兵庫県尼崎市では、民間企業を巻き込み、特定健診を受診したり、健康向上に役立つ商品やサービスを購入・利用するとポイントがたまる「未来いまカラダポイント事業」を展開中だ。この事業の源流をたどると、「スーパー保健師」と呼ばれる市職員の野口緑氏が、2000年から独自の健康管理と保健指導を実施したことにたどり着く。尼崎市役所職員の健康向上に大きく貢献した野口氏は、2005年から尼崎市民全体の健康管理に携わり、目覚ましい実績を上げている。そんな野口氏に、これまでの取り組みと「地域住民の健康向上における公民連携の重要性」について話を聞いた。

野口緑氏(写真:水野浩志)
野口緑氏(写真:水野浩志)

――野口さんは保健師として、2000年、兵庫県尼崎市の市役所職員の健康管理を始めました。ここで大きな成果を上げましたね。

 私が関わる前の1999年度には9人だった休職者数が、2004年度には3人に減りました。また1999年度に約1657万円かかっていた傷病手当金(長期療養者の休業にかかる補償費)も2001年度の約881万円へと削減されました。

 保健師の勉強会で「マルチプルリスクファクター症候群」を知ったのがきっかけです。この症候群は、内臓脂肪型肥満と高血圧、高脂血症、糖尿病などが合併すると動脈硬化が進み、脳卒中や心筋梗塞につながるというものです。「リスクが多く重なるほど倒れる確率が高い」とありましたので、市の職員のリスクを調べてみました。

 以前は職員の単年の健診データで保健指導していたのを、データのあるものは個別に過去からつないで、高血糖、高血圧、高脂血症などリスクの重複が多い人からざっと並べ直したら、上から1人目は脳卒中、3人目は心筋梗塞を起こしており、その職員は少し前に亡くなっていた。衝撃を受けました(図1)。

図1●尼崎職員の健康リスク要因を個別に時系列で並べた例
図1●尼崎職員の健康リスク要因を個別に時系列で並べた例
(資料提供:野口緑)
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 人事部に「職員の脳卒中や心筋梗塞を防ぐ環境をつくるべきだ」と話して、市職員の健診・保健指導の改善に取り組みました。介入の優先順位をマルチプルリスクファクターで決め、集中的に保健指導するようになったら、職員が死ななくなりました。心疾患による死亡者数は、1996年度から1999年度の4年間に5名だったのが、2001年度から2004年度は0です(図2)。

図2●尼崎市役所では新たな保健指導で死亡者が減少
図2●尼崎市役所では新たな保健指導で死亡者が減少
(資料提供:野口緑)

――内臓脂肪型肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などのリスクは生活習慣と深く関わるため、予防で救える。そのことに着目した野口さんは、どんな保健指導を行ったのでしょうか。

 昔からあるような「ダイエットしましょう」とか「飲み過ぎは健康に悪い」という言い方はしません。「大きなお世話や」「あんたに言われたくない」と言われますから(笑)。その代わり、ビールを飲む人には、ジョッキ1杯に3gのスティックシュガー5本分の糖分が含まれていることなど、具体的なデータを伝えます。

 血圧に関する指導でも、単に「塩分を控えてください」「ストレスを減らしてください」と言うだけでは済ませません。睡眠不足や自律神経興奮型の高血圧もあれば、内臓脂肪の肥大でサイトカインが出て血圧が上がるタイプもいる。原因は人によってちがいますから。

――相手によって、健康指導の説明自体を変えていくのですね。

 「あなたの場合、血圧が高い原因はこれだと思う」と健診データから読み解きます。データをみると、お腹まわりが大きく、脂肪肝も進んでいる。脂肪が過剰に肝臓に蓄えられるのは、糖の摂取が多いから。過剰な糖が尿に溢れ出すと再吸収され、同時にナトリウムも吸収されるので血圧が上がる、と丁寧に話します。

 血圧が上がったら、どこに悪いのかも、具体的に説明します。脳の中のある部分の血管は、直径2ミリから0.2ミリに枝分かれして直角に曲がる。勢いが強いと血液が曲がれないので、角のところが傷んでくる。「0.2ミリを手でやってみて」と言うと「これが俺の血管か。そこを傷ませないために、血圧140を超えたらダメだな」と納得できる。そういう指導です。

