「無印良品」の企画開発・製造から流通・販売までを手掛ける製造小売業、良品計画。2018年2月に、「ソーシャルグッド事業部」を立ち上げ、社会課題の解決に取り組んでいる。生明弘好事業部長に、事業部の目指すところや、住民や行政との連携について考えを聞いた。

良品計画執行役員 ソーシャルグッド事業部長の生明弘好氏(写真:北山宏一)
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――ソーシャルグッド事業部の立ち上げに至る経緯を教えてください。

 「ソーシャルグッド」の名称は、我々の理念である「暮らしている方の役に立つ、良いことをする」というところから来ています。

 2014年に事業開発担当ができて、千葉県鴨川市の棚田再生支援や南房総市の白浜で廃校の活用、あるいはMUJI HOTEL(ムジホテル)などのプロジェクトを推進してきました。その延長で、18年2月にソーシャルグッド事業部ができたのです。この事業部は「ローカルグッド」担当と「スペースグッド」担当に分かれています。

地域の経済循環を生み出すことに加わっていく

――「ローカル」に注目した理由は?

 我々は「地方=ローカル」という認識ではなく、住んでいる人にとっての「自分たちのまち」をローカルと捉えています。

 全国で展開している小売業の多くは、他地域から仕入れた商品を販売して収益を上げています。店舗を出せば雇用は増えるけれども、その地域の経済循環にはほとんど関わっていません。

 一方で、少子化、高齢化が進み、国内マーケットはどんどんシュリンクしていくという状況があります。地域の経済循環を生み出すことに少しでも一緒に加わっていかないと、我々の事業を持続させていくことはできなくなってしまいます。そこで、いかにローカルと関わっていくかを考えたわけです。

 まだ始めたばかりですが、鴨川市から指定管理を受託している複合施設「里のMUJI みんなみの里」では、地域の生産者から直接、野菜を仕入れて委託販売したり、Café & Meal MUJI(カフェアンドミールムジ)のメニューに取り入れたりしています。また施設内に、地域農産物の6次化加工を手掛ける「開発工房」もオープンさせました。ここでは、企画の段階から地元の人たちと一緒に商品開発を進めています。

鴨川市が設置する総合交流ターミナル「里のMUJI みんなみの里」(2018年4月にオープン)。良品計画が指定管理者として運営。地域の農産物や物産の販売、「無印良品」店舗および飲食業態「Café&Meal MUJI」などがある(写真:良品計画)
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 無印良品の各店舗でも同様に、地域の生産者から野菜を仕入れてマルシェを開催したり、地元の工芸家を招いてワークショップをしたりといった取り組みを進め、地域との関わりを少しずつ深めているところです。今後はさらに、それぞれの店舗が地場産業とつながり、自社製品だけでなく地域の商品も販売していこうと考えています。そうしたなかで、ある地方の店舗で好評な商品を、例えば銀座など都市の店舗で販売することもありえます。

 また、農産品について最近始めたのが、埼玉県鳩山町にある物流センター(良品計画鳩山センター)で、周辺の農家から生産物を持ち込んでいただき、当社製品と一緒にトラックで運んで店舗で販売する取り組みです。これによって、フードマイレージを減らすとともに、流通コストを圧縮できる。軌道に乗れば、他のセンターにも展開していくつもりです。さらに、「諸国良品」というインターネット通販のプラットフォームを運営し、地域の生産者の方が産地直送で全国に商品を販売できる仕組みも整えました。

 このように、地域を盛り立てていきながら、我々の事業を持続可能な形に進めていきたいと思っています。

「われ椎茸」が原点――活用が難しいとされているものに新たな価値を

――前身の事業開発担当の時代から、そうした考えだったのでしょうか。

 もっと以前、1980年に無印良品が誕生した当初から、我々は(地域の)人々の暮らしに寄り添っていくことを掲げたブランドでしたので、もともとビルトインされた考え方だったと言えます。ただ、今のように地域が疲弊すると、我々の事業も厳しくなってくる。そんななかで、もっと踏み込んで地域と関わっていこうという方針に転換したのは、事業開発担当ができてからですね。

鴨川市で保全に関わっている棚田でつくられた飯用米から日本酒をつくった(写真:良品計画)
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――様々な企業が地域と連携した取り組みを進めているなかで、“良品計画らしさ”はどのあたりにありますか。

 無印良品の商品づくりの考え方の一つに、「一般的には活用が難しいとされているものに価値を見出し、世の中に提供していく」ということがあります。例えばかつて、「こうしん われ椎茸」という商品をつくりました。割れて通常の商品の流通には乗らない干し椎茸を商品化し、販売したものです。

 現在、鴨川市で手掛けている日本酒づくりも、この考え方の延長上にあります。鴨川市では、都市住民と協力して棚田の保全を図る「棚田トラスト」に関わっており、この棚田や周辺の水田で作っているコシヒカリを使って、日本酒の委託醸造を始めたのです。コシヒカリは飯米なので酒づくりにはあまり利用されていませんでしたが、価格が低迷する飯用米に付加価値をつけることで、少しでも地域の役に立ちたいという思いから始めたものです。

スペースの提供を交流人口の拡大につなげる

――「スペースグッド」は、どういうことをするのでしょうか。

 すでに始まっているのが、廃校や空き家の活用などです。「無印良品の小屋」は、床面積が9m2で工事費を含めて300万円という商品です。台所や浴室、トイレもないのでこれだけでは住めませんが、廃校と結び付ければ給食室やトイレを利用して生活できます。

 廃校の校庭に小屋がいくつも建つことによって、週末に家族や友人とやってくる人たちのコミュニティーが生まれます。さらに、地域の人たちとの交流も始まる。スペースグッドは単に空間の構想を練ってそれを実現するだけでなく、交流人口の拡大を通じた地域活性化の視点を持って活動しています。

