「合う制度がないからつくる・合う制度に変える」

──あわえは、これまで多数の自治体の事業に取り組まれてきましたが、組みやすさに違いを感じることがありますか?

 取り組む事業に対する内発的な理由を明確化している自治体は組みやすいと感じます。特に、市町村のような基礎自治体は住民にとって最も身近な存在です。もちろん財源の問題で制約が多いという実態は課題としてありますが、地域の人たちの一番近くにいるからこそ、県や国よりも強い内発的な理由を持つことができるはずです。

 また、これからの時代は「合う制度がないからやらない」ではなく、「合う制度がないからつくる・合う制度に変える」ぐらいの発想がちょうどよいと思います。制度をつくる・変えるには成功事例が必要になりますが、「うちが最初の成功事例になる」という気概でいっしょに取り組む自治体とは息が合います。よその成功事例を待っていてはビジネスがワンテンポ遅れてしまう時代なのです。

 幸いにも最近は、第1号事例にメディアが注目するようになり、宣伝効果も得られます。企業も、先行者利益を最大化するには一番手になる必要があり、二番煎じでは生き残れないという意識ですから、自治体側にも同じ意識が必要です。

「合う制度がないからつくる・合う制度に変える」姿勢が自治体には必要と語る吉田代表(写真提供:あわえ)
「合う制度がないからつくる・合う制度に変える」姿勢が自治体には必要と語る吉田代表(写真提供:あわえ)
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 逆に、そうした意識ができていれば、知恵は必ず出てきて、必要な資金も調達できるものです。企業版ふるさと納税など、自治体が独自財源を得る手段は多様化しています。地域通貨的に、お金を自治体が発行することさえ可能です。

 例えば、私たちのお客様になりますが、宮城県の富谷市とは3年間にわたり、ゼロのところから地域課題の解決に取り組んできました。市役所の建て直しで生まれた廃屋の利活用、並びに地域内の小規模産業衰退が課題で、それらを両方解決したいという相談から始まっています。

 そこで、初期にはサテライトオフィスへのスタートアップ誘致で、外部から新しい企業を呼び込みつつ、地域振興に取り組むための内発的な理由を明確化しました。

 注目したのは、仙台市のベッドタウンなので昼間は女性が在宅していることでした。それを地域の価値創造における戦力だと捉えて、その人たちの起業を支援したり、外部から呼び込んだスタートアップと相乗効果を出す仕掛けを企画したりしています。

 これまでの3年間は、地方創生交付金をうまく活用してきましたが、現在では独自財源を確保して、新しいステージに入っています。

──スタートアップ誘致から、その次の段階へと進んできているわけですね。

 あわえの主力事業はスタートアップ誘致だと捉えられることが多いのですが、最終的な目的は、地域の役割を持つ人、地域で「なりわい」を持つ人を増やすことです。そのためには地域の起業家を育成しますし、地域に起業家のなり手がいないときは外部からスタートアップを誘致します。誘致する際も、起業家と地域の人たちが掛け算をして、成果をより多面的に出すようにします。サテライトオフィスやワーケーションは手段として手掛けます。

 誘致する企業にスタートアップが多いのは、技術とベンチャーマインドが地域課題の解決にとって重要だと考えているためです。サテライトオフィス誘致の本質は、技術とベンチャーマインドを持つ人材の育成・誘致であり、住民票を移すことは必須ではありません。関係人口で十分な場合も多いでしょう。

──あわえは、サテライトオフィス誘致のほかに、サテライトオフィスのマッチングや「地域×Tech」といったイベント事業も展開しています。

 マッチングは、技術とベンチャーマインドを持つ人を地域に呼び込みたい自治体と、地域に事業機会を見つけたい人たちのお見合いのような場で、お金は自治体からいただいています。地域×Techはその逆で、持っているサービス・商品を売り込みたい、役に立ちたい企業と、地域課題や行政課題の解決のためにそれらを必要とする自治体を結び付けます。

 いずれもこれまでは、リアルイベントでしたが、コロナ禍でもあり、2020年度はほぼ100%オンラインイベントにしました。リアルはリアルの良さもあるので、2021年度からは状況を見ながらハイブリッドで進めていきます。

