内閣府は、成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay for Success)の普及を推し進めている。PFSは、国や自治体が事業の成果目標を設定して事業を民間へ委託し、その達成度に応じて報酬を支払うというもの。政府は医療・健康、介護、再犯防止を「重点3分野」と位置付けてPFSの導入を推進している。内閣府は今年3月にアクションプランを策定した。普及を目指す上での課題や、今後の取り組みについて、内閣府成果連動型事業推進室の石田直美参事官に話を聞いた。

インタビューはオンラインで実施(画像:日経BP 総合研究所)
インタビューはオンラインで実施(画像:日経BP 総合研究所)

――成果連動型事業推進室が発足した経緯を教えてください。

 推進室が発足したのは2019年7月1日です。政府はSIB(Social Impact Bond:ソーシャル・インパクト・ボンド)について「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2015」に盛り込んで以降、検討を進めてきました。経済産業省と厚生労働省が特にヘルスケア分野への導入で先行してきました。その後、政府全体でPFS/SIB推進の気運が高まり、内閣府で取りまとめをすることになったのです。

PFSによる事業のスキーム例。このうち、民間事業者が資金提供者から資金を調達し、地方公共団体などから受けた支払に応じて返済を行うものをSIBと呼ぶ(資料:内閣府)
PFSによる事業のスキーム例。このうち、民間事業者が資金提供者から資金を調達し、地方公共団体などから受けた支払に応じて返済を行うものをSIBと呼ぶ(資料:内閣府)
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――内閣府がPFSの普及を図るのはなぜですか?

 PFSのもとになっているのは、PFSの一形態であるSIBです。英国の例などを参照しながら、社会的な取組に資金や人材を呼び込む社会的ファイナンスの一手法として取り組んできました。

 SIBといえば、海外では従来公共サービスでカバーされなかった領域に民間がお金を出して、まずは社会的インパクトを生むような事業を行う場合が多くなっています。その結果として行政コストが削減されれば、その分を民間に還元していこう、という発想です。例えば、SIBの第1号である英国ピーターバラ刑務所における再犯率改善の案件は、短期受刑者を対象としており、SIB実施以前は短期受刑者向けの就労支援は公的なサービスとして実施されていませんでした。ところが、SIBで大きな効果が認められたこともあり、短期受刑者向けのサービスが制度化され、結果的にこのSIB事業は途中で終了しています。

 ただ、日本の場合、福祉的な取組を公共サービスとして実施する制度が整備されていることから、既に提供されている行政サービスの費用対効果を高めようという色合いが強いといえます。

――PFSは、PPP(公民連携:Public Private Partnership)の枠組みの中で、「未来投資戦略」でも取り上げられていますね。

 これまでのPFI/PPPはインフラに民間の知恵や資金を取り入れていくという動きでした。これにPFSという手法を加えて、福祉、医療、再犯防止などソーシャルな分野に民間ノウハウを生かして費用対効果を上げていこうという考え方です。また、自治体からはPFSが財政健全化に寄与するという面も注目されているようです。

 われわれPFS推進室としては、捉え方や意味合いにこだわりすぎずに、まずは幅広く、成果に連動して支払いをするPFSの仕組みを活用していってほしいと考えています。

――PFSの普及に関して数値目標はありますか。

 今年3月に策定したPFS普及のための関係省庁のアクションプラン(「成果連動型民間委託契約方式の推進に関するアクションプラン」)では、3年後にPFSを活用する団体数として100を目指すという目標を掲げました。

――事業規模についての目標は設定していないのですか。

 今のところPFSについては、PPP/PFIアクションプランにおける「令和4年までの10年間で21兆円」といったような事業規模の目標は設定していません。国内で行われているPFS事業はほとんどが小規模で数百万円から1000万円前後です。最近になって、ようやく5000万円、6000万円といった事業が出てきたところです。今はまだ金額目標よりも環境整備が大事であり、まずは自治体に対し、PFSという考え方の浸透を図っていこうと考えています。

PFSアクションプラン工程表(資料:内閣府)
PFSアクションプラン工程表(資料:内閣府)
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ガイドラインづくりやモデル事業などが進行中

――推進室での取り組みについて教えてください。

 先に挙げたアクションプランの策定のほか、PFSの国内外の先行事例や各種資料を公開するポータルサイトを開設しました。現在は、PFS実施のための共通的ガイドラインの策定と、自治体におけるPFS事業の導入可能性の検討を支援する支援事業に取り組んでいます。

 ガイドラインは事業実施の参考となるように、基本的な考え方を整理していきますが、事業規模についても言及する方向で検討しています。これまでは「小規模でもいいから、とにかくやってみよう」というスタンスで推し進めてきましたが、ガイドラインにはもう少し“自走”を意識した内容を盛り込みます。

