自治体職員コミュニティをつくり「地域課題解決のパッションを育む」

――コミュニティという点では、2020年5月に自治体職員向けのコミュニティ「トラストバンクアカデミア」を開講しました。狙いは何ですか?

 地域課題の解決手法を学びながら、熱意を持つ自治体職員の方々がお互いにモチベーションを高め合ってもらいたい、というのがトラストバンクアカデミアの目的です。

トラストバンクアカデミアのウェブサイト(出所:トラストバンク)

 ふるさと納税に携わった自治体職員の中には、「地域課題を解決したい」という熱意を持って仕事に取り組まれている方が多いと思います。地域の魅力を外に発信したり、事業を運営したりするなかでノウハウやセンスを磨き、地域課題の解決に貢献していると実感できるからでしょう。

 しかし、3年ほどたって、そうした経験やノウハウを全く生かせない部署に異動してしまうと、大きな落差を感じ、以前のようにはモチベーションを保てなくなってしまうケースが少なくありません。これは当事者にとって、とても深刻な問題です。ふるさと納税でがんばっていた職員ほどモチベーションは下がり、一部に自治体を辞めて民間企業に転職する方も出てきます。実際、当社にもここ1年間で5、6人の元自治体職員が入社しています。

 そこで、「熱意ある職員同士がつながることで、熱意を保ち続けてほしい」という思いから、トラストバンクアカデミアという全国コミュニティを立ち上げました。2020年4月から一部受講者に向けてアカデミアを先行スタートさせ、翌5月に正式開講しています。

 トラストバンクアカデミアは無料の会員登録をすれば参加できますが、パッションを持った、モチベーションの高い人々で質の高いコミュニティをつくっていきたいと考えています。ですから、会員を広く募集しているわけではなく、パッションを持った自治体職員同士の口コミで会員が増えているという状況です。

――口コミで会員が集まるようなコミュニティが既にあったのでしょうか?

 もともと当社は、ふるさと納税の担当者向けに「全国アツい職員会議」というリアルイベントを開催しています。ふるさと納税がまだ認知されていなかった2014年に、前身となる「先進自治体会議」を開き、ふるさと納税に先行して取り組んでいる自治体と、ふるさと納税に関心を持っている自治体が集まって情報交換や議論をしました。それを発展させた形で、熱い思いを持った自治体職員が一堂に集まる「全国アツい職員会議」を毎年開き、リアルに全国の自治体職員同士が横につながる場をつくりました。

 アツい職員会議では、参加者が自分の地域に対して、こういう課題を感じ、こう動いているという取り組みをシェアする形で運営してきました。アツい職員は自治体の中で孤軍奮闘していることが多く、周囲の職員との温度差に孤独感を感じたりしているのですが、ほかの自治体職員がここまでやっている、という話を聞くと熱意は伝播するものです。語り合うことで、「ほかの地域に仲間がいる」という連帯感が生まれ、LoGoチャットなどのSNSでもコミュニティを超えて個別にアツい職員同士でやり取りしています。お互いの地域を後押ししていこう、という熱意をお互いに保ちあっているようなケースもあります。

 今はコロナ禍でリアルイベントを開催できませんが、当社が間に入らなくても、職員同士で交流が進んでいます。トラストバンクアカデミアは、こうした口コミを通して会員の輪が広がっています。

――アカデミア設立時の発表資料を見ると、「講義によるインプットだけでなく、実践まで行うコミュニティ」とあります。この「講義」と「実践」とは何をするのですか?

 アカデミアでは、地域課題の解決に必要な地域(自治体)経営のスキルや知識に関する講義を動画で配信し、それをベースにアカデミアの会員コミュニティで議論を深めていこうと考えています。スキルや知識というのは、具体的にはマーケティングやマネジメント、デザイン思考などです。

 講義については、これまでに12の動画を配信しました。例えば、当社のビジョンでもある「自立した持続可能な地域をつくる」の考え方につながる地域経済循環を提唱した枝廣淳子さんの講義「コロナの先の社会へ『地元経済を創りなおす』」を2020年7月に配信し、地域経済に関する根本的な考え方を解説していただきました。

