スタートアップの育成をさらに強化

 これは、成長の原動力としてスタートアップを育てるという観点からも重要です。私は、前職でスタートアップを育成する仕事もしていましたが、日本のスタートアップにはアメリカに比べて大きなハンデキャップがあると感じていました。資金面とビジネスモデル面、それぞれのサポートが不足していることです。

 資金面のサポートについては、ベンチャー投資が日本で改めて盛んになったことで状況が変化しました。現在は昔ほど、資金的な理由でスタートアップが育たないということはなくなっています。

 ところが、ビジネスモデル面のサポートは依然として大きな課題です。アメリカにはビジネスモデルの作成をサポートする仕組みがありますが、日本のスタートアップにその仕組みはありません。

 日本企業はとても良い技術を持っていますが、それをビジネスに適用する力が不足しています。技術が宝の持ち腐れのようになり、フェードアウトしてしまうスタートアップを前職で多数見てきました。

 大阪府は「大阪府スタートアップ発展支援プロジェクト『RISING!』」などで、スタートアップを育てていますが、それをより強化するには、ビジネスモデル作成を含めたサポートを幅広く強化することが必要だと思います。

行政が持つデータをビジネスでより活用可能に

 また、現在、多くのスタートアップの技術は、ビッグデータの活用を前提にしています。しかし、スタートアップにビッグデータの活用技術はあってもデータそのものがありません。日本のスタートアップにとっては大きなハンデキャップです。

 そこで、行政が持つデータをビジネスでより活用できるよう、スタートアップにはフルオープンにしていきたいと考えています。

 米国は「オープンガバメント」に基づいて、2013年に米オバマ大統領が政府情報のオープンデータ化を義務付ける大統領令にサインし、そこから行政関係のデータをオープンにしていきました。日本ではその米国のような取り組みはまだ十分にできていないと思います。行政のデータを公開するだけでなく、行政が中心になってデータを集め、それを民間に対してフィードバックしていく施策についても検討します。

――新型コロナに対応した社会が変わっていくには、公民連携にさらなる深まりが必要なのですね。

 これまでも、単発で、行政が提示した社会課題と、技術を持つ民間企業のマッチングをする公民連携は行ってきました。その結果、便利なスマホのアプリが開発されるなどの実績もあります。しかし、私は民間にいましたので実感していますが、自治体の仕事は一般に儲かりません。そして、儲からなくなり、ビジネスから撤退したらスマートシティづくりもまちづくりもサステナブルにすることができません。

 ではどうするか。それには、単発の「連携」を超え、持続的な「共同」の仕組みを作らなければならないと考えます。ここでいう「共同」は、行政と一つの企業との単発のマッチングではなく、行政と業界がいっしょに「エコシステム」(経済的な連携体系)を作るようなイメージです。事業体にする場合があるかもしれません。

 我々は民間がより儲かるように、マーケットやデータを提供します。そして、民間が儲けたお金については、大阪のスマートシティへ再投資してもらう――そうして経済がこれまで以上に強く循環するエコシステムの構築を目指します。

 もちろん、我々行政は、高齢者が多い過疎地に自動運転車を走行させるといった公共のための施策を行わなければなりません。これまでは、自治体の予算だけで実現しようとしていましたが、大阪府が独力で、その仕組みをゼロから作ることは困難でしょう。そこで、さきほど説明した新たなエコシステムで、民間が出した利益を行政が再配分するなか、過疎地にも自動運転車を走行させるようにするのが、サステナブルなスマートシティの実現方法だと考えます。

――エコシステムを構築・運営する知恵がスマートシティ戦略部に問われそうです。

 エコシステムの受け皿として「大阪スマートシティパートナーズフォーラム」を立ち上げる予定で参画企業・団体を募集しており、総会・設立式を8月25日に開催します。これはよくある勉強会ではありません。今、申し上げた新たな戦略を実行するため、大阪府のスマートシティに本気で投資してくださる企業・団体とパートナーシップを構築しようとするもので、総会・設立式には知事も参加し、パートナーとなる民間トップの方へ直接、この戦略を説明します。民間が、ビジネスモデルを確立できるぐらいの市場の見える化を行い、持続的なビジネスプラットフォームを構築する――という意気込みで取り組みます。

大阪府のスマートシティ戦略が目指す変革(大阪府のスマートシティ戦略 Ver.1.0)より
大阪府のスマートシティ戦略が目指す変革(大阪府のスマートシティ戦略 Ver.1.0)より
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 この民間との「共同」は、そのために私がスマートシティ戦略部長に選ばれたというぐらい重要だと考えています。ICT企業の経験を生かすだけではなく、行政の中に民間のやり方・手法・ビジネスモデルなどを含めてノウハウを持ち込むために、私のような民間の人材を採用したのでしょう。

 ですから私も就任にあたり、民間からの出向者をスマートシティ戦略部に入れましたし、民間と共同する組織にしなければならないと言ってきました。大阪スマートシティパートナーズフォーラムもその一環で、最大200社ぐらいからの参加を目指しています。

――スマートシティ戦略Ver.1.0に盛り込まれた要素については、粛々と実行されていくのでしょうか?

 戦略を実現するためのマスタースケジュールを作るとわかりますが、2025年の大阪・関西万博には確実に成果が出るように、優先順位をつけて取り組んでいきます。一番はやはり「住民の生活の質(QoL)の向上」です。また、最新の技術を先取りしながら、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン(Designing Future Society for Our Lives)」に取り組みます。

 さらに「健康」の領域については達成すべき目標を数値にして取り組みます。大阪府のスマートシティ戦略Ver.1.0ではダッシュボード(複数の情報源からデータを集めて、概要をまとめて一覧表示する機能や画面)を作ることが示されています。指標を府民に目に見える形で示して責任感を持って施策を進めます。

 特に「健康寿命」については、チャレンジング(困難だが挑戦しがいのある)なことですが、2025年までの5年間で1歳延ばします。大阪は健康寿命が全国平均より低いなどの課題がありますが、スマート・ヘルス・シティとして世界一を目指します。

――スマートシティに加えて最近では、スーパーシティ構想に対する取り組みも重要になっています。スーパーシティ構想を実現する改正国家戦略特区法が成立しましたが、大阪府のスーパーシティ戦略にはどのような変化がありますか?

 これについては今までどおり、大阪市に協力し、積極的に取り組んでいきます。スーパーシティの導入を目指している「うめきた」や「夢洲(ゆめしま)」は、新規開発型であるグリーンフィールドを活かしたまちづくりを展開する計画ですが、スマートシティ戦略は、住民の方々がすでに生活している府全体が対象です。長期的には、スーパーシティ特区に適用した規制緩和や新技術を、大阪府全体に適用するなどで、スーパーシティ構想がスマートシティ戦略にプラスの効果を与えるようになると期待できます。

訂正履歴
初出時、3ページ目の最後の問いで、冒頭「スマートシティ」とすべきところを「スーパーシティ」にしていました。記事は修正済みです。 [2020/8/3 17:30]
坪田 知巳(つぼた・ともおき)
大阪府スマートシティ戦略部長/CIO
坪田 知巳(つぼた・ともおき) 1984年4月、日本IBMに入社。2001年7月、第一事業部顧客事業推進部担当部長などを経て、2009年1月、日本IBM 執行役員。2014年1月、常務執行役員 兼 大阪事業所長。2020年4月から大阪府スマートシティ戦略部長/CIO(最高情報統括責任者)。(写真:行友 重治)