民間では珍しい「公民連携課」を設置し、自治体と街づくりの協定を締結するなど、沿線エリアを中心に自治体と連携したまちづくりを展開する東京急行電鉄(以下、東急電鉄)。その旗振り役を果たしてきた執行役員の東浦亮典氏にインタビューした。前編・後編に分けて紹介する。前編では、「公民連携課」設立の狙いと、その経緯を解説してもらった。

* インタビューは2019年3月、東浦氏が執行役員都市創造本部運営事業部長の時に実施した。当時の立場に基づく発言である
東京急行電鉄執行役員渋谷開発事業部長・東浦亮典氏(写真:加藤 康)
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「公民連携課」というネーミングはインパクトが大きかった

――東急電鉄では2018年4月に「公民連携課」を設置されました。民間企業では非常に珍しい部署だと思います。「公民連携課」を設置した経緯をお聞かせください。

 自治体の顕在化されていない課題を引き出すための組織を、開発部門ではなく企画・戦略部門に創設することの必要性を感じて「公民連携課」を2018年4月に設置しました(※)。

※2019年4月に大規模な組織変更があり、都市経営戦略室戦略企画グループの「公民連携プロジェクト担当」に名称を変更しているが、基本的な役割は変わっていない。記事中は「公民連携課」と表記。

――「公民連携課」は、どのような業務を、どのような体制で行っているのですか。

 自治体の担当者と話をして公募されていない潜在的な案件を掘り起こし、公的資産の活用や困りごとの解決策を自治体へ提案します。

 当社では、これまでも同様の活動を行ってきた部署がありました。しかし、「公民連携課」というネーミングはインパクトが大きかったと実感しています。自治体の担当者から、安心感あるいは信頼感をいただいています。

 4人体制で自治体などを回っていますが、「使われていない古い公園がある」とか「古くて運営コストがかかる施設がある」といった悩みなど、驚くほど多くの相談をいただいています。この分野には課題が山積しているということを改めて認識しているところです。

 この部署の成功の鍵は人材配置にあったと思っています。創設にあたり人選には力を入れました。一人は押しが強く、自治体を相手に対等なパートナーとしてふるまえる人材です。ただ御用聞きをするような姿勢ではなく、多少図々しく門をこじ開けていける、断られてもくじけない気持ちを持っています。

 もう一人は、東北芸術工科大学と一般社団法人公民連携事業機構が行う公民連携プロフェッショナルスクール(現在は都市経営プロフェッショナルスクール)の卒業生。つまり、公民連携の体系的な知識のある人材です。この人は、公民連携課を設置する以前に私のところへ来て、自分のやりたいことや目指すことをプレゼンしてくれました。その考え方を評価して、設立メンバーに加えました。若くてスマートで企画力のある人材もいます。東京大学のまちづくり大学院で学んだ人材です。課を立ち上げてから増員したのはミャンマー出身の人材です。日本語が上手で、妙に相手の胸襟を開かせてくれる一方で、日本的な価値観と思考にとらわれていない点を評価しています。

 この4人のバランスが、うまい具合に作用しているように思います。どの人材も、相談を受けたら解決策を提案し、企画を持ちかける力を持っています。

横浜市と成熟した街ならではの課題に取り組む

 この部署が自治体から高い評価を得た背景には、少子高齢化社会においては都市開発や都市整備を自治体のリソースだけではとても担えないという実情があると思います。このことを強く認識したのは、2011年頃から横浜市と街づくりに取り組んだ時です。

――横浜市とはまちづくりに関する協定を2012年に締結していますが、それ以前から協力してまちづくりに取り組んでいたのですね。

 横浜市と「次世代郊外まちづくり」の推進に関する包括協定を締結したのは2012年4月ですが、2011年から「郊外住宅地とコミュニティのあり方研究会」を発足し、当社の社員と横浜市の関係する部局の中堅職員、有識者などが参加したワークショップで横浜市の未来について議論を重ねた経緯があります。

 一般的に、許認可権者としての自治体と、開発事業者としての民間企業の関係は、自治体の側は許可を出すか出さないかを法や基準を満たしているかどうかを見て判断し、民間の開発事業者はどこまで法の解釈の幅を広げられるかというギリギリの折衝を行っています。いわば、顔で笑って机の下で蹴り合っているような関係だったわけです。

 また、宅地開発のようないわゆる一次開発に携わる事業者は、事業が完了するとその街との関わりは次第に希薄になることが多いものです。しかし、東急電鉄は鉄道事業者ですから、鉄道やショッピングモールの利用者といった沿線地域の生活者との関わりが続きます。そのため高齢化や郊外の過疎化という人口構造の変化や経年劣化した建物の再生など、成熟した街ならではの課題に目を向ける必要が出てきています。その街を維持するために何ができるのかを考えるべき局面を迎えているのです。

 そのような中で、大都市近郊の郊外住宅地が持つ課題を共有し、ともに危機感を抱く横浜市と手を組み、地域の再生に取り組むプロジェクト「次世代郊外まちづくり」を立ち上げました。

 開発から時間がたった成熟した街の開発は一次開発の時とは異なる苦労があります。その街には既に住んでいる人々がいて住民の意思がありますから、一民間事業者だけで進めるのは難しい課題があります。そこで、公民連携を実践する必要があったのです。

東急線沿線地域とは、東急線の通る17市区と定義している。横浜市と推進する次世代郊外まちづくりはたまプラーザ駅の周辺で進めている(資料:東京急行電鉄)
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――民間事業者にとって、自治体と連携することでどのようなメリットが生まれますか。

 自治体のコミットがあると、民間事業者1社の利益だけでなく、街にとって公共的であり社会性のある事業であることが示せます。また、時代に合った都市計画の変更あるいは規制緩和などの必要性と新たなモデルづくりを民間事業者、自治体、住民で共有でき、一緒に取り組むことができます。

