スポーツは定住・移住・交流人口増に貢献できる

(写真=清水真帆呂)
(写真=清水真帆呂)
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――地方の過疎化などを解消するためには、何が重要になるのでしょうか。

 まず人口減少問題を考える場合、考慮すべき人口には3種類あります。最初に「定住人口」、次に「移住人口」、そしてその地域を訪れる「交流人口」です。

 定住人口を増やすための1つの方策としては出生率の向上がありますが、出生率に対してスポーツが与える影響については、今のところ明らかになっていません。しかし、移住人口に関しては、少しずつ事例が出てきています。例えば、新潟市に拠点を持つNSGグループという学校法人グループは、プロサッカーJリーグのアルビレックス新潟や、プロバスケットボールチームのアルビレックス新潟BBのスポンサーになるなど、スポーツ関連の取り組みを広く展開しています。それにより、スポーツ選手やその家族、コーチ、スタッフなどが新潟に移住するのを後押ししており、移住人口、ひいては定住人口の増加に大きく貢献しています。スポーツを中心とする地域の産業化も進みつつあり、新たな雇用も生まれています。

 一方、交流人口に関しては、広島市などが好事例です。新広島球場「Mazda Zoom-Zoomスタジアム」には、日本全国から多くの広島東洋カープのファンが訪れ、地域との交流が盛んに行われています。最近では、内閣府の「日本再興戦略2016」の中でも「世界の多くの人々を地域に呼び込む社会」の重要施策として「スポーツツーリズム」が着目されていますが、その国内における典型例となっているのです。

 こうした流れの中で、ゴールデン・スポーツイヤーズは定住人口、移住人口、交流人口のいずれを増やすことに対しても有用だと考えています。そして、そのための着眼点として、私は開催地域だけでなく「キャンプ地」がポイントになると考えています。

――キャンプ地ですか。

 2019~2021年にかけては世界中から、スポーツ選手に加え、その家族や応援団、観戦者、観光客がやってきます。そのとき、地方自治体が検討すべきは、キャンプ地の誘致です。

 例えば、ロンドンオリンピックの場合、キャンプ地は英国内だけでなく、欧州各国に分散していました。しかし、東京オリンピックでは、中国や韓国など一部の国と地域を除き、各国は地理的に日本国内にキャンプ地を構えるしかありません。

 従って、日本の各地方自治体には各国のキャンプ地を誘致するより大きなチャンスがある。それによって、自らが日本のショーケースとなり、日本そして自分たちの地域の魅力を存分に伝え、ファンになってもらうわけです。そうすれば、まず交流人口が増えますし、それを機に観光地化できれば、地域が活性化し、移住人口、定住人口の向上にもつながります。

 加えて、国際交流は単に地方の活性化につながるだけでなく、地域の子どもたちの教育にも良い影響を与えます。グローバル社会に対して視野を広げると同時に、ダイバーシティ(多様性)への理解を促進するからです。

地方自治体が海外の国と直接取引する時代

――このときに、地方自治体が留意すべき点はありますか?

 ゴールデン・スポーツイヤーズを通して、いかにしてレガシー(遺産)を残すかという発想を持つことが重要です。

 最近では、国や外務省などを介さずに、地方自治体が海外の国と直接取引する時代になってきています。ゴールデン・スポーツイヤーズは、そのための絶好のチャンスともいえるのです。

 例えば、東京オリンピック・パラリンピックに向けたキャンプ地誘致の事例としては、千葉県山武市のスリランカとの交流の取り組みなどがあります。

 山武市は九十九里浜にある人口約3万人の市ですが、そもそもここにはスリランカの教育ボランティアをしていた学校の校長先生がおり、その先生がスリランカの高僧と親しかったことから、市と高僧の国際交流が始まったそうです。そのご縁で山武市はスリランカ政府に、東京オリンピック・パラリンピックに向けた事前キャンプ地誘致の直接交渉を行ったのだそうです。

 スリランカ政府は「高僧と親しい市であればぜひ」とのことでトントン拍子に話が進み、キャンプ地誘致に関するMOU(基本合意書)を結ぶに至ったとのことです。

 ほかにも、青森県今別町がモンゴルのフェンシング協会と事前合宿のMOUを結んだ例などがあります。今別町は本州最北端にある人口約2800人の小さな町ですが、地元の今別高校は青森県の中で最もフェンシングが強い高校で、日本一に輝いたこともあるのです。

 そこで、モンゴルフェンシング協会が日本フェンシング協会に対して支援の依頼に訪れた際に、今別市が「うちに支援させて下さい」と手を上げ、それを機にモンゴルフェンシング協会と今別町がMOUを結ぶに至ったというわけです。現在、今別町にはモンゴルから多くのフェンシング選手が合宿に来ています。

 このように、やはりレガシーを作っていくためには、地方自治体は“ちょっとしたご縁”を大切にして、積極的に国際交流や直接外交を進めていく必要があるでしょう。最大のレガシーは“人”ですので、教育などを含め広い視野で交流を進めていただきたいと思います。

――観光地化にまでつなげるには、世界への情報発信も重要だと思いますが、どうすれば発信力が高まるでしょうか。

 日本や地域の魅力を広く世界に発信する上では、各国の一流のジャーナリストを招待することが効果的でしょう。選手団やその関係者にも発信力はあるにしても、やはり強い発信力を持つジャーナリストに日本や各地域の魅力を味わってもらうことで、発信力は飛躍的に高まる。そうすればゴールデン・スポーツイヤーズが終わったあとも、多くの観光客を呼び寄せることができるようになると思います。