少子化により全国で年間約500校の小中高の統廃合が行われている。大阪市生野区では現在19校ある小学校のうち7校が6学年すべて1クラスの単学級。早急の対策が迫られている。2019年6月には、「生野区西部地域の学校跡地を核としたまちづくり構想」が策定された。学校跡地を利用したまちづくりについて、民間人校長を経て、2017年に生野区長に就任した山口照美氏に話を聞いた。

(写真:水野真澄)
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――学校跡地の活用は多くの自治体で課題となっています。生野区の西部地域では現在の12小学校と5中学校を、小・中学校それぞれ4校にする方針を固めています。

 生野区は高齢化率が約30%と高く、区の空き家率も約22%とかなり多い。外国籍住民の割合も約21%で全国の都市部では1位です。長屋など古い建物も多く、地価の下落も進んでいます。生野区では子育て世代の流出から少子化の傾向が顕著で、1学年1クラスの単学級が7校もある。クラス替えもできず、教員の負担も大きい。子供たちの教育環境の改善のためにも学校再編を避けられないのが現状です。

――小学校を8校、中学校を1校減らす大規模な再編計画ですが、学校跡地は売却せずに活用するのですね。

 大阪市では、学校跡地は原則売却する方針となっています。生野区のみ特例として、小学校の跡地は一切売却せずに活用します。生野区では、戦前からの木造住宅や長屋が多く、避難所としての広い土地を確保しなくてはなりません。防災上の拠点として残すのが第一義です。しかし、単に避難所として残すと管理費だけで1校当たり年間約500万円かかる。区の財政で9校分に相当する年4500万円の予算を出し続けることはできません。

学校再編と跡地活用の構想策定を並行して進める

 そこで、跡地を地域のために活用し、かつ稼げるプランを考えようと始まったのが、今回のプロジェクトです。9校のうちの1、2校は専門学校などに跡地を貸すケースも出てくるかもしれませんが、跡地の大半は活用する予定です。

 このプロジェクトは、2017年度に調査や構想策定支援業務(生野区西部地域の学校跡地を核としたまちづくり全体構想策定アドバイザリ―業務)を委託する民間事業者をプロポーザルで公募し、公共施設の跡地を活用した地域再生や公民連携事業に実績があるセミコロン(東京都豊島区)を選定しました。

――学校再編はどの程度進んでいるのですか。

 地域によっては今の再編案に賛同いただけない状況もあり、学校再編が確定しているのはまだ1校のみです。ただ、閉校が決まってからまちづくり構想づくりに動いていたら、行政だと決定してから3年はかかってしまう。閉校したらすぐに再生できるよう、今は学校再編の働きかけとまちづくり構想の策定を同時並行で進めています。

 現状では、2021年度末までに6校が、翌2022年度末に3校が閉校になるという計画。その時点で跡地のプランが確定し、かつ、民間事業者の公募も終わっているという流れになれば理想です。

遠出しなくても、近所でのんびりできて、誰もが学べる場所に

――学校跡地は「まちぐるみ教育」の場である「みんなの学校」として再生する方向を打ち出しています。具体的にはどのような形で活用していくのでしょうか。

 最大9校の跡地を1つ1つバラバラに活用するのではなく、「みんなの学校」という統一したコンセプトで新たに再生します。同じ属性の人だけではなく、地域の様々な世代、職業、国籍の人たちから、文化や技術を学ぶことで、気づきを得ることができ、そこから新たな実践をすることができるような場です。エリアごとにテーマを設け、様々な世代が学べるようにします。

 例えば、生野区は食文化の豊かなまちなので「食の学校」というプランがあります。校庭にフードトラックが集い、フードコートのように様々な食を楽しめる。体育館では、地域の飲食店と連携し、食の体験施設を作って様々な料理体験ができたり、家庭科室では飲食店舗が入ったり。校舎の一部はシェアキッチンを備えたゲストハウスにするアイデアもあります。

「みんなの学校」は、災害時には避難所としての機能を備える想定だ(提供:生野区)
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 また、職人の多い地域では「ものづくりの学校」もできそうです。ほかにも「農業ビジネスの学校」など、跡地ごとにテーマを決めて、あらゆる世代が学んで楽しめる場にする。同じ1つの大学で、学部ごとにキャンパスが分かれているようなイメージです。

 そのうえで、どの跡地にも避難所機能としての役割、図書室や地域コミュニティの場としての公的スペースは残すつもりです。

――今までの小学校はなくなっても、「みんなの学校」として新たな学びの場ができるわけですね。

 そうです。「今度の日曜日、どこに行こうか?」というときに、遠出しなくても、子連れで、近所でのんびりできて、体験やつながりが感じられる。「食の学校」に行けば、多国籍のものが食べられて、親子料理教室に参加できる。「モノづくりの学校」ならDIYのワークショップで何か作ることができる。「農業ビジネスの学校」では貸農園で野菜を育てることもできる。いわば町の中にイベントスペースがあるようなイメージです。