 それで、本人が「あかん」と思ったら「ほな、血圧高いの、どうしたらええの?」と向こうから聞いてくれます。

13万人の市民の健康管理に取り組む

――2005年度から、野口さんは尼崎市民約45万人のうちの国民健康保険の被保険者13万人に対する健康管理の取り組みを始められました。当時、尼崎市民の健康状態はどうでしたか。

(写真:水野浩志)
(写真:水野浩志)

 尼崎市の平均寿命は、兵庫県でも下から3番目に短く、65歳未満の死亡割合は県下トップでした。市職員に対する成果をもとに、市民の健康管理にも取り組んでほしいと言われ、2005年、国民健康保険課の健康支援推進担当係長に就任しました。

――健康管理の対象が市役所職員から一気に国保の被保険者13万人に広がったわけですが、最初はどのようなことから取り組まれたのですか。

 脳卒中や人工透析になった人たちが、なぜそうなったのかを知らないと、予防のターゲットがどこにあるのかわかりません。当時はまだ、1か月分の診療や調剤の報酬明細書である「レセプト」を見て分析したり、そこから健康施策を打つ前例はなかったのですが、私は、レセプトを見ないと市民の健康実態が評価できないと考えました。

 そこで、市民の健康実態の把握のため、1年間、国保の被保険者のレセプトを届けてもらい、データ分析しました。電子化前でしたので、毎月、13万枚の紙を読み込み、調べました。

――レセプトは、どんなポイントで分析したのですか。

 脳卒中や心筋梗塞での治療や施薬の費用がいくらなのかを調べて、何を何件抑えたらどれだけ医療費を適正化できるか、1年かけて整理しました。たとえば、人工透析患者は、2000年から年間100人ずつ増えていました。平均レセプトが550万円ですから、100人分であれば、年間5億5千万円の医療費増になります。透析患者の4割が肥満などの生活習慣病が原因の糖尿病に起因するので、保健指導による予防で医療費を減らせる可能性がありました。

 また、1年間で医療費が200万円以上のケースを拾い出すと、多くが血管系の病気と判明しました。こちらも保健指導で改善する余地がありました。

――野口さんは尼崎市役所職員の健康管理の時代から「病気の予防=医療費の削減」というデータを示すことで、健康管理の取り組みの予算化・事業化を進めて、それが2006年度からの「ヘルスアップ尼崎戦略事業」につながりました。2008年に始まった「特定健康診査・特定保健指導」も含めて、「ヘルスアップ尼崎戦略事業」は、どのような形で進めたのですか。

 同事業をスタートさせるとき、特定健康診査(特定健診)の受診率は19%しかありませんでした。これでは市民の命が救えないと思い、受診率を上げるために、まず「どこに国保の被保険者がいるか」を調べました。

 尼崎市内の規模の大きな商店街を一軒一軒訪ね歩いて調べてみると、一軒の店の中で、従業員は国保ですが、店主は全国健康保険協会の「協会けんぽ」、バイトやパートはお父さんの「組合健保」の被扶養者というふうに、国保は他の医療保険と一緒に存在していることが分かりました。そうなると、尼崎市民全体を健康にするためには、国保だけをターゲットに施策を打っても不十分です。市民の健康管理の取り組みは、私たち公的機関だけでなく、街の資源としての“企業”と一緒にやっていくべきだと気付きました。

 そのときからシフトチェンジして、2007年に「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」の募集を始めました。

健診率を向上させるための公民連携

――「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」では、どのような公民連携に取り組んだのですか。

 「まずはお弁当だ」と思いました。保健指導で「あなたのお昼のご飯の量は120グラムが適量です」と言っても「昼はいつも『ほっかほっか亭』だ」と言われたら、どうしようもなかった。そこで『ほっかほっか亭』を展開している会社に電話をかけて、当時の取締役に会っていただき、「こういうことをしたら、病気が予防できます」と説明したところ「やりましょう」となり、尼崎市内限定のヘルシー弁当をつくってもらえました。

