賑わい、デジタル、プライバシー……「図書館」という公共空間は、新型コロナウイルス感染症の影響で、その在り方の本質的な見直しを迫られている。図書館のコンサルティングなどを手掛けるほか、全国の図書館に足を運び、現場の事情にも詳しいアカデミック・リソース・ガイド(arg)代表取締役/プロデューサーの岡本真氏に、コロナ禍であらわになった図書館の課題について語ってもらった(オンラインによるインタビュー)。

岡本真氏。インタビューはオンラインで実施(画像:日経BP 総合研究所)

――新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけで、図書館のどのような課題が表面化してきたとお考えですか。

岡本 大きく2つの面で課題があらわになったと考えています。

 1つめは「賑わい・交流を生む図書館」「場としての図書館」という考え方に基づく図書館振興の課題です。端的に言えば図書館の集客機能がまちづくりの文脈で評価・尊重されてきましたが、新型コロナの感染拡大を防ぐには、図書館においても、むやみに人を集められない、かつ長時間の滞在が好ましくない、さらに交流自体を大規模には行えないということになります。この10年ほど、大きな影響力をもってきた図書館による「賑わい」創出という考え方は、曲がり角に来たと感じています。

 ただ、皮相的・表面的に賑わいや交流を追求してきた図書館と、そうではなく知識や情報へのアクセスをサポートし、市民の知的活動を軸に交流を育んできた図書館とでは、影響は異なるでしょう。

 もう少し具体的に言うと、感染リスクが抑制できない状況では、人が集まることがリスクになります。入館者数を抑制する必要や滞在時間を制限する必要がある場合、この先、「賑わい」の創出を目的とした集客は厳しいのではないかと思います。そうして来館者が減った場合、「賑わい」という目的を果たせない施設は、その存在意義の説明が難しくなるでしょう。

 他方、情報や知識を活用しながら地域づくりをしていく、「まち育て」をしていくことを強く意識したうえで、その交流拠点として位置付けてきた図書館は、この状況だからこそ活動は活発化していくと思います。「おしゃれな交流スポット」ではなく市民活動のために必然的に必要とされている場となっていれば、3密に気を付けながらも、当然人々は図書館を訪れるはずだからです。

 例えば、まだ(新型コロナで一時閉館後の)再開の助走段階ではありますが、我々が関わった福島県須賀川市の「須賀川市民交流センターtette」では、市民活動の場として人々がかなり戻ってきており、そのような空気があることを感じます。須賀川市では、市民活動は東日本大震災を経て活発になってきていました。tetteは、その市民活動を刺激し、持続可能なものにするための受け皿として準備を進め、整備をした施設です。実際、tetteでは、既に昨年の水害の際に市民の活動拠点として機能していた実績もあります。

須賀川市民交流センターtetteの外観(写真提供:提供:須賀川市民交流センターtette)
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2019年、市民活動サポートセンター登録団体の須賀川市赤十字奉仕団が台風災害の義援金のためにtetteで行ったバザーの様子(写真提供:提供:須賀川市民交流センターtette)
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 ここ10年ほどで、各地に「賑わい創出」を目的とした文化施設が整備されてきました。新型コロナの影響によって、こうした施設の賑わい機能や交流機能の真価が問われるといえるでしょう。

必要とする知識・情報がデジタル化されていない

――デジタルサービスの弱さも露呈しましたね。

 それが、もう1つの課題です。日本では、図書館の機能が来館利用を前提としたものに傾斜しすぎ、デジタルやウェブの技術を生かしたサービスの展開が著しく立ち遅れているということがあらわになりました。

 今回も、有志によって運営されている博物館・美術館(M)、図書館(L)、文書館(A)、公民館(K)の被災・救援情報サイト「saveMLAK」の調査では、公共図書館などの場合、実に90%の施設が来館利用できなくなった時期がありました。その際、「必要とする知識・情報がデジタル化されていない」という厳しい現実をあらためて思い知ったといえるでしょう。

