徳島県南部に位置する美波町に2012年、サテライトオフィスをつくり、「昼休みにサーフィンが楽しめる」というユニークな採用手法を展開して話題になったIT企業サイファー・テック。同社の吉田基晴代表取締役がその翌年に設立した地方創生・地域振興の会社「あわえ」は2021年6月末時点では150の自治体と取引を行うなどの実績を重ねる。あわえの事業戦略や、サテライトオフィスの設置を検討する企業が「選びたくなる自治体」の条件などについて話をうかがった。※取材はリモートで実施しました。

取材に対応する 吉田基晴 代表取締役(写真提供:あわえ)

──サイファー・テックの経営者として、徳島県南部の美波町にサテライトオフィス「美波Lab(ラボ)」を2012年につくり、「昼休みにサーフィンが楽しめる」という驚きのキャッチフレーズで人材を募集されました(2013年5月に本社も美波町に移転)。当時の状況を改めてうかがえますか?

 サイファー・テックは当時、東京に本社があり、社員は6~7人でした。事業は成長していましたが、存在を知られていないため、エンジニアの採用に苦労していました。その対策として、考えに考えて実行したのが、サテライトオフィス美波Labの設置です。

 以前、趣味が高じて千葉でお米作りをしたときの経験から、東京にも、例えば仕事の傍ら農作業をしたいと考えるような人が一定数いることが分かっていました。サイファー・テックの規模なら、年に2~3人も優秀な人を採用できれば十分です。そこで、自然豊かな場所にサテライトオフィスをつくって、退社後や休み時間にサーフィンをしたい人たち、農作業をしたい人たちを採用しようと考えたわけです。

 また、日本は、例えば「仕事か遊びか」「都市か地方か」のように、二者択一を迫る傾向が強いことに反発も感じていました。そこで、サテライトオフィスの設立では、仕事も遊びも両方できる新しいワークスタイルあるいはライフスタイルの実現も目指しています。「美波Lab」という名前は、サイファー・テックの技術研究所(ラボ)であると同時に、ライフスタイルやワークスタイルの実験室(ラボ)でもあるという思いを込めて付けました。

 徳島県美波町を選んだのは、徳島県のブロードバンド環境が日本一でITの仕事がやりやすかったこと、私の生まれ故郷なので地理的な環境が頭にイメージできたことなど、いろいろな理由がありますが、最後の決め手は、東京などから「引っ越ししてまで取り組みたい趣味ができる環境かどうか」でした。

 千葉や横浜といった東京近郊にサテライトオフィスを設置しても、首都圏での人材争奪戦に巻き込まれる点は同じです。IT業界は人材の採用力が企業の競争力に結び付く側面が強いので、徳島県まで離れることで、大手企業と同じ土俵での採用競争をしないで済むようにしたいと思いました。

地域活動を本業として行うために別会社「あわえ」を設立

──美波Lab設立の翌年に、まったく別のビジネスに取り組む“あわえ”を設立されましたが、どのような思いがあったのでしょうか?

 美波Labの反響は予想以上で、設立した2012年のうちに社員が倍増するといった成果が得られ、「すごく“芯をとらえた”ことをしている」という実感がありました。私自身もサテライトオフィスのある美波町に生活の軸足を移すとともに、「郷に入っては郷に従え」のことわざに従い、さまざまな地域活動に参加しました。当時はサテライトオフィスの事例が少なく、全国から取材や視察が来たのでその応対もしました。

太平洋と清流と山に囲まれた徳島県美波町の風景(写真提供:あわえ)
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 ただし、サイファー・テックで地域活動や取材・視察に対応するのは、社会貢献のような位置づけで、長く続けるのは難しいとも感じていました。多くの会社と同様に、サイファー・テックにも人事評価制度がありますが、IT企業であるため、地域活動はサイファー・テックという企業の業務として評価しにくかったのです。

 一方、地域活動を行うことで、私自身の地域に対する見方も変わっていきました。人口減少が急速に進む過疎地には課題が山積みですが、その課題を解決すれば、他の自治体にそのノウハウを販売できると考えるようになりました。特に、サテライトオフィス誘致の相談に乗るうちに、これはビジネスになると思い始めていました。