「みんなの学校」案の例。「世代をつなぐ、ものづくり学校」のイメージ(提供:大阪市生野区)
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 学校は、地域のランドマークであり、心の拠り所であり、防災の拠点。再編に不安を抱く人が多いのも理解できます。「みんなの学校」があれば子育て世代にとっても魅力的なまちになります。

――「みんなの学校」は小・中学校とも連携するのですか。

 将来的には、この「みんなの学校」と、再編した小・中学校との連携も視野に入れています。例えば、「技術の時間はモノづくり学校でプロに学ぼう」「調理実習は食の学校で学ぼう」という具合に交流があるといい。2020年度から必修となるプログラミング教育もそうですが、今は教員の負担が多い。専門性の高い人が教えてくれる場所と連携できたら教員の仕事も軽減するはずです。

――こうした構想案はどのように策定されたのでしょうか。

 参考にしている事例の1つとしては、「生野区西部地域の学校跡地を核としたまちづくり全体構想策定アドバイザリ―業務委託」のプロポーザルで選定した「セミコロン」の社長でもある清水義次さんが代表を務めている、千代田区立錬成中学校の跡地を利用した「3331アーツ千代田」があります。場所を区から借り、事業を回して黒字にし、雇用も発生させ、地域とも関わり続けている。それでいて避難所の役割も担っている。

 ほかにも、岩手県紫波町の駅前開発事業「オガールプロジェクト」や、大阪府大東市の市営住宅の建て替えを機に新たなまちづくりを行っている「北条まちづくりプロジェクト」にも関心を持っています。学校跡地を利用した例では、東京都世田谷区の事業「世田谷ものづくり学校」もクリエイターたちがオフィスとして活用しながら、数多くのワークショップが開催されていて感心しました。

高齢者も留学生も誰もが「居場所と持ち場のあるまち」になるために

 「みんなの学校」のプランは、「学びとは何か」という根本的なことから議論を重ねて策定しました。学習指導要領も変わり、今後、子供たちは主体性を持って自ら学ぶ子にならないといけない。子供は、小さいときに出会った大人の数が多いほど、「こんな人もいるんや」「「こんな生き方があるんだ」と影響を受け、“生きる力”が育つものです。偏差値だけの単純な学力ではなく、生野は本当の意味での生きる力を育てていくまちでありたいのです。

「まちぐるみ教育」「みんなの学校」と従来の教育・学校との比較(提供:大阪市生野区)
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――「みんなの学校」とまちがつながれば、地域も活性化しそうですね。

 生野区のキャッチフレーズは「居場所と持ち場があるまち」。生野区は、少子高齢化の“最先端”エリアです。さらに近年はアジア圏からの日本語学校の留学生も増えています。

 高齢者や留学生など、自分の場がないと感じている人にも居場所ややりがい(持ち場)ができれば、まちは活性化する。誰もが学び、誰もが活躍できる拠点として「みんなの学校」は有効。さらに、空き家問題や高齢者問題など、「みんなの学校」と生野区の抱える課題がリンクして、いい方向に解決する手段になればいい。

「まちぐるみ教育」で地域の多様性を活用するイメージ(提供:大阪市生野区)
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「みんなの学校」には、サービスを提供する側、受ける側もお互いに相乗効果があります。例えば、「いつか店を持ちたい」という料理人の卵は「食の学校」のシェアキッチンで客の意見を聞きながら料理開発⇒次は校庭のフードトラックで販売⇒客が付いた頃に生野区の空き家や空き店舗を利用して店を出すという流れも考えられます。生野区の空き家率は22%と高く、区が抱える問題の1つですが、「食の学校」が解決の一助になる可能性もある。サービスを受ける側としても、料理体験ができ、周辺の高齢者は宅食サービスを受けることもできるでしょう。

 同じように「ものづくりの学校」でもDIYをしたい人が集まれば、近くの空き家を利用して店や住居にする流れも出てくるかもしれません。

――新しいまちづくりとして、どのようなイメージを持っていますか?

 最初はカフェと芝生の広がるおしゃれなイメージも浮かびました。街の活性化には、若い子育て世代が喜ぶ仕掛けも重要ですから。 ただ、生野区には日本最大のコリアタウンがありますし、そもそも外国籍住民比率が2割と高く、約60の国・地域にのぼる多文化が共存するまちです。また、空襲の被害にあっていないため、戦前からの街並みがあちらこちらに残っています。地価や賃料も安く、色々な状況にある人が安心して暮らせるまちというのが特徴です。この多文化と多世代が“ごった煮”であることが生野の良さだと思うのです。

 仮におしゃれなカフェを作るにしても、大手資本のチェーン店ではなく、地元オーナーが経営して地域にお金が循環する店がいい。生野の「古さ」の魅力は一から作れないですから。