 ご飯には玄米を使い、唐揚げを1個減らす代わりにプチトマトを入れる。市は市報や特定健診を受けたひと全員に結果説明会の会場でPRしたり、メディアに情報提供したりしました。

――ほかには、どのような例がありますか。

 尼崎市民には納豆を食べる風習がないので、大豆たんぱくを摂ってもらうため、大塚製薬の「ソイジョイ」を特定健診時の試供品として提供してもらったり、お米に混ぜたらカロリーの総量が下がる大塚食品の「マンナンヒカリ(※こんにゃく製粉等を原料にした米粒状加工食品)」の試食を特定健診会場で出してもらいました。フィットネスクラブの「ルネッサンス」や「グンゼスポーツクラブ」には、割引券を出してもらいました。

――「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」の取り組みは、その後、どう発展しましたか。

 結局、20社くらいまで増えたでしょうか。いろいろな店に行き、頭を下げてはつないで、最大限にPRしたけれど……結局、企業のサポートが続かないんですよ。

 売り上げに直接つながらなければ、企業からのサポートは続かないことを学習しました。このやり方ではダメだと気付き、市民の生活習慣病を予防して、健康寿命を延ばす戦略として、2015年にリニューアルしたのが「未来いまカラダポイント事業」です。

企業からのサポートを協賛金にリニューアル

――リニューアルされた「未来いまカラダポイント事業」は、それまでの「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」と、取り組み方はどう変わったのでしょうか。

 企業から協賛金をいただくことにしました。「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」の取り組みを通じて、企業からお金をもらわないと、そのお金を取り戻そうとしてがんばってくれないことを学んだからです。

 その額に見合ったポイントを企業にお渡しして、自社の推奨する商品にそのポイントをつけてもらうヘルスアップ戦略事業「未来いまカラダポイント」制度をスタートさせました(図3・図4)。

 「尼崎市いまカラダポイント」では、4月1日から翌年3月31日までの1年間で1000ポイントを貯めた市民が、1000円分相当の商品やサービスなどと交換できる仕組みになっています。

 まず、特定健診受診で300ポイント、特定保健指導を受けて300ポイントが与えられ、特定健診に友達を紹介するとさらに100ポイント、この3つだけで合計700ポイントが与えられます。これによって、特定健診の受診率を上げる効果が見込まれます。

 残りの300ポイントは、協賛企業のポイントのついた健康向上に役立つ商品やサービスを市民が購買・利用することで貯められます。

図3●未来いまカラダポイント事業のイメージ
図3●未来いまカラダポイント事業のイメージ
(資料提供:野口緑)
図4●「未来いまカラダポイント」のポイントブック
図4●「未来いまカラダポイント」のポイントブック
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図4●「未来いまカラダポイント」のポイントブック
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<div style="clear:both;"> </div>「ポイントブック」は健康診断を受けたり、健康を意識した買い物などでポイントがたまる仕組みで、一定以上たまると商品券などに交換できる(資料:尼崎市)
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<div style="clear:both;"> </div>「ポイントブック」は健康診断を受けたり、健康を意識した買い物などでポイントがたまる仕組みで、一定以上たまると商品券などに交換できる(資料:尼崎市)
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「ポイントブック」は健康診断を受けたり、健康を意識した買い物などでポイントがたまる仕組みで、一定以上たまると商品券などに交換できる(資料:尼崎市)

――協賛企業のポイントの仕組みは、どうなっているのですか。

 協賛金5000円以上で、市から企業に1万ポイントを渡します。企業は、自分たちの推奨する商品やサービスにポイントを付けます。魅力的な商品でポイントを発行しないと利用者はリピートしてくれないし、1000円たまったときに「あのお店のメニューと換えたい」「あの商品と換えたい」と思ってもらえないので、企業が積極的に努力してくれると考えました。

 どのような商品やサービスに何ポイント付けるかは、企業にお任せします。高いポイントを付けると、市民もそれを目当てにやって来るので、店や商品・サービスを知ってもらえる。持っているポイントがこうして早くさばけると、企業からは「追加で1万ポイントください」という話が市に来るので、さらに協賛金が入ります。実際、年間で何度も追加があります。