 例えば、横浜市との「次世代郊外まちづくり」では、ワークショップを産学公民による開かれたスタイルで行いました。かつ、落としどころを事前に想定していない進め方を採用しました。それを不安視する声もありましたが、成熟した社会における街が抱える課題への解は、自治体も事業者もまだ誰も持っていないのです。透明性をもって広く地域で話し合い、落としどころを設けずに地域課題を顕在化させ、共有したのち承認される手法を取ることが最も進めやすいのだ、と説得しました。様々な立場の地域住民が参加することによって、答えありきではなく答えを探っていく。このようなワークショップを実施することで得た解だからこそ、実効性がある都市計画に変更するなどして将来の街づくりに落とし込んでいけるのです。

成熟した街に必要な機能を公民連携で整備

――「次世代郊外まちづくり」の具体的な取り組みを一つ紹介してください。

 横浜市青葉区にある地域利便施設「CO-NIWAたまプラーザ」はワークショップでの議論を経て建設され、完成後のまちづくり事業として当社が関わっている事例のひとつです。

 「CO-NIWAたまプラーザ」は、集合住宅「ドレッセWISEたまプラーザ」の低層部に整備しています。歩いて暮らせる生活圏の中に、暮らしに必要な機能を集約するまちづくりの考え方「コミュニティ・リビング」を実践する地域利便施設です。コミュニティ・カフェや保育園・学童保育、コワーキングスペースのほか貫通広場や共用スペースなどを備えています。成熟した街には、こうした機能があるとより暮らしやすくなると考えて設置しました。加えて、この施設を活動拠点にしたエリアマネジメント団体も設立しました。

 このエリアマネジメント団体、「一般社団法人ドレッセWISEたまプラーザエリアマネジメンツ」の構成員は「CO-NIWAたまプラーザ」の入居テナント、ドレッセWISEたまプラーザ管理組合、事務局を担う当社です。各テナントの個性や得意分野・ノウハウを生かしたエリアマネジメント活動を企画・運営することで、各機能の連携による相乗効果を創出し、多様な世代や多様な住民の交流によるコミュニティ形成を促進することを目指しています。

地域利便施設「CO-NIWAたまプラーザ」は、集合住宅「ドレッセWISEたまプラーザ」の低層部に整備している(資料:東京急行電鉄)
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「CO-NIWAたまプラーザ」の外観。右は入り口付近(写真:加藤 康)
「CO-NIWAたまプラーザ」の貫通広場や歩行者用通路などで2018年10月に開催したハロウィンイベントの様子。近隣の商店会などと連携して、地域住民がエリア全体を回遊するようなイベントとした(資料:東京急行電鉄)
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コンビニの開店を制限する都市計画を見直す

 かつての日本の都市計画は「住まう」場所と「働く」場所を分けることで良好な住環境をつくるという考え方に基づいて行われていました。その結果、第一種低層住居専用地域では、コンビニエンスストアも開店できません。自宅から歩いていける距離にコンビニエンスストアがないと不便だと感じる人は多いでしょう。

 このように、高齢化社会と郊外の過疎化という成熟した街ならではの課題に直面する今は、様々な用途を混在させるミクスドユースが求められています。職住が近接した土地利用への変更が必要なのです。このように成熟した街が抱える課題とその解決策を、自治体と民間と住民で共有していけば、都市計画の変更もスムーズです。これが、私たちが公民連携を推進する目的の一つです。

――「次世代郊外まちづくり」では、目指す街の将来像として「WISE CITY」(ワイズシティ)を掲げています。これは、どのようなことを表しているのでしょうか。

 「WISE CITY」とは、そこに住まう人々が精神的、身体的、またコミュニティにおける人間関係性において健康である状態の期間「健康寿命」を伸ばし、結果的に医療や福祉に掛かる費用の増額を予防するまちづくりを民間が担っていくという主旨です。その結果、自治体の予算や人材を別の課題に充当することができます。

 「WISE CITY」を実現する際に障壁となっているのが自治体組織の縦割り業務です。福祉局、建設局、都市整備局など、部署の業務にとらわれず、各々が健康なまちづくりに対して、横断的に連携していくことを求めたいですね。公民連携課は、公民が連携してまちの課題に対し、包括的に取り組む体制につなげていくことも担いたいと思っています。

次世代郊外まちづくりでは、目指すべき街の将来を「WISE CITY(ワイズシティ)」と名付けた。Wellness:生き生きと健康的に暮らす Walkable:様々な生活要素を徒歩圏に Working:居住エリアで就労 Intelligence:あらゆる生活サービスに関する情報を整備 ICT:情報通信技術 Smart・Sustainable:効率性と持続性の両立 Safety:安全で快適 Ecology:環境配慮型 Energy:省エネルギー Economy:経済的(資料:東京急行電鉄)
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地域利便施設「CO-NIWAたまプラーザ」の貫通広場に立つ東浦亮典氏。「CO-NIWAたまプラーザ」は、コミュニティ・カフェや保育園・学童保育、コワーキングスペースなどを備えている。「CO-NIWAたまプラーザ」を活動拠点とした一般社団法人ドレッセWISEたまプラーザエリアマネジメンツも設立した(写真:加藤 康)
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東浦亮典(とううら・りょうすけ)
東京急行電鉄執行役員渋谷開発事業部長
東京都生まれ。1985年に東京急行電鉄入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。東急総合研究所出向の後、復職後に新規事業開発を担当。東急電鉄沿線の都市開発戦略策定やマーケティング、プロモーション、ブランディング、エリアマネジメントなどを担当

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/070200048/