スポンジの穴のように空き家や空き地が都市内に散在していく「都市のスポンジ化」。その対応策を盛り込んだ都市再生特別措置法等の一部を改正する法律(以下、改正法)が、今国会で可決・成立した。行政や民間はどのような役割分担の下で何ができるようになるのか――。対応策を検討してきた国土交通省の委員会で委員を務める首都大学東京教授の饗庭伸氏に聞いた。

首都大学東京教授の饗庭伸氏(写真:都築雅人)
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――対応策の中身に入る前にまず、「都市のスポンジ化」とは何か、あらためて教えてください。いまでこそ都市計画の分野では当たり前のように使われる言葉ですが、饗庭さんが最初にお使いになったと認識しています。

 確かに、2015年に花伝社から出版した著書「都市をたたむ」の中で使っていますが、都市計画の世界ですでに何人かの方が指摘されていたことをそう記しただけです。言葉を広めるのには多少貢献したのでしょうが。

 このスポンジ化の前提には、日本の都市では、土地が細かく分かれ、それぞれに強い所有権が設定されているという実情があります。

 仮に散在する空き家や空き地を集約してビルを建てようとしても、所有者各人のライフステージは異なりますし、意思決定のプロセスもそれぞれですから、そう簡単にまとまりません。大変な苦労が伴います。共同ビルを建設することで権利調整に必要なコストを賄えるような好立地であれば、第三者が介入し、所有者をまとめることが考えられますが、そうでない場合には、共同化は考えられません。そんなふうに共同化できる場所は、地方都市では滅多にありません。

 こうした事情から、所有者各人がそれぞれのタイミングと意思決定で土地を売ったり建物を建て替えたりしていきます。一方で人口の総数は減っていくため、空き家や空き地は確実に増え、それが街のあちらこちらに増えていくわけです。それが、スポンジ化です。

――スポンジ化はいつごろから始まったのでしょうか?

 1990年代に地方都市の商店街で空き店舗の発生が問題化し、中心市街地の活性化を図ろうとする法律が誕生しました。当時は、郊外型の大型店に商店街が対抗できなくなるという商業の問題ではないかとみていましたが、いま振り返ると、あれがスポンジ化の始まりだったのではないかと思います。同じことがいま、住宅地で起きているわけです。

――このスポンジ化とは国土交通省が提唱する政策「コンパクト・プラス・ネットワーク」には反するものなのですか。

 スポンジ化は実態の話、コンパクト・プラス・ネットワークは目指すべき都市像の話です。国交省が提唱するコンパクト・プラス・ネットワークの考え方は鉄道駅など交通利便性の高い場所に都市機能を集約しようとするもので、将来像としては合理的だと思いますが、スポンジ化の実態から見るとそう簡単には実現しないでしょう。空き家や空き地が都市郊外部から発生するとは限らないからです。

 実際、スポンジ化は都市全体が同じように低密化していく現象です。つまり、コンパクト・プラス・ネットワークを実現していくには、スポンジ化に適切に対応していく必要があるのです。

地場の宅建業者にコーディネートを期待

――改正法に盛り込まれた対応策は、コンパクトシティの実現に向けて自治体が策定する立地適正化計画と関連付けられています。それも、コンパクトシティの実現にはスポンジ化への対応は欠かせないという考え方の表れですね。

 はい。改正法で定められた対応策の多くは、立地適正化計画で定める都市機能誘導区域や居住誘導区域に限って利用できるものです。これらの区域はコンパクトシティを実現していくうえで重要な場所だからこそ、各自治体が公共として対応策に乗り出すことを可能にしているわけです。

――スポンジ化への対応策の基本とは何でしょうか。

 コーディネートに次ぐコーディネートです。例えば空き地が発生すれば、それを安く譲り受け、隣が空き地になるのを待つ。そしてその土地もいずれ譲り受けることができたら、2つの土地をまとめて開発する。時間をかけてコーディネートを重ねていくことによって、その地域の生活環境を改善し、価値を上げていくわけです。

