――最初はイベント参加者の追跡システムだったのですね。

 4月に入ると、感染者が再び増加するなど、イベントは自粛緩和どころではなくなりました。そのシステムはお蔵入りになるかもしれないと思いましたが、いずれ役立つときがくると考え、イベントだけでなく、飲食店や遊興施設など幅広い施設の来場者を対象にできるように設計の方針転換を指示しました。ゴールデンウイークの前ぐらいのことです。

大阪府の「大阪コロナ追跡システム」の紹介ページ。開発スピードの速さのほか、吉村府知事がメディアで「開発費80万円、1カ月の運営費17万円」と発言。そのコストの安さも話題となった

 そのときのシステムの設計には課題がありました。最初はイベント会場などの施設側に専用のデバイス(装置)を設置しなければならず、施設側に負担がかかるものでした。そこで、印刷したQRコードを施設側に貼りだして、来場者がスマホでそれを読み取るようにすることにしました。これなら専用デバイスは不要になり、小規模な事業者が多い飲食店なども手軽に対応できます。

 知事もおそらく同じことを言うだろうと予想していました。実際にゴールデンウイークが明けると、知事室へ呼び出され、「飲食店を含めた幅広い施設を対象にするとともに、専用デバイスを使わないで済むよう、システムを変更できないか」と言われました。

 当時、外出自粛によって大阪経済のダメージは深刻になる一方でした。感染者をいち早く発見する仕組みによって、感染拡大を抑制し、経済活動をできるだけ早く元に戻すという作戦が知事の頭にあったのだと思います。

スタートアップと戦略部が共同で開発

 私は即座に「基本的な設計はできており、開発するだけです」と返答し、知事(吉村洋文・大阪府知事)はその場で開発を進めるように決断をしました。5月29日には「大阪コロナ追跡システム」として提供を開始しています。

 システムは、大阪のスタートアップAppTimeと、スマートシティ戦略部の職員が共同して開発を進めました。

 開発を依頼する際、何社ものスタートアップに打診しましたが、みな技術力を持ち、社会貢献をしたいという意欲が高いと感じました。開発を実際に担当したAppTimeも、かなり意欲的に開発してくれました。

 スマートシティ戦略部では、民間からの出向者2人が開発を担当しました。スマートシティ戦略部には90人弱の職員がいますが、4月1日付けで民間企業からの出向者を5人受け入れていました。そのうちの2人の技術者がこのコロナ追跡システムを担当しています。

 出向者は、大阪府庁で社会課題を解決する経験を積み、2年後には出向元の企業へ戻りますが、ライバル企業の社員が府庁の中ではワンチームとなり、スタートアップと共同で開発を進めました。

 システムの品質も短期間での開発ながらしっかり確保されたと思います。5月29日の本番稼働日は「何かあったら、謝罪会見をしますよ」と言ったほどトラブルを心配しましたが、数万件の登録処理を問題なくこなしました。

 大阪府に続いて、東京都、神奈川県、京都府、滋賀県などが同様のQRコードを使った来場者を追跡するシステムを導入しました。それぞれ開発会社、システム名や用途が少しずつ違うのですが、大阪のシステムと同じようにQRコードを使う仕組みです。

 7月末の時点で大阪コロナ追跡システムの登録者は累積90万人を超え、また、飲食店におけるQRコードの貼り付けも、府内全域に営業網を持つアサヒビール様やキリンビール様などが無償で協力いただいたおかげで着実に広がりつつあります。