――ポイントがもらえる商品のセレクトには、何か、条件をつけているのでしょうか。

 「健康にいいもの」が条件ですので、どんな商品やサービスをポイントの対象にするかは、相談します。たとえば、マクドナルドにはヘルシーメニューがなかったので、注文をつけました。塩分量も考えながら、野菜の量は100グラムを超えるように、ベーコンレタスバーガーに、サイドサラダ、コーン、ドリンクの『野菜生活』をつけて、尼崎限定の「未来いまカラダ野菜セット」を考案してもらいました。

――1000ポイント貯めた市民は、どのような商品と交換できるのですか。

 ローソンで使えるQuoカードや、阪急阪神おでかけカード、イオンギフトカードの1000円分や、マックカード500円分を2枚、つきたて米「新潟コシヒカリ」2キロ、スポーツクラブ1ヶ月無料利用など、いろんな商品と交換できます。市民がどの商品をほしいかも、企業努力になります。

 ポイントと交換された1000円相当分の商品やサービスについては、企業の持ち出しではなくて、市に請求してもらいます。「未来いまカラダポイント」制度は、市から負担金として年間260から270万円程度、あとは協賛金で、全部で年間およそ500万円の予算で行われています。

――1000ポイント貯まらないと、交換できないのですか。

 はい。その結果、交換されないポイントが発生するので、企業に5000円で1万ポイントをお渡ししても、市としても赤字にならない仕組みになっているわけです。

――公民連携を「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」から「未来いまカラダポイント」にリニューアルして、効果はありましたか。

 前よりいいですね。企業の主体性が全然ちがう。ほとんどの協賛が続いていて、新しくどんどん参加しています。コラボがどんどん進んで、街の小さな飲食店から大手企業まで、小売りを通じてポイントを出してくれたり、味の素など、ある程度の金額の協賛金を出してくれる企業も増えています。

――いろいろな地域や自治体が健康のポイント事業に取り組んでいますが、尼崎市の「未来いまカラダポイント」がほかの事業とちがう点は何でしょうか。

 一番の違いは、企業と一緒に取り組んでいるというところです。ほかの自治体は、第三セクターとか、市の施設の利用でポイントを貯めることが多い。だけど、市民にとって、本当の意味での環境を考えると、やっぱり普通の企業が対象になると思います。企業で販売する商品とか、企業で買えるもの、サービス、そういうものを対象にしないと、おもしろくない。

――「未来いまカラダポイント」は、どんな成果をあげているのでしょうか。

 「ポイントブック」は年5万部を発行し、特定健診会場や、ローソンなど協賛企業で配布しています。利用者の数はとらえにくいのが次の課題ですが、特定健診の受信者には必ずポイントブックとポイント1回分を渡していますので、それだけでも2万人になります。協賛企業の店頭でこのポイント事業を知って「特定健診が一番ポイント高いんや。受けよ」となってくれることを狙っていますが、そういう人たちもいれたら、おそらく2万5000人ほどが、この事業に参加していると思います。

 1000ポイントまで貯める人はスタート時で700人くらいでしたが、年々増え、平成29年度のポイント交換の申請者は1700人を超えました。

――2006年度に「ヘルスアップ尼崎戦略事業」がスタートし、2007年に「頑張る尼崎市民を応援するサポーター企業」を募集し、現在は「未来いまカラダポイント」で公民連携を拡充させているわけですが、その効果は、尼崎市民の健康実態にも現れているのでしょうか。

 特定健診が始まる前、2003年から2007年までの5年間の心筋梗塞の標準化死亡比は、兵庫県や阪神間7市と比べて、尼崎市は非常に高かった。しかし、2008年からの5年間では、ほかの2つよりも低くなっています(図4)。

図4●心筋梗塞標準化死亡比(男性・女性)の比較
図4●心筋梗塞標準化死亡比(男性・女性)の比較
(資料提供:野口緑)

 このことによって、心筋梗塞予備軍の健康状態も回復しているので、1人当たりの医療費の伸びも、2008年度から、尼崎市だけが鈍化しました。結果、7年後の2015年度までの1人当たりの医療費の伸びは、兵庫県や阪神間7市に比べて、約1万円も抑えられています。

