健康施策には行政と民間の強みのマッチングが不可欠

――尼崎の「未来いまカラダポイント」のような公民連携の取り組みは、ほかの自治体でも実現可能でしょうか。

 ほかの自治体から「ポイント事業について教えてほしい」とか「ソーシャルキャピタルが流行っているのでつくりたいんですけど」という相談がきたときは「ポイント事業やソーシャルキャピタルを目的化すると失敗しますよ」と助言します。

(写真:水野浩志)
(写真:水野浩志)

 「未来いまカラダポイント」は“目的”ではなく“手段”です。最終的な目的がどこにあるのかがぶれると、どの事業も有機的につながらないし、大きな成果は求められません。しかし、みなさん、どうしても「ソーシャルキャピタルをつくる」とか「企業と連携する」ということを目的にしてしまう。「なんのためにどの企業とどんな事業がしたいのか」というところが弱まると、市民の心に届く発信もできないし、企業を巻き込むことも難しい。事業だけを目的化するから失敗するんです。

 役所の人間は、公平性や真面目さの裏返しかもしれませんが、決められたことを決められたとおり、言われたことを忠実にやることにはすごくたけているけれど、一番最初に市の職員の健康管理をやったときのように、序列をつけて、最も効果的なところにまず着手するのが苦手です。PDCがすごく弱い。企業はターゲットにする消費者をしぼりこんで、何を投入するか、ものすごく考えている。ビジネスの世界では当たり前でも、役所は考えていない。

 自治体も「何のために、何を解決したくてやるのか」を明確にして実態分析すれば、自分の町や村の解決しなければならない健康課題は何で、そのためにはどの企業とつながるべきか、わかると思います。

――他の自治体が市民や町民の健康管理で公民連携を望んだ場合も、尼崎市のように協力的な企業が現れるでしょうか。

 絶対にいるはずです。手をつなぐ相手を探そうとしないから、見つからないだけです。自治体がどれだけ積極的に企業にアクセスできるかがカギだと思います。

――これからの市民の健康管理の取り組みにおいて、公民連携にはどのような意義があると考えていますか。

 行政の強みと民間の強みは違うので、両方ともマッチングしないと結果にたどりつけない。行政は、公平性においては絶えずアンテナを伸ばしていますが、時代の流れ、消費者ニーズの観点が弱い。業種によってもとらえているニーズはちがうと思うのですが、そういった消費者ニーズをいかに行政施策に戻していくかというところが、これからの新しい施策展開のうえでは絶対に必要だと思っています。

――ところで、野口さんはなぜ「企画財政局」に所属しているのでしょうか。

 先ほどもお話しましたが、2008年度からの7年間で、周辺自治体と比べると尼崎市の医療費の伸びだけが1人当たり約1万円抑えられています。これを尼崎市の13万人の国民保険の被保険者に当てはめて考えると、全体で約13億円くらい適正化されるということになります。そう考えると、この取り組みが行政改革の1つのメニューと考えられるわけです。

 私はこれまでずっと、衛生部門だけではなく、市のまちづくりの方針やプランに対して、取り組んでいるサービスや事業がどんな効果を生むかを考えながら動いてきました。その場合、企画財政局に影響が及ばないと、人もお金もつかない。ですので、常日頃から企画財政局にも働きかけてきたこともあって、ようやく、そこの肩書きをいただけたわけです。

 去年から、大阪大学大学院医学系研究科で研究も始めていますので、その研究成果をまた企画財政局に戻す予定です。

野口緑(のぐち・みどり)
兵庫県尼崎市企画財政局部長
1986年、保健師として尼崎市役所に入庁。保健所、保健企画課、総務局職員部職員厚生課(職員健康推進担当)、市民局(現 環境市民局)国保年金課健康支援推進担当(現 市民サービス室健康支援推進担当)などを経て、現職。2018年4月より大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学招聘准教授も務める。著書に「予防の観点で考える認知症・サルコペニア―生活習慣改善に基づく指導とケア」(共著、2017年、メディカルトリビューン)、「メタボリックシンドローム実践ハンドブック(改訂版)」(共著、2008年、メディカルトリビューン)など。