 支援事業は2021年度以降も規模を拡大しながら実施していきたいと考えています。先行事例と同じ課題に同じ手法で取り組むものではなく、社会福祉領域で問題解決を促す新しい手法で行う事業を支援する方針です。内閣府ではこの支援事業での検討事項や検討過程などをとりまとめ、その内容をガイドラインに反映します。

 ただし、現状では、自治体が支援事業に応募できるところまで、案件組成が上手く進んでいないところも多いのが実態です。そこで、2020年度は内閣府の職員をさまざまな自治体に派遣してPFSの勉強会やセミナーを開く取り組みを進めています。さらに2021年度からは外部の専門家も派遣していきたいと考えています。

 また、2021年度以降になりますが、自治体と民間事業者や大学、中間支援組織がPFS事業の組成に向けたネットワークを形成できるような場も用意するつもりです。このプラットフォームで、初期段階の案件をある程度仕分けて具現化に向けて動き出せる体制を整え、モデル性の高いものについては内閣府の予算で別途、案件組成を支援するのが理想的な形だと考えます。

 プラットフォームはまだ検討段階ですが、行政の課題と民間のソリューション(課題解決策)をすり合わせる場にしたいですね。思い描いているのは、中間支援組織が行政の課題を聞いて、PFS事業を仮に構想して、その構想にマッチする民間企業や金融機関などに呼びかけて意見交換や情報共有をするような形です。マッチング以前のサウンディングのような催しをくり返していくのがいいのではないかと思います。

――国の直轄で行うPFS事業もありますか?

 現在、法務省では、直轄で行う再犯防止のSIB事業の検討を進めていると聞いております。まずは、国がモデル的にPFS事業を行い、自治体にもあとに続いてもらいたいという考えです。犯罪者も刑務所を出所すれば地域社会に戻るので、自治体にも国と共に再犯防止に取り組んでもらう必要があり、2016年に施行された再犯防止推進法(再犯の防止等の推進に関する法律)にも、国と地方公共団体の相互連携が盛り込まれています。

 SIBはもともと英国ピーターバラ刑務所で始まっているので、法務省としても、再犯防止分野でのPFS事業の普及に意欲を持っているようです。

PFS普及のカギは事業規模の拡大

――事業者も中間支援組織もまだまだ少ないなかで、目標100件の達成に向けて、裾野をどう広げようと考えていますか?

 事業者が手を挙げたくなるような魅力的な事業を作っていくことが重要だと思っています。そのためにガイドラインや専門家の派遣による自治体の意識喚起を先行させる。民間事業者に「PFSは手間がかかるわりにうま味がない」と思われるのを避けなくてはいけません。民間からは、事業規模が小さいという問題の他に、どうも自治体に話が通じない、成果連動の趣旨が理解されにくいという意見も聞くので、内閣府として事業者の意見を整理し、自治体に適宜フィードバックしていくつもりです。

――事業規模が小さいままでは、民間事業者がPFS事業で得られる利益も小さいため、担い手が増えにくいという理解でいいですか。

 その通りです。さまざまな関係者や有識者から、PFSで取り組む個々の事業規模を大きくしないとこれ以上の普及は難しいとご指摘いただいています。自治体の予算が限られるなかで、事業対象エリアを広域にして複数の自治体で連携する、(市区町村レベルではなく)都道府県が主導するなど、事業効果を高めるよう目線を上げることが重要です。内閣府としては、規模を大きくする方策を自治体に示していきたいと思います。

 広域連携の他に、事業期間を長く取るのも事業規模を大きくする方法として有効だと考えます。期間が長ければ、PFS事業の中で行うPDCAサイクルの回数も増えるので、成果がより高まる余地もあるのではないでしょうか。

――アクションプランにはPFSの補助制度を検討するとありましたが、これはどのようなものですか。

 補助制度については、米国、英国で採用されているアウトカムファンドの調査を2019年度に行いました。アウトカムファンドとは、既存の制度や予算区分を超えたPFS/SIB事業について、補助財源となる国の基金のことを指します。

米国のアウトカムファンドのイメージ(「内閣府委託調査 国外のPFS(成果連動型民間委託契約方式)に係る支援制度の事例調査報告書」〔2020年2月、日本総合研究所〕より)
米国のアウトカムファンドのイメージ(「内閣府委託調査 国外のPFS(成果連動型民間委託契約方式)に係る支援制度の事例調査報告書」〔2020年2月、日本総合研究所〕より)

 例えば、日本では市町村が介護予防に取り組んでいますが、介護給付は12.5%が市町村の負担で、残りは都道府県や国、利用者の負担です。市が1000万円かけてPFSの仕組みを使った介護予防事業に取り組み、1億円分の介護給付費の削減効果が出たとして、そのとき、自治体が受ける恩恵は1250万円にとどまります。これでは、財政的な事情を考えると、自治体にとってはPFSを導入するメリット(削減できた社会保障費)は小さいですよね。