 同じ講義で、埼玉県深谷市のふるさと納税の担当者だった福嶋隆宏さんにも登壇していただきました。深谷市は農業地域として公民連携を進め、地元経済を活性化させているモデル的な自治体です。その経験を基に地域経営の実際を話してくださいました。

 これらの講義で得たスキルや知識を自分たちの地域の課題に当てはめ、地域(自治体)経営でどう解決していくか、実例ベースで議論するのがアカデミアでの「実践」です。アツい職員会議のように、お互いの熱意が伝搬していくような議論をして、地域経営への理解を深めつつ、課題解決へのモチベーションを高めてもらいたいと考えています。

 ただ残念ながら、アカデミアの活動もコロナ禍によってオンライン講義のみにとどまっています。本当はパッションを持つ職員の皆さんがリアルに集まって議論できるようにしたいのですが、そのような機会は時期を待たなければなりません。

エネルギー事業や地域通貨事業なども

――2018年にトラストバンクは、ITコンサルティング会社のチェンジの子会社になりました。その経緯と狙いは何だったのでしょうか?

 数年前から、当社はパブリテック事業の必要性を感じていました。前述した通り、自治体職員がどれだけ熱い思いでふるさと納税に取り組んでいても、紙ベースの業務や定型業務に追われて十分な時間をつくれず、なかなか地域課題の解決が進まないという状況を目の当たりにしていました。そうした自治体内の課題を解決するために、自治体業務をデジタル化する事業をやりたいと考えていました。

 ITコンサルティング会社のチェンジとは、ふるさと納税の経済効果に関する調査を依頼したことをきっかけに付き合いがありました。その中で、チェンジが大手企業や官公庁を中心にITコンサルティング事業で豊富な実績があることを知り、チェンジと一緒に事業を進められれば、パブリテック事業を実現できると考えるようになりました。当社がチェンジの子会社になった理由は、パブリテック事業を最も効率的に推進するためです。

 両社の役割分担は、全国自治体の9割とネットワークを持つトラストバンクが信頼関係のもとで自治体の課題を把握し、チェンジが技術力を生かして自治体向けソリューションを開発する、という形です。つまり、「自治体のネットワーク×テクノロジー」でパブリテック事業を展開していこうと考えています。

 最近は、パブリテック事業に限らず、チェンジと連携する領域が増えてきました。エネルギー事業や地域通貨事業などです。また、チェンジは大手企業との強いネットワークを持っているので、企業版ふるさと納税でも連携しています。

――チェンジとの連携のもとで、トラストバンクは今後、どのような事業展開を考えていますか?

 チェンジと連携することで「自立した持続可能な地域をつくる」という当社のビジョンに、よりパワフルに取り組むことができるようになりました。やはり、チェンジが持っているノウハウは当社にはないものなので、一緒に取り組むことで、より自治体の課題解決や地域経済の発展に寄与するソリューションを提供していけると考えています。

 今年はデジタル庁が創設されることもあって、行政のデジタル化に対する機運はより高まるでしょう。これに合わせ、パブリテック事業をさらに推進していく考えです。ビジネスチャットの「LoGoチャット」は既に全国自治体の3分の1に導入されていますが、LoGoチャット上のコミュニティに参加する自治体が多いほど情報共有や助け合いのメリットが大きくなるので、もっと多くの自治体に活用してもらいたい。行政手続きフォーム作成ツールの「LoGoフォーム」も、今、ワクチン接種のウェブ手続きフォームを簡単に作成できるツールとしてよく利用されていて、アドホックな行政サービスを素早く立ち上げたいと考えている自治体に展開していきたいと考えています。

 自治体の声をよく聞いて機能改善を繰り返し、より使いやすく生産性が上がるようにサービスをどんどん進化させていくつもりです。

須永珠代(すなが・たまよ)
トラストバンク 会長兼ファウンダー
須永珠代(すなが・たまよ) 1973年群馬県出身。大学卒業後、ITベンチャー、ウェブデザイナーなどの仕事を経て、2012年4月にトラストバンクを設立。同年9月、全国初のふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を開設した。2020年1月から現職(写真:柳生貴也)