この機会にこそ、未来を見据えた将来像の議論を

――図書館関係者の間ではどのような動きが起こっていますか。

岡本 先に挙げたsaveMLAKが、公共図書館や大学図書館の施設としての開閉館状況の悉皆調査や、新型コロナ環境下の図書館のグッドプラクティスを調査しています。saveMLAKは東日本大震災を受けて始まった、Wikiを使ったオンラインコラボレーションですが、発足から間もなく10年というタイミングで、コロナに対応する取り組みが生まれていることはすばらしいと感じています。

 私自身、saveMLAKを立ち上げたメンバーの一人なので、手前味噌に聞こえるかもしれませんが、今回の一連の取り組みの多くは、比較的新しい顔ぶれで自主的・主体的に実現しています。世代交代もあり、図書館などの文化機関の世界も担い手(特に実際に施設で働いている司書や学芸員ら)の実力が10年前より明らかに向上していることはグッドニュースです。

 とはいえ、こういった調査から得られた知見や個別にいただくご相談などを踏まえると、図書館施設の来館利用に関する部分の管理運営は非常に難しくなっていると感じます。例えば、図書館では来館者に個人情報を記載してもらう名簿を作成するかどうかという問題が発生しました。

――「図書館利用者のプライバシーは守られるべき」という一般的な原則が、なし崩し的に取り払われようとしてしまったわけですね。

 国の施設再開に向けたガイドラインの考え方が前提にあるわけですが、正直なところ、どれだけ感染防止対策として実効性があるのか疑問です。名簿に記述する際に発生するであろう一カ所への滞留や筆記用具を介した感染リスクなども踏まえて、名簿作成の必要性については、もっと科学的に判断する必要があります。

――どのような対策が望ましかったとお考えですか。

 政策的なすみ分けが必要です。それぞれの図書館は意識啓発に徹して、大きな網をかけるのは国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)、あるいは、例えば神奈川県などで先行して導入されていたLINEを使った「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」など、広域で一元管理できるシステムに集約すべきです。

 個別分散的にプライバシー情報を集めたところで、効果はほとんどありません。公衆衛生を考えたとき、感染防止対策は大規模にやらなくては意味がないわけですから。しかも、(個別の図書館ごとに個人情報を管理するのは)リスクも高い。感染症に関する情報流通をどう設計すべきかをきちんと考えたうえで対策を進めなくては、無用な不安を市民に与えることにもなりかねません。

 それぞれの図書館が、強制はできないにせよ、来館者にアプリの利用を呼び掛ける、感染拡大防止には、アプリの活用がいかに大事かを訴える――。そのことこそが、公衆衛生教育そのものとなり得るわけですし、社会教育機関、生涯学習機関として、図書館がやるべきことではないでしょうか。

――個人情報の取り扱いとは別に、岡本さんは運用手法についての課題も指摘されていましたね。

 組織としての責任回避の論理だけが先行し、現場に名簿作成を指示する自治体も少数ですが見受けられました。図書館の管理運営に指定管理者制度を導入している自治体では、行政サイドが上意下達的に名簿作成を押し切ったという話も散見されます。公の施設の管理運営を指定管理者に委ねる以上、自治体側は責任回避だけを考えるのではなく、協働パートナーである指定管理者と対等な協議を徹底するべきです。東日本大震災のときにも見受けられたことですが、指定管理者を下請けと勘違いしているかのような一部自治体の存在は非常に残念です。

 それはさておき、saveMLAKとは別に私も関わっている「『図書館』(仮称)リ・デザイン会議」という自主的なプロジェクトが新型コロナの感染拡大への対応を迫られる中で発足し、この機会にこそ、未来を見据えた将来像について腰を据えて議論し確立しようという動きがあります。この動きは、現行の図書館法の施行100周年となる2050年を見据えたものです。 あえて「図書館」(仮称)として、個別の利害や権利・慣習からいったん離れて、これからの社会において必要とされる「図書館」とは何かを描き出していきます。

「図書館」(仮称)リ・デザイン会議のウェブサイト

 今回、感染予防のシンボル的存在として妖怪「アマビエ」が大ブレイクしていますが、あれは京都大学附属図書館が資料を保存し、デジタル化して公開してきたものです。その経済効果は図り知れませんし、経済効果以上に人の心を癒す大きな役割を果たしています。図書館的な機能の経済的・文化的効用は決して安易に「不要不急」とされるものではないと考えています。情報や知識のプラットフォーム、知のインフラとしての「図書館」(仮称)――それはまだ確立できていないものですが――を追求していきたいですね。

妖怪「アマビエ」。豊作・疫病などを予言、自分の姿を書き写して人々に見せると難を逃れると伝えられている。その姿は、厚生労働省で新型コロナ感染防止のイメージキャラクター的に扱われたり、民間企業各社の商品などで引用されたりしている(出所:『肥後国海中の怪』〔京都大学附属図書館所蔵〕)
岡本真(おかもと・まこと) 
アカデミック・リソース・ガイド代表取締役/プロデューサー
1973年生まれ。1997年、国際基督教大学(ICU)卒業。編集者を経て99年ヤフー入社。「Yahoo!知恵袋」などの企画・設計・運用に従事。2009年、アカデミック・リソース・ガイドを設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、日本全国で新図書館をはじめとする文化機関の整備に関わる。コワーキングスペースやシェアハウスのプロデュースにも携わる。近著に『未来の図書館、はじめます』(青弓社)など。