健康施策には行政と民間の強みのマッチングが不可欠

――尼崎の「未来いまカラダポイント」のような公民連携の取り組みは、ほかの自治体でも実現可能でしょうか。

 ほかの自治体から「ポイント事業について教えてほしい」とか「ソーシャルキャピタルが流行っているのでつくりたいんですけど」という相談がきたときは「ポイント事業やソーシャルキャピタルを目的化すると失敗しますよ」と助言します。

(写真:水野浩志)
(写真:水野浩志)

 「未来いまカラダポイント」は“目的”ではなく“手段”です。最終的な目的がどこにあるのかがぶれると、どの事業も有機的につながらないし、大きな成果は求められません。しかし、みなさん、どうしても「ソーシャルキャピタルをつくる」とか「企業と連携する」ということを目的にしてしまう。「なんのためにどの企業とどんな事業がしたいのか」というところが弱まると、市民の心に届く発信もできないし、企業を巻き込むことも難しい。事業だけを目的化するから失敗するんです。

 役所の人間は、公平性や真面目さの裏返しかもしれませんが、決められたことを決められたとおり、言われたことを忠実にやることにはすごくたけているけれど、一番最初に市の職員の健康管理をやったときのように、序列をつけて、最も効果的なところにまず着手するのが苦手です。PDCがすごく弱い。企業はターゲットにする消費者をしぼりこんで、何を投入するか、ものすごく考えている。ビジネスの世界では当たり前でも、役所は考えていない。

 自治体も「何のために、何を解決したくてやるのか」を明確にして実態分析すれば、自分の町や村の解決しなければならない健康課題は何で、そのためにはどの企業とつながるべきか、わかると思います。

――他の自治体が市民や町民の健康管理で公民連携を望んだ場合も、尼崎市のように協力的な企業が現れるでしょうか。

 絶対にいるはずです。手をつなぐ相手を探そうとしないから、見つからないだけです。自治体がどれだけ積極的に企業にアクセスできるかがカギだと思います。

――これからの市民の健康管理の取り組みにおいて、公民連携にはどのような意義があると考えていますか。

 行政の強みと民間の強みは違うので、両方ともマッチングしないと結果にたどりつけない。行政は、公平性においては絶えずアンテナを伸ばしていますが、時代の流れ、消費者ニーズの観点が弱い。業種によってもとらえているニーズはちがうと思うのですが、そういった消費者ニーズをいかに行政施策に戻していくかというところが、これからの新しい施策展開のうえでは絶対に必要だと思っています。

――ところで、野口さんはなぜ「企画財政局」に所属しているのでしょうか。

 先ほどもお話しましたが、2008年度からの7年間で、周辺自治体と比べると尼崎市の医療費の伸びだけが1人当たり約1万円抑えられています。これを尼崎市の13万人の国民保険の被保険者に当てはめて考えると、全体で約13億円くらい適正化されるということになります。そう考えると、この取り組みが行政改革の1つのメニューと考えられるわけです。

 私はこれまでずっと、衛生部門だけではなく、市のまちづくりの方針やプランに対して、取り組んでいるサービスや事業がどんな効果を生むかを考えながら動いてきました。その場合、企画財政局に影響が及ばないと、人もお金もつかない。ですので、常日頃から企画財政局にも働きかけてきたこともあって、ようやく、そこの肩書きをいただけたわけです。

 去年から、大阪大学大学院医学系研究科で研究も始めていますので、その研究成果をまた企画財政局に戻す予定です。

野口緑(のぐち・みどり)
兵庫県尼崎市企画財政局部長
1986年、保健師として尼崎市役所に入庁。保健所、保健企画課、総務局職員部職員厚生課(職員健康推進担当)、市民局(現 環境市民局)国保年金課健康支援推進担当(現 市民サービス室健康支援推進担当)などを経て、現職。2018年4月より大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学招聘准教授も務める。著書に「予防の観点で考える認知症・サルコペニア―生活習慣改善に基づく指導とケア」(共著、2017年、メディカルトリビューン)、「メタボリックシンドローム実践ハンドブック(改訂版)」(共著、2008年、メディカルトリビューン)など。

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