 「アンチゴージャス、アンチチープ」をコンセプトとして展開している「MUJI HOTEL」も、顧客をホテルに囲い込むのではなく、地域に開かれたホテルにしたいと思っています。

 その他、新領域の事業としては、フィンランドで今、実証実験を行っている自動運転バス「GACHA(ガチャ)」があります。もともとは車体デザインに関わる形でプロジェクトに参加したのですが、次のステップとして、このバスを公共交通が縮小する過疎地でどう活用していくかといった検討にも関与しています。

フィンランドで2020年の実用化を目指す全天候型自動運転シャトルバス「GACHA(ガチャ)」に車体デザインを提供(写真:良品計画)
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 北欧のフィンランドは日本の寒冷地と気象条件が似ており、ここでの自動運転の知見が将来、日本でも役立つと思います。また、フィンランドは社会実装の方針が非常に先進的なので、彼らの考え方が参考になると思い、参画しました。

東京も「ローカル」の1つ

(写真:北山宏一)
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――豊島区とは包括連携協定を締結していますが、組むのは地方都市とは限らないのですね。

 はい。我々は東京も「ローカル」の1つとして捉えています。

 豊島区では、これまで十分に活用されていなかった中小公園の活性化に協力しています。前述の鴨川のみんなみの里は、あまりうまくいっていない農産物直売所を活性化した例です。どちらも遊休公共施設の活用を目的に行政と関わる点が共通しています。

  新潟県津南町で運営している「無印良品キャンプ場」など、行政と密接に関わってきた例はこれまでにもありました。しかし、行政と包括連携協定を結ぶのは、これまでになかった取り組みです。

 今後目指す方向としては、「住民の生活インフラの整備に我々がどう役に立てるか」という部分でも、行政との関わりを考えていきたいと思っています。GACHAのように自動運転の公共交通もあるでしょうし、本業に近いところでは、公園を対象とした移動販売車のようなものもあるかもしれません。モノの提供だけではなく、例えば子どもや高齢者の「見守り」といったコトの部分も含まれるでしょう。

――ソーシャルグッド事業部としての売り上げ目標は?

 具体的な金額は申し上げられませんが、まあ、そこそこは(笑)。一部は既に事業化していますが、マネタイズは課題です。会社全体の収益に貢献できる事業かという意味では、率直に言って道半ばですね。

 先ほど例に挙げた「われ椎茸」のように、これまで「わけあって、安い。」というキャッチフレーズを掲げてきましたが、これからは単に製造コストを削減するだけでなく、環境負荷や都市問題など「社会的コスト」の削減を含めて考えなければいけません。いくら安くできても、誰かが泣いていてはだめなのです。

「ブランド貸し」ではなく、行政と共に汗をかきたい

――他の自治体からのオファーはありますか。組む相手を選ぶ基準は。

 殺到しているというほどではありませんが、オファーはときどきあります。すでに鴨川市、豊島区、山形県酒田市と包括連携協定を結びました。先ほども申し上げましたが、我々は「生活者の役に立つ」ことを基本理念としていますので、お話があった時点で、検討しうる分野でどのようにお役に立てるかを考えます。

 例えば、「施設を新設するので、建築のデザインをお願いします」というだけでは、まちの人々の役に立つのは難しいと思います。もう一歩踏み込んで、行政と我々がどう連携できるかを模索していきたいですね。

 我々は決して大企業ではありませんが、「無印良品」のブランドを使えることは、行政にとって魅力の一つだとは思います。それで利用者や交流人口が増えるなら、それはそれでいいでしょう。しかし、それだけでは我々が行政と連携する理由にはなりません。名前を利用してもらうだけでなく、一緒になって頭を使い、汗をかくプロジェクトでぜひ協働したいと思っています。

――フィンランドの話が出ましたが、行政との連携では海外も視野に入れいるのですか。

 もちろんです。今、最も重要な市場は中国です。売り上げの比重も大きいですし、店舗数も230店ほどあります。中国以外でも韓国、台湾、香港など東アジアの地域は日本と同様に少子高齢化問題を抱えている。ですから、我々が日本で取り組んでいる地域活性のスキームは東アジアにも敷衍(ふえん)できると考えています。

――地域での取り組みを進めるうえで、無印良品というブランドはどのような意味を持ちますか。

 「商いで社会の役に立つ」ということは、無印良品が生まれたときからの事業の根幹でした。それ以来ずっと、消費社会に対し、異なる価値観の提供を追求してきたのです。だからこそ、今手掛けている地域連携の取り組みも、みなさんから見て突拍子もないことだとは思われていないのではないでしょうか。「格好をつけて社会貢献をしている」とは見られず、比較的自然なこととして受け入れてもらえるのが、我々の強みではないかと思います。

 中山間地の棚田や廃校、都市の中小公園――それぞれ関係のないテーマのように見えて、実ははいずれも「価値を正当に評価されずに見捨てられている存在」という点が通底しています。地域の方や行政と一緒に、その価値をいかに編集したり再発見したりしていくか。我々がやろうとしていることは、「われ椎茸」のときから少しも変わっていない。私はそう思って取り組んでいます。

生明弘好(あざみ・ひろよし)
良品計画執行役員 ソーシャルグッド事業部長(兼)スペースグッド担当部長
生明弘好(あざみ・ひろよし) 1998年に良品計画入社。海外事業部アジア地域担当部長、MUJI HONGKONG CO.LTD Managing Director、海外事業部北米担当部長、MUJI U.S.A. Ltd Presidentを経て、2014年に事業開発担当部長。18年から現職(写真:北山宏一)

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