「みんなの学校」まとめて運営する「学校活用会社」を

――まちづくりの構想が決まった段階ですが、次の大きな課題は「みんなの学校」と「まちぐるみ教育」を運営する民間事業者の選定ですね。公民連携による“稼げる”事業プランとしてはどのような考えでしょうか。

 事業プランとしては、生野区が“大家”となり、民間の学校活用会社に場所を貸すイメージです。区は各地域の要望や構想を提示したうえで学校活用会社に貸し出す。学校活用会社が、「みんなの学校」に携わる事業者を選定し、どうしたら利益率が最大になるかを考え、運営する。我々は賃料をいただく形にする。従来の指定管理者方式は民間の稼ぐ意識を引き出しやすい制度とはいえない。結果として、設備投資やイベント開催などに対して積極的でなく、慣れ合いで受けているところがほとんどです。生野区は行政区なので投資権はない。だからこそ、パブリックマインドを持った稼げる民間事業者に運営をお願いしたい。

学校活用会社による「みんなの学校」の運営スキーム案(提供:大阪市生野区)
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 いくら行政が頑張って何とか3年分の予算を取ったところで、3年後から荒れるパターンはよくある。最初から稼げる仕組みを作らないと「みんなの学校」は持続可能になりません。

 民間事業者も施設規模が小さいと費用対効果は出にくいかもしれませんが、9校のうち5校くらい同時に活用できれば事業者側もメリットがあるはず。「この小学校でこの事業が成功したから、あの小学校でも広げたい」と、全体を見ながらコントロールできるし、各校をリンクさせた情報発信もできます。そのためにも全部を見渡せる民間の“「みんなの学校」活用会社”があるといい。

 具体的なスケジュールとしては、2021年度に事業者を公募し、選定したいと考えています。プロポーザルの条件は地域のニーズを踏まえ、学校跡地活用基本計画を委託している事業者にアドバイスをもらって作る方針です。

――山口さんは塾講師や経営者を経て、行政に入りました。こうしたプロジェクトに携わるうえで民間出身の強みはあると感じますか。

 マーケット感覚とスピード感覚はあると思います。11年間、広報のコンサルタント業務をしていたことから、採算性は外さないように考える。跡地の活用は、行政がお金を出し続けていたら、持続できないことは確かです。

 それと、まちが寂れる時は学校などの大きな建物が空いたときだということも実感していました。だから、閉校から開設までのタイムラグが発生しないように並行して計画を進めています。

 また、学校跡地を核としたまちづくり構想を手掛ける民間事業者に関しても提案書だけが上手なペーパーコンサルでなく、できるだけ実績のある事業所と組もうと決めていました。その条件で公募をした結果、セミコロンに委託することとなりました。。

(写真:水野真澄)
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 民間から行政に入って痛感したのは、契約事務の手続きが煩雑であること。プロポーザルにせよ入札にせよ、契約事務がイヤになるぐらいある。税金を使う立場としては慎重にならざるを得ないが、それでは効率よく最大利益は得られない。膨大な手続きや人件費がかさむほうがよほど税の無駄使いです。大阪・天王寺公園の「てんしば」や鶴見緑地など、大阪市も公民連携が進んでいるので、行政の煩わしい手続きも少しずつ緩和していくのではないでしょうか。

 区民の方たちには構想案をお伝えていますが、実物を見ないとイメージが湧かない人も多くいらっしゃいます。閉校が決まっている1校から試しに具体的な「みんなの学校」をイメージできるようなイベントなどを開催することも検討しています。 今は構想を策定し、ようやくスタートラインに立てたという段階。学校再編の理解を求めながら、地域との話し合いや民間事業者の選定、採算が取れるかなどを細かく検証し、実現に向けて1つずつ歩を進めていきます。

――人口減による学校再編というマイナス要素を逆手に、生野区の課題を解決するプラス要素へと転換できたら理想ですね。

 全部がうまくつながって生野区の問題が解決できたらいい。生野区は少子高齢化の“最先端”エリア。子育て世代の流出、空き家問題、増え続ける外国籍住民など、これからの日本の問題を集約しているような場所です。「みんなの学校」と新しいまちづくりを通して、こうした課題が解消され、ほかの自治体の参考になるような“生野モデル”と呼ばれるような事例になればと思っています。

山口照美(やまぐち・てるみ)
大阪市生野区長
同志社大学卒業。大手塾の講師・塾長を経て、広報事業で起業しながら教育ジャーナリストとしても活躍。2013年、大阪市立小学校の民間人校長に。2017年、公募により生野区長に着任。2児の母でもある。