私鉄3.0――沿線のまちづくりにICTが不可欠な時代に

――2018年12月に書籍『私鉄3.0』(発行:ワニブックス)を出版しました。タイトルの「私鉄3.0」とはどのような意味でしょうか。

 私鉄経営のビジネスモデルを表しています。私鉄1.0の時代は広大な山林原野があった高度経済成長期で、鉄道事業者は都心を業務・商業で稼ぐ場所、郊外を宅地販売・生活サービスで稼ぐ場所と定義しました。鉄道が都心と郊外における人々の「通勤手段」であった時代です。ここでは、公と民は許認可権者と事業者の関係であればよく、民間は許可を得てガンガン開発をすればよかった時代でした。

 私鉄2.0は公も民も地域も弱っていて、一緒に協力して寄り添った方がいい時代です。都心を業務・商業・住宅で稼ぐ場所、郊外においては時代に合わせた再生(再開発)と生活サービスを提供することで稼ぐ場所と定義しました。そして、二子玉川(東京都世田谷区)のような都心と郊外の「中間エリア」では「職住近接のワーク&ライフスタイル」を確立して稼ぎ、鉄道はその交流手段となる時代です。現在はこの局面にあるといえるでしょう。

 私鉄3.0は、もはやこれまでのように土木や建築的な発想では対応しきれない時代です。この先はICT(情報通信技術)の力が必要になります。実は現在の東急電鉄も、都市開発部門、鉄道部門、生活サービス部門、ICT部門と事業が縦割りになっています。そこで、都市開発部門が呼び掛けてICT部門をまちづくりに巻き込もうとしているところです。社内で「ICTまちづくり勉強会」を設置し、最先端の有識者を招いて都市開発にどうICTを組み込んでいけばいいかを学んでいます。

――私鉄経営の「3.0」におけるICT活用とは、具体的にはどのようなことですか。

 現在東急グループが部門ごと、会社ごとに持っている顧客データベースを「一つのデータベース」として統合し、同じ決済機能やポイントシステムを基盤として生活サービスを総合的に提供していくという発想です。

 当社の取締役会長で東急グループ代表の野本弘文がよく「ひとつの東急」という表現を使いますが、これは気持ちのことだけでなく、データとして一元化するということも表しています。顧客のニーズを先回りして、顧客ごとに適したサービスを提供することで、さらなる利便性と満足を得てもらう狙いがあります。

 例えば、「次世代郊外まちづくり」のモデル地区であるたまプラーザ駅(横浜市)周辺では、2019年1月から3月まで、郊外型MaaS(Mobility as a Service)の社会実験を実施しました。これは、東急グループが現在、交通事業として行っている鉄道とバスに加えて、パーソナルモビリティなどを組み合わせて一つのプラットフォームにし、沿線住民や利用者がTPO(時・場所・場合)に合わせて交通手段を選べることでストレスのない、移動の自由を確保するものです。

たまプラーザ駅周辺で2019年1月から3月まで実施した、郊外型MaaS(Mobility as a Service)の実証実験のイメージ。駅と公共施設、病院、商業施設などを連携するため様々なモビリティを活用する。また、都心と駅を結ぶ交通手段として、鉄道の他にバスを活用する(資料:東京急行電鉄)
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 次世代郊外まちづくりでは過去に、医療と介護の連携ということで一人の方のライフステージにおける受診や通院の履歴を統合・連携することで、最後まで地域で健康に暮らしていくことをサポートするシステムを検討したこともあります。また、東日本大震災を契機に環境エネルギー分野では、自立分散エネルギーシステムを地域で使えるようにしてはどうかといった話も出てきました。2015年には、電気やガスを供給する東急パワーサプライという会社ができ、そういう社会に近づいてきている状況です。

 このような、東急グループが提供しているありとあらゆる総合生活サービスが一つに束ねられていくのが私鉄3.0の世界です。