13万人の市民の健康管理に取り組む

――2005年度から、野口さんは尼崎市民約45万人のうちの国民健康保険の被保険者13万人に対する健康管理の取り組みを始められました。当時、尼崎市民の健康状態はどうでしたか。

(写真:水野浩志)
(写真:水野浩志)

 尼崎市の平均寿命は、兵庫県でも下から3番目に短く、65歳未満の死亡割合は県下トップでした。市職員に対する成果をもとに、市民の健康管理にも取り組んでほしいと言われ、2005年、国民健康保険課の健康支援推進担当係長に就任しました。

――健康管理の対象が市役所職員から一気に国保の被保険者13万人に広がったわけですが、最初はどのようなことから取り組まれたのですか。

 脳卒中や人工透析になった人たちが、なぜそうなったのかを知らないと、予防のターゲットがどこにあるのかわかりません。当時はまだ、1か月分の診療や調剤の報酬明細書である「レセプト」を見て分析したり、そこから健康施策を打つ前例はなかったのですが、私は、レセプトを見ないと市民の健康実態が評価できないと考えました。

 そこで、市民の健康実態の把握のため、1年間、国保の被保険者のレセプトを届けてもらい、データ分析しました。電子化前でしたので、毎月、13万枚の紙を読み込み、調べました。

――レセプトは、どんなポイントで分析したのですか。

 脳卒中や心筋梗塞での治療や施薬の費用がいくらなのかを調べて、何を何件抑えたらどれだけ医療費を適正化できるか、1年かけて整理しました。たとえば、人工透析患者は、2000年から年間100人ずつ増えていました。平均レセプトが550万円ですから、100人分であれば、年間5億5千万円の医療費増になります。透析患者の4割が肥満などの生活習慣病が原因の糖尿病に起因するので、保健指導による予防で医療費を減らせる可能性がありました。

 また、1年間で医療費が200万円以上のケースを拾い出すと、多くが血管系の病気と判明しました。こちらも保健指導で改善する余地がありました。

――野口さんは尼崎市役所職員の健康管理の時代から「病気の予防=医療費の削減」というデータを示すことで、健康管理の取り組みの予算化・事業化を進めて、それが2006年度からの「ヘルスアップ尼崎戦略事業」につながりました。2008年に始まった「特定健康診査・特定保健指導」も含めて、「ヘルスアップ尼崎戦略事業」は、どのような形で進めたのですか。

 同事業をスタートさせるとき、特定健康診査(特定健診)の受診率は19%しかありませんでした。これでは市民の命が救えないと思い、受診率を上げるために、まず「どこに国保の被保険者がいるか」を調べました。

 尼崎市内の規模の大きな商店街を一軒一軒訪ね歩いて調べてみると、一軒の店の中で、従業員は国保ですが、店主は全国健康保険協会の「協会けんぽ」、バイトやパートはお父さんの「組合健保」の被扶養者というふうに、国保は他の医療保険と一緒に存在していることが分かりました。そうなると、尼崎市民全体を健康にするためには、国保だけをターゲットに施策を打っても不十分です。市民の健康管理の取り組みは、私たち公的機関だけでなく、街の資源としての“企業”と一緒にやっていくべきだと気付きました。

 そのときからシフトチェンジして、2007年に「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」の募集を始めました。