成熟期を迎えた沿線エリアのまちづくりを自治体と連携して進める東京急行電鉄(以下、東急電鉄)。その旗振り役を果たしてきた執行役員の東浦亮典氏は、鉄道会社の新たなビジネスモデルとして「私鉄3.0」を提唱する。これは、ICT(情報通信技術)の力を使って東急グループ全体で顧客情報を管理することで、個々の顧客に最適なサービスを提供するというものだ。インタビューの後編では、「私鉄3.0」で東浦氏が描くまちづくりの未来像を語ってもらう(前編はこちら)。

* インタビューは2019年3月、東浦氏が執行役員都市創造本部運営事業部長の時に実施した。当時の立場に基づく発言である
東京急行電鉄執行役員渋谷開発事業部長・東浦亮典氏(写真:加藤 康)
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町田市に「もっと大きな公民連携にしましょう」と提案

――東急電鉄の「公民連携」によるまちづくりには、具体的にはどのようなケースがありますか?

 横浜市や昭和大学と連携している「藤が丘駅周辺の新たなまちづくりの推進に関する協定」(2018年10月4日)、東京都大田区と連携している「地域力を活かした公民連携によるまちづくりの推進に関する基本協定」(2019年3月6日)、東京都町田市と連携している「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」(2016年2月)などがあります。

 南町田のプロジェクトは、2000年4月に南町田駅の南側に開業した大型商業施設「グランベリーモール」を再整備するものです。旧グランベリーモールは、私が30代の時に担当した案件です。南町田駅の南側に商業地域として容積率400%を指定された広大な未利用や低利用地がありました。国道16号と同246号の交差点という立地と広大な敷地から、米国郊外のオープンモール型のプロジェクトをイメージした私は、若気の至りもありそのようなイメージで企画しました。当初、社内では大反対を受けましたが結果的に採用され、開発後は沿線地域で親しまれ、同地区は住宅地としてだけではなく商業地としても賑わうようになりました。

 旧グランベリーモールは、期間限定の事業であったことから建物や設備の耐久性の問題もあり、2017年2月に閉館しました。そして、都市基盤や都市公園、商業施設、都市型住宅などを一体的に再整備・再構築し「新しい暮らしの拠点」を創出することを目指し、2016年2月に町田市と東急電鉄が連携・共同し「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」を始動しました。

 「南町田拠点創出まちづくりプロジェクト」は、旧グランベリーモールの成功を受けて、町田市と「もっと大きな公民連携にしましょう」ということで、隣接する市立鶴間公園や鶴間第二スポーツ広場も一体化することになったものです。私自身はこのプロジェクトに直接かかわっていませんが、後輩たちがやってくれています。新しいまちの名称を「南町田グランベリーパーク」とし、商業施設の名称を「グランベリーパーク」へ改めて、公共空間と商業施設を一体的に開発するものです。まちびらきは2019年11月を予定しています。

南町田グランベリーパークの概要図。南町田駅の南側に位置する。商業施設と鶴間公園を一体に整備するため既存道路を廃止する。また、南町田駅には南北自由通路を整備して北口から商業施設へのアクセスを改善する(資料:町田市、東京急行電鉄)
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商業施設「グランベリーパーク」。南町田駅の南口を出てすぐに広がるウェルカムプラザのイメージ(資料:町田市、東京急行電鉄)
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「南町田グランベリーパーク」の全体俯瞰(ふかん)イメージ。商業施設「グランベリーパーク」の奥に鶴間公園が見える(資料:町田市、東京急行電鉄)
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商業施設と公園をつなぐエリアの整備イメージ。高低差を利用して地中に埋まったような建物にスヌーピーミュージアムや図書館などが入る(資料:町田市、東京急行電鉄)
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左は廃止する既存の道路(以前の様子)。商業施設と公園を分断していた(資料:町田市、東京急行電鉄)。右は道路廃止に向けて工事中の5月時点の様子(写真:日経BP総研)

 商業施設と公園を分断していた道路の廃止や付け替えをしています。商業施設と公園の徒歩の動線をつなぎ、エリアを一体的に整備することで公園利用に賑わいを与え、街に回遊性を生み、シームレスに活用でき、エリア全体の活性化を促します。これは次世代郊外まちづくりが目指す街の将来像「WISE CITY」(ワイズシティ)の「W」が意味する「Walkable & Working」(様々な生活要素を徒歩圏に、居住エリアで就労)に通じています。

 一般的には一度、区画整理したエリアの道路をこのように変更するというのはなかなかありません。開発事業者からすれば開発するエリアが一体的に広がったことを意味し、元々のエリアに商業を集積し、公園のオープンなスペースを活用できることになります。市からすると、公園の利活用が促進されます。公民双方にとってメリットのある再開発のケースです。

――南町田のプロジェクトでは、公園の指定管理者を公募しましたが、今後、他の案件において、開発に関わった民間事業者が公園も一体に管理することで、自治体と民間の双方のメリットを引き出す可能性はありますか。

 あくまで個人的な見解ですが、隣接する施設を運営・開発する民間事業者と自治体が手を組んで一体的に開発し、運営段階でも公園の指定管理業務を民間事業者が公民連携して行うことは、公共空間の効果を最大限に引き出すために効果的な方法ではないかと考えています。

 今後も、沿線のエリア内において公的資産で活かされていないものがあれば、民間の我々が活性化を担いたい。地域や住民の「幸福」や「健康」が高まるならば、やる価値があると考えています。