――コーディネートは行政、民間どちらの役割となりますか。

 例えば、埼玉県毛呂山町では地元の宅建業者がコーディネーターの役割を果たしています。駅前に狭い宅地割りの住宅地があるのですが、そこで空き家が発生すると、その宅建業者が隣地の所有者に、その空き家を購入し、敷地を広げないか、と持ち掛けて2つの住宅を1つに集約するなどして、空き家や空き地が顕在化して住宅地の価値が下がらないように努めてきたわけです。宅建業者のビジネスとしては決して稼ぎがよい仕事ではないようですが、自分のまちという覚悟を持ってこつこつと地道に続けてきたのでしょう。

 地場の宅建業者に対しては、国もコーディネーターとしての役割に期待を懸けています。国交省が定める「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」という告示が改正され、2018年1月以降、売買価格400万円以下の空き家の売買で売り主に請求する仲介手数料は、上限額が事実上、引き上げられました。低廉な空き家のコーディネートの活性化を想定したもので、期待の表れと言えます。

 コーディネートの一端を自治体が担うことも重要です。山形県鶴岡市では、地元の宅建業者を中心に設立されたNPO法人と市がコーディネーターの役割を果たしています。空き家や空き地の所有者と民間事業者とが最初から信頼関係を結ぶのが難しいことがあるため、空き家や空き地の所有者を特定し連絡を取ったりする最初の段階には公共が関わっています。

利用権を設定・交換する制度創設

 実際に空き家や空き地の活用に至った例には、居住者が地域の外に出ていくのを未然に防ぐ一方で、新しい居住者を迎え入れることができたケースがあります(下図を参照)。この例は、NPO法人と市が共催した空き家相談会に空き家Aの所有者と空き家Bの所有者から別々に相談が持ち込まれたのが、活用に至ったきっかけです。その後、NPO法人側から、空き家Aを除却しクランク型の私道を直線に付け替えたうえで、空き家Bも除却する、という事業が提案され、実行に移されました。

山形県鶴岡市と地元のNPO法人が取り組んだ空き家・空き地活用の例。居住者が地域の外に出ていくのを未然に防ぐ一方で、新しい居住者を迎え入れることができた(資料:首都大学東京・饗庭研究室)
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 この事業では、住宅Dの所有者が空き家Bの跡地を取得し、駐車場として活用できるようになったという点が、成果の一つと言えます。近くにクルマをとめられるようになり、住宅地としての利便性が上がったわけです。住宅Cの隣にあった空き地の敷地条件が良くなったという点も、もう一つの成果と言えます。その土地には住宅Cの子世代が住宅Eを新築し居住するようになりました。

――改正法で打ち出された対応策では、この鶴岡市の例のような取り組みを促進するために、公民連携でコーディネートを進める「低未利用土地権利設定等促進計画制度」が位置付けられました(下図を参照)。

子育て支援施設Dと空き地Eの利用権を交換し低未利用地を集約。同じように、公営駐輪場Xと民営駐輪場Bの利用権も交換する。空き家A・空き地C・旧子育て支援施設Dの土地にまちづくり会社Yの利用権を設定し、Yが交流広場と駐輪場Xを一体管理する。低未利用地を魅力向上施設に転換することで、周辺への店舗立地を促す(資料:国土交通省)
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 この制度が想定するケースの一つは、人口20万~30万人程度の地方都市の駅前だと思います。このくらいの人口規模の都市には、駅前にもかかわらず駐車場だらけというところがあります。土地所有者が固定資産税の税額程度を稼げればいいという消極的な発想から駐車場として暫定利用しているわけです。

 低未利用土地権利設定等促進計画制度はそういう場所で公共施設を計画的に生み出していく仕組みです。土地売買を伴うようだと課税の問題を含め事業実施へのハードルが高くなるため、ここでは自治体が策定した促進計画に基づき、複数の土地・建物に一括して利用権を設定します。地権者と利用希望者をコーディネートする役割は公共が担います。ただ、そのコーディネートにあたっては、都市再生推進法人、都市計画協力団体、宅建業者などの専門家と連携し、その知見を活用することが想定されています。

――都市計画協力団体とは聞き慣れない名称です。住民参加のまちづくりの公的な位置付けとして改正法の中で制度創設されたものですね。

 そうです。自治体が指定する団体で、都市計画を提案することができます。提案制度そのものはこれまでもありましたが、身の回りの小規模な提案も可能にしています。高齢化と人口減少が進む地域でリタイア世代が新しくまちづくりに取り組もうとするときに、何らかの手掛かりになるかもしれません。

