都市機能整備の取り組みを指す黄色の丸だけではなくなります。場合によっては、民間の動きを見極めた上で、赤丸の部分を都市機能誘導区域に指定するということも考えられます。

 コンパクトシティというゴールは合理的ですが、問題はそこに至るまでのプロセスをどう組み立てるかということです。ゴールに至るまでに住民が感じる幸福の総量をできるだけ多くするようにプロセスを組み立てることが大事ではないかと考えています。その時に、あちこちで空いてくるスポンジの穴を使って民間や住民が自分たちの暮らしをよくするような取り組みを応援し、うまくいけばそこをコンパクトシティの新しい核にしていきます。行政が一方的に集約エリアを定めていくのではなく、たくさんの人たちの前向きな動きを引き出しながら進める方が、住民が感じる幸福の総量が増えていくのではないでしょうか。

――日本経済新聞社の立地適正化計画に関する調査(2018年4月発表)、などからも見て取れるように、都市機能誘導区域や居住誘導区域の区域外での開発が進んでいる実態もあります。このことは、自治体の集約化政策の阻害要因となっているといえそうですが、スポンジ化対策にも影響を及ぼしますか。

 確かに、地価が比較的安い居住誘導区域の外への開発圧力が強いため、赤丸の周囲で居住地が自然に維持されるようになっていくという流れは望みにくいと思われます。つまり、スポンジ化対応策の効果が出にくくなっているという面はあると思います。

 区域内の土地所有者が空き家などを放置せず、居住地の維持に向けて自ら適切な行動を取るように、自治体には「空き家等対策の推進に関する特別措置法」などを活用し、彼らの背中を少し押すような対策も求められます。土地所有者が立地のいい土地を合理的な価格で供給しようとするなら、区域内への集約化は進んでいくはずです。

饗庭伸(あいば・しん)
首都大学東京教授
饗庭伸(あいば・しん) 早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学理工学研究科博士課程を経て博士(工学)取得。同大学理工学部建築学科助手、東京都立大学工学研究科建築学専攻助手などを経て現職。国土交通省の社会資本整備審議会・都市計画基本問題小委員会の委員を務める。専門は、まちづくり、都市計画。主な著書に、「都市をたたむ」(2015年、花伝社)、「白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか」(共著、2014年、学芸出版社)などがある。