 もちろん住民が幸せになること自体は自治体にとっても喜ばしいことのはずですが、自治体がコストをかけて取り組んだ事業なのに、その恩恵を国や都道府県と分け合って享受するのでは、市町村としてはモチベーションが上がりにくい。こうした点が、PFS事業を行うかどうかについて自治体の意思決定に大きな影響を与えます。そこをカバーするのがアウトカムファンドというわけです。

 また、事業規模の拡大という面から見ても、アウトカムファンドのような仕組みがあれば、自治体も事業拡大フェーズへと踏み出しやすいのではないかと思います。今後、PFSの普及状況も見ながら、さらなる促進策の選択肢の一つとして考えていきたいと思います。

 一方で、日本でPFS事業を行う場合、事業の各段階で様々な省庁から補助金などの支援を受けるため、手続き等が煩雑になります。案件を形成する際の事業化調査(FS)や、事業成果に連動した支払い、効果検証のためのコストなどさまざまな費用をワンストップで支援できるPFS専用の補助金制度も検討していきたいと思っています。

――自治体によっては、現状でうまくいっている事業まで成果連動型にすべきなのかという戸惑いの声もあるようです。

 私たちも、うまくいっている事業まで、全てPFSに切り替えるべきとは考えていません。ただ、PFSにすれば事業の成果がきちんと検証されます。例えば、大腸がん検診などの受診勧奨がどれだけ実を結んだのかなどが明確になる利点はあると思います。さらに副次効果として、同様の事業を複数の自治体がPFSで事業化すれば、それらを相互に比較もできるので、より費用対効果の高い取り組みを明らかにして次のステップにつなげていけるのではないでしょうか。ここまでいけばEBPM(証拠による政策立案)にもつながっていきます。行政の現場では時に、民間に比べてPDCAサイクルがきちんと回りにくい面もあると思いますが、PFSはPDCAを回すツールにもなりえます。

――国保の場合、保険者努力支援制度(市町村と都道府県を対象とした予防や受診勧奨の取り組み度合いに応じたインセンティブ制度)との連動も考えられそうです。

 保険者努力支援制度は自治体の関心が高く、PFSの促進にも働くようなやり方を厚生労働省に検討してもらっています。今年度からは、全体の点数で評価して配分する交付金とは別枠で、事業費に連動した枠を設け、そこではPFS事業の支払いも対象になると聞いています。

「目標未達=PFSの失敗」は誤解

――ガイドラインには、PFS事業がうまくいかなかった場合の事後対応なども盛り込まれるのでしょうか。

 事後対応の前に、まず何をもって「PFS事業がうまくいかなかった」と捉えるかも大事な話ですね。PFS事業において成果指標が目標値に届かなかったとき、それをPFSという手法の失敗と捉えることには異を唱えたいと思います。成果の出ないものに漫然と過分な支払いを続けるよりは、成果をしっかり見極めて応分の支出をしたなら、それはPFSのあるべき姿です。

 成果が出なかったこと自体は別途検証の必要がありますが、それはPFSという手法の失敗ではありません。PFSの仕組みで行った個々の事業内容自体に効果がなかったということが考えられます。ですがそれも、成果がしっかり評価される分、改善点などが見つかりやすいはずで、次につなげることができるのではないでしょうか。

 PFS事業で失敗に当たる事態は、当初想定していたポジティブな社会的インパクトよりもネガティブなインパクトが強く出てしまった場合でしょうね。あるいは、事業が思うように進まず、事業者が途中で手を上げてしまって、予定したより早く事業がなし崩し的に終わってしまうようなことも、考えられます。

 そうした案件がもし出れば、当然、原因を検証していかなければいけません。成果指標の設定の仕方や効果の測定、事業者選定のプロセスなどを検証する必要があるので、そうしたことはガイドラインにも盛り込みます。

 自治体も事業者も、「PFSだから」と少し背伸びした目標を定めるケースがあるようです。そうすると成果が達成できない可能性は増しますが、それは意欲的な目標設定をしたためであり、従来より費用対効果はあがっている可能性が高いのではないでしょうか。そうしたときに「PFSで問題が起きた」と誤解されないように、その辺りも含めた自治体の理解促進に力を入れていきたいと思います。

石田直美(いしだ・なおみ)
内閣府成果連動型事業推進室 参事官
石田直美(いしだ・なおみ) 1997年3月に東京工業大学大学院修了、同年4月に株式会社日本総合研究所に入社。主にPPP/PFIを担当。上下水道や環境分野での導入可能性調査や事業者選定支援、海外調査などを実施。インフラ輸出やスマートシティ分野でも多くの実績を有する。2016年に経済産業省事業の一環として、ヘルスケア分野でのPFS/SIBに関与、地方公共団体のPFS導入支援や、ノウハウ集作成などを担当。2019年7月1日より現職。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/070600078/