――先生は、日本人の年間受診回数がOECD加盟国の中で一、二を争って多いことを挙げ、医療機関へのアクセスの良さがコロナによる被害を抑制できた一因とみていますね。

 日本の医療機関の受診回数は韓国に次いで多く、ドイツも5位に入っています。コロナ対策で成果を上げたとされるこれらの国々が上位にいることをみると、保険証1枚でどの医療機関も受診できる日本のように、外来受診が容易なことが貢献していると思えます。肺炎の徴候の発見や適切な対症療法を受けるのにつながりますから。

――一方で、当初は「37.5度以上の熱が4日以上続く」などの条件を満たしたうえで、保健所を通さなければ、診断の決め手となるPCR検査が受けられませんでした。

 「フリーアクセス」には一長一短があり、今回のように一時的に制限することはあっていいと思います。ただ厳格なアクセス制限を設けるのではなく、現状のように医療機関への経済的インセンティブの付与や患者の啓蒙・啓発によって病状に合った機能を持つ医療機関への振り分けを行うべきでしょう。

 入院医療に比べて、外来診療は機能の明確化・分化と連携が進んでいません。しかし、2019年12月の政府の全世代型社会保障検討会議の中間報告を受けて、厚生労働省は、複数の審議会で外来医療のあり方についての検討を始めています。コロナ禍も、外来の機能分化・連携推進に影響する可能性があります。

医師の教育・研修にオンライン診療を

――非接触型の診療スタイルとして、「オンライン診療」に注目が集まっています。国も、相次ぎ推進策を打ち出しています。

 コロナの件がなかったとしても、技術進歩を医療現場に取り入れていくのは当然の流れです。高齢化が進めば外来に来られない患者も増えますし、医師による訪問診療には限界がありますから。5Gや8Kが実用化されれば、対面でない医師の診断も精度向上が期待できるはずです。

 ただ日本のように医療機関へのアクセスがいい国では、一気に普及を図ろうとしても難しいでしょう。医学部での教育や若手医師の臨床研修に早く取り入れて、「臨床でやっても大丈夫だな」と医師に納得してもらいながら、オンライン診療を普及させていくべきでしょうね。

――コロナと共存しなければならない時代を迎え、医療や介護の提供体制にどのような見直しが求められるようになるのでしょうか。

 政府の言う「新しい生活様式」はあらゆる制度や政策に織り込まれるべきですが、とりわけ医療・介護ではその必要性は高いと思います。まだエビデンスがあるわけではありませんが、2つポイントを指摘したいと思います。

 まず、医療機関の機能分化と連携をさらに推進すること。高度急性期機能の病院は集中治療室の整備などでパワーアップを図り、急性期と称しつつ中途半端な機能の病院は、診療機能を再検討してもらう必要があります。もう一つは、緊急事態に備えてある程度の空きベッドを確保しておくなど、ゆとりを持った医療提供体制にしておくことが必要だと思います。

 最初に話したように、アクセスのよい日本の医療システムと国民の積極的な予防・受診が奏功して、コロナ感染拡大の第一波はそれほどの大事に至らなかったと考えられます。さらに弾力的で復元力を持つレジリエンスのあるシステムにしていくことが、これからの課題でしょう。

尾形裕也(おがた・ひろや)
九州大学名誉教授
尾形裕也(おがた・ひろや) 1952年生まれ。東京大学工学部、経済学部を卒業後、1978年厚生省(当時)に入省。健康政策局(現医政局)、国立社会保障・人口問題研究所などを経て、2001年九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学講座教授。2013年東京大学政策ビジョン研究センター特任教授。厚生労働省医政局「医療計画の見直し等に関する検討会」などの委員を務める。