「saveMLAK」のウェブサイト

 コロナの終息が見えないこともあり、この機会に今度こそ、本気で資料のデジタル化を進める必要があります。また、既に国会図書館がデジタル化しているものも多数ありますが、一般公開されていないということがあらためてクローズアップされました。こういった制度上の課題も突破される必要があります。

――この2つの大きな課題について、岡本さんは、どのような方向性に進むべきだとお考えですか。

岡本 saveMLAKで発表した「災害への『しなやかな強さ』を持つMLAK機関をつくる」という呼びかけ(起草:岡本)で、「2分法を超える融合:来館・非来館という2分法ではなく、実空間と情報空間が融合した未来のMLAK機関の理想を追求していきましょう」と記したのですが、今度こそ、「実空間と情報空間の融合」をとことん追求することを大前提として、施設整備が進められるべきです。

――「実空間と情報空間の融合」は、岡本さんや岡本さんが代表を務めるアカデミック・リソース・ガイド(arg、本社横浜市)が、一貫してテーマとしてきた問いでもあります。

岡本 コロナショックでこの主張がついに正当性をもつ、あるいは当然視されるようになると期待しています。コロナの脅威がいつまで続くのかは、まだ誰にもわかりません。ですが、今後も発生が予測される新たな感染症の脅威を見込むと、公共施設の計画・整備・運営は一度ゼロベースから組み上げ直していく必要があるでしょう。

 いま準備しているスクール(都市経営プロフェッショナルスクール・次世代図書館専門課程、主催:arg、一般社団法人公民連携事業機構)でも、この点は非常に重視しています。もともとオンライン講座を主とした開講形態だったのですが、共同開催する公民連携事業機構の木下(木下斉・同機構理事)さんらと相談して、ワークショップのような協働の取り組みなども、可能な限りオンラインで実践することを考えています。実際、argで各自治体から請け負っている仕事は会議もワークショップも講演も、すべてオンライン化に舵を切って、 既に実践フェーズに入っていますので、十分実現できます。

 これはargの持論でもあるのですが、目指す結果をプロセスの段階から実現していかなくてはいけないと思っています。つまり、「実空間と情報空間の融合」が実現した施設を整備するのであれば、その準備段階からあらゆるプロセスにおいて 「実空間と情報空間の融合」を実践していきます。

この機会にこそ、未来を見据えた将来像の議論を

――図書館関係者の間ではどのような動きが起こっていますか。

岡本 先に挙げたsaveMLAKが、公共図書館や大学図書館の施設としての開閉館状況の悉皆調査や、新型コロナ環境下の図書館のグッドプラクティスを調査しています。saveMLAKは東日本大震災を受けて始まった、Wikiを使ったオンラインコラボレーションですが、発足から間もなく10年というタイミングで、コロナに対応する取り組みが生まれていることはすばらしいと感じています。

 私自身、saveMLAKを立ち上げたメンバーの一人なので、手前味噌に聞こえるかもしれませんが、今回の一連の取り組みの多くは、比較的新しい顔ぶれで自主的・主体的に実現しています。世代交代もあり、図書館などの文化機関の世界も担い手(特に実際に施設で働いている司書や学芸員ら)の実力が10年前より明らかに向上していることはグッドニュースです。

 とはいえ、こういった調査から得られた知見や個別にいただくご相談などを踏まえると、図書館施設の来館利用に関する部分の管理運営は非常に難しくなっていると感じます。例えば、図書館では来館者に個人情報を記載してもらう名簿を作成するかどうかという問題が発生しました。

――「図書館利用者のプライバシーは守られるべき」という一般的な原則が、なし崩し的に取り払われようとしてしまったわけですね。

 国の施設再開に向けたガイドラインの考え方が前提にあるわけですが、正直なところ、どれだけ感染防止対策として実効性があるのか疑問です。名簿に記述する際に発生するであろう一カ所への滞留や筆記用具を介した感染リスクなども踏まえて、名簿作成の必要性については、もっと科学的に判断する必要があります。