首都大学東京教授の饗庭伸氏(写真:都築雅人)
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地域をよくする“小商い”を促進

――改正法によってスポンジ化への対応策が制度化されたことでどのようなことが可能になるとみていますか。

 対応策として基本的な枠組みはあったものの、それに現場で取り組もうとすると滞りがちになる点がある。そこを、税制優遇などで進みやすいようにしていくという意義があるとみています。特別に画期的なことができるようになるわけではありません。スポンジ化という課題を抱えている自治体が、先進自治体と同じような対応策に取り組んでいくとき、例えば先進自治体で5年掛かりだったものが3年で済むようになる。そんな印象です。

 民間にとっては、スポンジ化への対応策にビジネスとして取り組むきっかけになると考えています。地場の宅建業者や工務店が取り組みやすいスキームを想定しているからです。スポンジ化への対応策は、不動産の開発という“大商い”ではなく、不動産の運営・管理という“小商い”です。ただ、小さなビジネスながら、地域をよくするという大義がありますので胸を張ってできる仕事になるはず、と期待しています。

――スポンジ化への対応策で空き家や空き地の活用が進んでいくと、コンパクト・プラス・ネットワークが、そのうち実現されていくとみていいですか。

 コンパクト・プラス・ネットワークは、公共による都市機能整備の取り組みを一つのコアとする都市構造です。しかし、そのコアは何も一つである必要はありません。

饗庭氏の発想に基づくスポンジ化対応策とコンパクト・プラス・ネットワークの関係。公共が都市機能を整備する一方で、民間が「スポンジの穴(空き家・空き地)」を活用していく。すると、それらを中心に居住地の維持が図られ、コンパクトシティ化が次第に進んでいくというシナリオを描く(資料:首都大学東京・饗庭研究室)
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 上の図をご覧ください。グレーの小さな丸はスポンジの穴。空き家や空き地です。赤丸は、それを活用した民間の取り組みを指しています。つまり、スポンジ化への対応策です。その周囲で居住地が維持されるようになっていけば、都市のコアはおのずと、公共による都市機能整備の取り組みを指す黄色の丸だけではなくなります。場合によっては、民間の動きを見極めた上で、赤丸の部分を都市機能誘導区域に指定するということも考えられます。

 コンパクトシティというゴールは合理的ですが、問題はそこに至るまでのプロセスをどう組み立てるかということです。ゴールに至るまでに住民が感じる幸福の総量をできるだけ多くするようにプロセスを組み立てることが大事ではないかと考えています。その時に、あちこちで空いてくるスポンジの穴を使って民間や住民が自分たちの暮らしをよくするような取り組みを応援し、うまくいけばそこをコンパクトシティの新しい核にしていきます。行政が一方的に集約エリアを定めていくのではなく、たくさんの人たちの前向きな動きを引き出しながら進める方が、住民が感じる幸福の総量が増えていくのではないでしょうか。

――日本経済新聞社の立地適正化計画に関する調査(2018年4月発表)、などからも見て取れるように、都市機能誘導区域や居住誘導区域の区域外での開発が進んでいる実態もあります。このことは、自治体の集約化政策の阻害要因となっているといえそうですが、スポンジ化対策にも影響を及ぼしますか。

 確かに、地価が比較的安い居住誘導区域の外への開発圧力が強いため、赤丸の周囲で居住地が自然に維持されるようになっていくという流れは望みにくいと思われます。つまり、スポンジ化対応策の効果が出にくくなっているという面はあると思います。

 区域内の土地所有者が空き家などを放置せず、居住地の維持に向けて自ら適切な行動を取るように、自治体には「空き家等対策の推進に関する特別措置法」などを活用し、彼らの背中を少し押すような対策も求められます。土地所有者が立地のいい土地を合理的な価格で供給しようとするなら、区域内への集約化は進んでいくはずです。

饗庭伸(あいば・しん)
首都大学東京教授
饗庭伸(あいば・しん) 早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学理工学研究科博士課程を経て博士(工学)取得。同大学理工学部建築学科助手、東京都立大学工学研究科建築学専攻助手などを経て現職。国土交通省の社会資本整備審議会・都市計画基本問題小委員会の委員を務める。専門は、まちづくり、都市計画。主な著書に、「都市をたたむ」(2015年、花伝社)、「白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか」(共著、2014年、学芸出版社)などがある。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/051500030/