単独の事業で収益を得る必要はない

 「そんな社会を実現できるのか」という疑問への答えは、欧州のエストニアにあります。エストニアは、世界の中でもいち早く国家運営を効率化し、競争優位の源泉となるシステムを開発し急成長を遂げた国です。エストニアの人口は約130万人ですから、約600万人を有する東急の沿線エリアでも、このイメージで運用できるのではないかと期待しています。国に個人データを管理されるのには抵抗があっても、信頼できる東急グループになら委ねてもいいと思ってもらえるような世界観を早く作りたい、というのが私の夢です。

 MaaSの社会実験は乗車料金を無料で実施しましたが、これを実験で終わらせず実装していくにあたって、議論となってくるのがどうやって収益を得るかでしょう。私自身は、単独の事業で収益を得る必要はないと考えています。

 東急グループ全体が一体的・一元的な事業体として、効率よく運営されていれば、単体では採算確保が難しい事業へ、別の事業による利益を還元して運営していくことができるのです。現在はそれが各々別会社になっているから実現できない発想になっているだけです。東急グループはそれが実現可能な、圧倒的優位性を持った企業として差別化され得るというのが、私の私鉄3.0の考えの基盤にあるのです。そこへ早く移行しようというのが私の主張でもあります。

――私鉄3.0の世界において、東急グループは「都市経営」の役割を果たすのだと思いますが、公と民が連携して都市をマネジメントするために必要なこととはどのようなことですか。

 まずは自分たちの都市における共通のビジョンを理解し共有することです。次に、そのビジョンが実現・達成できていない「課題」を認識し「危機感」を共有することだと考えます。この2つが都市の各構成員に共有されていれば、自然にビジョン達成のための課題解決への協力・連携の流れに帰結するはずです。

――公と民との役割分担はどのようなものになりますか?

 公と民とで役割の違いはありますが、大事なことは互いの境界線の向こう側をお互いに見つめた上で連携することです。公民連携課(前編の記事参照)でも「公に寄り添うこと」を掲げ、それが大変評価されて多くの声掛けをいただいています。一方で、「公が民に寄り添うこと」も大切だと考えています。

 例えば、相互に人材を出し合うような人材交流を行うことも、シームレスな連携の発想を持つための一つの重要な方法です。そうすることで相手の特性だけでなく、自らの特性も客観的に見えてくるはずです。

東浦氏が執筆した書籍「私鉄3.0」(発行:ワニブックス)(写真:加藤 康)
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東京急行電鉄執行役員渋谷開発事業部長の東浦亮典氏(写真:加藤 康)
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東浦亮典(とううら・りょうすけ)
東京急行電鉄執行役員渋谷開発事業部長
東京都生まれ。1985年に東京急行電鉄入社。自由が丘駅駅員、大井町線車掌研修を経て、都市開発部門に配属。東急総合研究所出向の後、復職後に新規事業開発を担当。東急電鉄沿線の都市開発戦略策定やマーケティング、プロモーション、ブランディング、エリアマネジメントなどを担当