高齢者を突き動かす“良質な脅し”で行動変容

 フレイルチェックは市民センターや公民館を舞台に半年単位で実施している。この調査を通じて兆候に気づき、参加者に自分事としてもらうことが目的だ。チェック項目は大規模な高齢者コホート研究の柏スタディ(千葉県柏市)から得た知見をもとにした。飯島氏いわく「ワイワイ楽しいだけのイベントではなく、オールジャパンの学術研究」だという。

 「フレイルチェックを指導するのが、私が主導して全国で養成したボランティアのフレイルサポーター。引退したシニアが中心となり、高齢者が高齢者をサポートする仕組みだ。いま、全国で73自治体が導入していて、その数はどんどん増えている。フレイルサポーターは統一のTシャツを着て、熱心にフレイルチェックに指導にあたる。世代が近いだけに、参加者の結果が悪くても共感したり、励まし合ったりしながら進めている。

東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢氏。後ろに見える黄緑色のTシャツが、フレイルサポーターの着るユニフォームだ(写真:花井 智子、以下同)
東京大学高齢社会総合研究機構機構長・未来ビジョン研究センター教授の飯島勝矢氏。後ろに見える黄緑色のTシャツが、フレイルサポーターの着るユニフォームだ(写真:花井 智子、以下同)
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 少なくとも3割は男性を募集するのも特徴だ。一般的な市民ボランティアがほぼ女性であることを考えると、これは非常に珍しい。役割を与えられた男性サポーターは企業戦士に戻った気持ちで生き生きと取り組んでいる」(飯島氏)

 地域で催される介護予防の栄養指導教室や運動教室は、そもそも健康志向の高い住民が集まる傾向がある。しかしフレイルは誰にでも訪れる現象であり、より参加の裾野を広げなくてはならない。そこで飯島氏は、“良質な脅し”と呼ぶ手法でフレイルの危機感を伝えることにした。

 「良質な脅しとは、エビデンスに基づいた注意喚起のこと。『おばあちゃん、歩かなくなると歩けなくなりますよ』『おじいちゃん、肉や魚を食べないと筋肉がつかないから食べましょうね』と指導したところで、そんなことは本人たちも重々承知している。ひたすら頑張れと声がけするのは、実はもう限界だと思う。

 だから私は『2週間寝たきりのような生活をすると、活発に生活している人が7年間で失う筋肉と同じ量を失うんですよ』『体重が50キロだったら、200グラムのステーキを食べても必要なたんぱく質の摂取量に届きませんよ。バランス良く食品を摂りましょうね』と、理論立てて説明する。そこまで噛み砕いてエビデンスベースで伝えると、自分も気をつけなくてはと思うようになる」(飯島氏)