 生野では今、古くて渋い長屋を若い人がおしゃれにリノベーションしてカフェにする事例も増えています。そんな生野らしさと、子育て世代にも受け入れられるコンテンツとのうまい融合ができたらいいと思っています。

生野区には古い家屋をリノベーションして暮らす人たちが増えている。区の広報誌で毎月リノベ事例を紹介している(「広報いくの」2019年7月号)
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「みんなの学校」まとめて運営する「学校活用会社」を

――まちづくりの構想が決まった段階ですが、次の大きな課題は「みんなの学校」と「まちぐるみ教育」を運営する民間事業者の選定ですね。公民連携による“稼げる”事業プランとしてはどのような考えでしょうか。

 事業プランとしては、生野区が“大家”となり、民間の学校活用会社に場所を貸すイメージです。区は各地域の要望や構想を提示したうえで学校活用会社に貸し出す。学校活用会社が、「みんなの学校」に携わる事業者を選定し、どうしたら利益率が最大になるかを考え、運営する。我々は賃料をいただく形にする。従来の指定管理者方式は民間の稼ぐ意識を引き出しやすい制度とはいえない。結果として、設備投資やイベント開催などに対して積極的でなく、慣れ合いで受けているところがほとんどです。生野区は行政区なので投資権はない。だからこそ、パブリックマインドを持った稼げる民間事業者に運営をお願いしたい。

学校活用会社による「みんなの学校」の運営スキーム案(提供:大阪市生野区)
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 いくら行政が頑張って何とか3年分の予算を取ったところで、3年後から荒れるパターンはよくある。最初から稼げる仕組みを作らないと「みんなの学校」は持続可能になりません。

 民間事業者も施設規模が小さいと費用対効果は出にくいかもしれませんが、9校のうち5校くらい同時に活用できれば事業者側もメリットがあるはず。「この小学校でこの事業が成功したから、あの小学校でも広げたい」と、全体を見ながらコントロールできるし、各校をリンクさせた情報発信もできます。そのためにも全部を見渡せる民間の“「みんなの学校」活用会社”があるといい。

 具体的なスケジュールとしては、2021年度に事業者を公募し、選定したいと考えています。プロポーザルの条件は地域のニーズを踏まえ、学校跡地活用基本計画を委託している事業者にアドバイスをもらって作る方針です。

――山口さんは塾講師や経営者を経て、行政に入りました。こうしたプロジェクトに携わるうえで民間出身の強みはあると感じますか。

 マーケット感覚とスピード感覚はあると思います。11年間、広報のコンサルタント業務をしていたことから、採算性は外さないように考える。跡地の活用は、行政がお金を出し続けていたら、持続できないことは確かです。

 それと、まちが寂れる時は学校などの大きな建物が空いたときだということも実感していました。だから、閉校から開設までのタイムラグが発生しないように並行して計画を進めています。

 また、学校跡地を核としたまちづくり構想を手掛ける民間事業者に関しても提案書だけが上手なペーパーコンサルでなく、できるだけ実績のある事業所と組もうと決めていました。その条件で公募をした結果、セミコロンに委託することとなりました。。

(写真:水野真澄)
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 民間から行政に入って痛感したのは、契約事務の手続きが煩雑であること。プロポーザルにせよ入札にせよ、契約事務がイヤになるぐらいある。税金を使う立場としては慎重にならざるを得ないが、それでは効率よく最大利益は得られない。膨大な手続きや人件費がかさむほうがよほど税の無駄使いです。大阪・天王寺公園の「てんしば」や鶴見緑地など、大阪市も公民連携が進んでいるので、行政の煩わしい手続きも少しずつ緩和していくのではないでしょうか。

 区民の方たちには構想案をお伝えていますが、実物を見ないとイメージが湧かない人も多くいらっしゃいます。閉校が決まっている1校から試しに具体的な「みんなの学校」をイメージできるようなイベントなどを開催することも検討しています。 今は構想を策定し、ようやくスタートラインに立てたという段階。学校再編の理解を求めながら、地域との話し合いや民間事業者の選定、採算が取れるかなどを細かく検証し、実現に向けて1つずつ歩を進めていきます。

――人口減による学校再編というマイナス要素を逆手に、生野区の課題を解決するプラス要素へと転換できたら理想ですね。

 全部がうまくつながって生野区の問題が解決できたらいい。生野区は少子高齢化の“最先端”エリア。子育て世代の流出、空き家問題、増え続ける外国籍住民など、これからの日本の問題を集約しているような場所です。「みんなの学校」と新しいまちづくりを通して、こうした課題が解消され、ほかの自治体の参考になるような“生野モデル”と呼ばれるような事例になればと思っています。

山口照美(やまぐち・てるみ)
大阪市生野区長
同志社大学卒業。大手塾の講師・塾長を経て、広報事業で起業しながら教育ジャーナリストとしても活躍。2013年、大阪市立小学校の民間人校長に。2017年、公募により生野区長に着任。2児の母でもある。

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