――どのような対策が望ましかったとお考えですか。

 政策的なすみ分けが必要です。それぞれの図書館は意識啓発に徹して、大きな網をかけるのは国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)、あるいは、例えば神奈川県などで先行して導入されていたLINEを使った「新型コロナ対策パーソナルサポート(行政)」など、広域で一元管理できるシステムに集約すべきです。

 個別分散的にプライバシー情報を集めたところで、効果はほとんどありません。公衆衛生を考えたとき、感染防止対策は大規模にやらなくては意味がないわけですから。しかも、(個別の図書館ごとに個人情報を管理するのは)リスクも高い。感染症に関する情報流通をどう設計すべきかをきちんと考えたうえで対策を進めなくては、無用な不安を市民に与えることにもなりかねません。

 それぞれの図書館が、強制はできないにせよ、来館者にアプリの利用を呼び掛ける、感染拡大防止には、アプリの活用がいかに大事かを訴える――。そのことこそが、公衆衛生教育そのものとなり得るわけですし、社会教育機関、生涯学習機関として、図書館がやるべきことではないでしょうか。

――個人情報の取り扱いとは別に、岡本さんは運用手法についての課題も指摘されていましたね。

 組織としての責任回避の論理だけが先行し、現場に名簿作成を指示する自治体も少数ですが見受けられました。図書館の管理運営に指定管理者制度を導入している自治体では、行政サイドが上意下達的に名簿作成を押し切ったという話も散見されます。公の施設の管理運営を指定管理者に委ねる以上、自治体側は責任回避だけを考えるのではなく、協働パートナーである指定管理者と対等な協議を徹底するべきです。東日本大震災のときにも見受けられたことですが、指定管理者を下請けと勘違いしているかのような一部自治体の存在は非常に残念です。

 それはさておき、saveMLAKとは別に私も関わっている「『図書館』(仮称)リ・デザイン会議」という自主的なプロジェクトが新型コロナの感染拡大への対応を迫られる中で発足し、この機会にこそ、未来を見据えた将来像について腰を据えて議論し確立しようという動きがあります。この動きは、現行の図書館法の施行100周年となる2050年を見据えたものです。 あえて「図書館」(仮称)として、個別の利害や権利・慣習からいったん離れて、これからの社会において必要とされる「図書館」とは何かを描き出していきます。

「図書館」(仮称)リ・デザイン会議のウェブサイト

 今回、感染予防のシンボル的存在として妖怪「アマビエ」が大ブレイクしていますが、あれは京都大学附属図書館が資料を保存し、デジタル化して公開してきたものです。その経済効果は図り知れませんし、経済効果以上に人の心を癒す大きな役割を果たしています。図書館的な機能の経済的・文化的効用は決して安易に「不要不急」とされるものではないと考えています。情報や知識のプラットフォーム、知のインフラとしての「図書館」(仮称)――それはまだ確立できていないものですが――を追求していきたいですね。

妖怪「アマビエ」。豊作・疫病などを予言、自分の姿を書き写して人々に見せると難を逃れると伝えられている。その姿は、厚生労働省で新型コロナ感染防止のイメージキャラクター的に扱われたり、民間企業各社の商品などで引用されたりしている(出所:『肥後国海中の怪』〔京都大学附属図書館所蔵〕)
岡本真(おかもと・まこと) 
アカデミック・リソース・ガイド代表取締役/プロデューサー
1973年生まれ。1997年、国際基督教大学(ICU)卒業。編集者を経て99年ヤフー入社。「Yahoo!知恵袋」などの企画・設計・運用に従事。2009年、アカデミック・リソース・ガイドを設立。「学問を生かす社会へ」をビジョンに掲げ、日本全国で新図書館をはじめとする文化機関の整備に関わる。コワーキングスペースやシェアハウスのプロデュースにも携わる。近著に『未来の図書館、はじめます』(青弓社)など。

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