──都市と地域の学校の双方で教育を受けることができる「デュアルスクール」制度については、2016年に最初の例が生まれたそうですね。

課外授業の昆虫観察にて、美波町では当たり前のトンボに興味津々なデュアルスクールの生徒(写真提供:あわえ)
課外授業の昆虫観察にて、美波町では当たり前のトンボに興味津々なデュアルスクールの生徒(写真提供:あわえ)
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 きっかけは私も含めた2地域生活の人たちが美波町で増えたことです。しかし、2地域生活や関係人口として地域に関わることができる人は、独身者と男性がほとんどでした。2地域生活が、家族単位で実現できれば、ライフクオリティーが上がりますし、地域に滞在中の消費額も、地域との関わりも増えます。

 もちろん、お子さんの2地域生活には就学をどうするかという課題があり、教育制度と直結しているために民間だけで解決できません。そこで徳島県にデュアルスクールを提案したところ、知事も教育長も賛同していただき、制度化されました。

 あわえは徳島県が推進するデュアルスクールの実践実務を業務委託として行っています。デュアルスクールを希望するご家族に合わせた個別のオーダーメード的なところがありますので、カウンセリングから学校との交渉までを行います。

 コロナ禍でのデュアルスクールは難しい面もありましたが、ワーケーションに取り組む企業から従業員の子供の教育についても新しい形を検討したいという要望が出てきましたので、全国へのサービス提供に向けて4月から教育の別法人「一般社団法人ミライの学校」も立ち上げて進めています。

 二者択一を求める日本社会の典型例の一つがこの学校で、1人が1校に在籍するのが原則になっています。少子化で悩む学校のためだけではなく、子供の多様な学びのためにも、都市と地域の両方で学ぶことができる制度をつくるべきだと考えて取り組んでいます。

* デュアルスクール事業は、二地域居住・地方移住の促進を目的に徳島県が推進する事業。デュアルスクールはあわえの登録商標。「区域外就学願」の届出により、徳島と都市部の2つの市区町村教育委員会が協議し承認することで、住民票を異動させずに転校が可能となり、徳島と都市部の2つの学校が1つの学校のように教育活動を展開し、両校間を1年間に複数回、行き来できるようにする制度。

──あわえが考える「公民連携の姿」とは、どのようなものですか。

 あわえは、美波町や徳島県南部では、プレーヤーとして地方創生や地域振興に直接取り組んでいます。一方、他地域の自治体との事業では、地方創生や地域振興のプレーヤーを育てたり、プレーヤーを外部から呼び込んだりする立場です。

 どちらも重要だと思いますが、私たちは、地方創生や地域振興のプレーヤーが地域ごとに生まれる社会が健全だと考えます。公民連携についても、大手が全国をまとめるのではなく、地域ごとにプレーヤーがたくさんいる社会を目指すべきでしょう。

 さらに、公民連携をボランタリーベースではなく、社会の機能として持続・発展ができるようにしなければなりません。そのために必要な資金は、税金だけに頼るのではなく、ふるさと納税をはじめとする多様な手段から調達できるようにすれば、より広い領域で公民連携が実現できるようになると思います。

あわえ 吉田基晴 代表取締役(写真提供:あわえ)
あわえ 吉田基晴 代表取締役(写真提供:あわえ) 1971年徳島県海部郡美波町生まれ。神戸市外国語大学卒業。ジャストシステムほか、複数のITベンチャー勤務を経て、セキュリティソフトの開発販売を手掛けるサイファー・テックを東京都に設立。新たなワークスタイルの実現と採用力の強化を目的に2012年徳島県美波町にサテライトオフィス「美波Lab」を開設し、翌年には本社も移転。2013年6月にあわえを設立。現在はサイファー・テック、あわえ、四国の右下木の会社、3社の代表取締役、一般社団法人ミライの学校の理事・会長を務める。著書に『本社は田舎に限る』(講談社+α新書。映画「波乗りオフィスへようこそ」原案本)。https://miragaku.or.jp/?page_id=15