水辺に関心を持つ市民や企業、行政が一体となって、水辺に新しいにぎわいを創造する活動「ミズベリング・プロジェクト」。例年7月7日に、全国各地の水辺に市民が集まって乾杯するイベント「水辺で乾杯」を実施しているが、新型コロナの影響で、今年は9月9日に延期された。それでも全国の100カ所以上で実施。各地の主催者は苦心しながら、「密」を避けるためのさまざまな工夫をしていた。各地のイベントの様子やウィズコロナ時代の水辺への思いを、プロジェクトの仕掛け人である山名清隆氏に聞いた(関連記事:ニューノーマルの「水辺で乾杯」を9月に、日本の水辺から世界を変えたい)。

ミズベリング・プロジェクト事務局プロデューサーの山名清隆氏(写真:日経BP 総合研究所)
ミズベリング・プロジェクト事務局プロデューサーの山名清隆氏(写真:日経BP 総合研究所)

――9月9日に延期して実施された「水辺の乾杯2020」ですが、どんな実施状況だったのでしょうか。

 「ミズベリング」のウェブサイトに、各地の実施状況を投稿してもらっていますが、9月9日以外に実施されたものも含め、100カ所以上の開催報告が集まりました。

 いつもは写真も投稿してもらうのですが、今回はここに写真は貼り付けないことにしました。集合写真はソーシャルディスタンスを取りにくく、写真をアップするのに抵抗がある人もいる。現場では盛り上がるのでしょうが、特に行政サイドの人などから、「やってはみたけれど写真は上げにくい」という声もあったので、今回はメッセージの投稿だけにしたのです。

「水辺で乾杯2020」のウェブサイトに掲載されているメッセージ(ウェブサイトを一部加工)(資料:ミズベリング・プロジェクト事務局)
「水辺で乾杯2020」のウェブサイトに掲載されているメッセージ(ウェブサイトを一部加工)(資料:ミズベリング・プロジェクト事務局)
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2019年までに各地で開催された「水辺で乾杯」の様子。各地の水辺に人々が集まった(写真:ミズベリング・プロジェクト事務局)
2019年までに各地で開催された「水辺で乾杯」の様子。各地の水辺に人々が集まった(写真:ミズベリング・プロジェクト事務局)
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 そもそも今年は「乾杯は水辺でなくてもいいですよ」ということにしていました。水辺に感謝したり、水辺でできることを考えたりしながらの乾杯でもいい。必ずしも現場にこだわらないという考え方です。実際、昨年までのように写真を撮れない場合もあったと思います。水辺に行けない、集まれないという人もいたでしょうから。

――全国の実施状況を見て感じたことは。

 正直なところ、「現場でやらないんだったら面白くないからやらない」という人もいるだろうと思っていたので、私たち事務局もそれほど期待しておらず、7月7日から延期した時点で「今年は仕方ないかな」と思っていました。いまだにコロナの影響で「それどころではない」という空気もあるし、夏の初めの7月から夏の終わりの9月になったことで、気分が盛り上がらないということもあるかと。蓋を開けるまでは、みんなが反応してくれるかどうかすごく不安でした。

 だからこそ、多くの場所で乾杯が行われて、みなさんがメッセージを書いてくれたことが、私たち事務局としてすごくうれしかったですね。それぞれの活動をしているみなさん自身へのメッセージでもあるのでしょうが、我々への応援や、例えば医療関係者など他の人への応援もありました。

パブリックアートのような「密」回避の工夫

――フェイスブックなどにアップされている写真を見ると、「密」を避けるために、各地でいろいろな工夫をしていたようですね。

 人が集まる会場では、ディスタンスを取る工夫がいろいろ行われていました。面白いなと思ったのが、熊本県の白川の水辺での取り組みです。ディスタンスをキープするために手すりに白い幕を張って、密にならないようにしていました(下の写真)。そして、飲み物を飲めるように、手すりにスタンドを置いています。パブリックアートのようですよね。普通なら、赤いパイロンでも置いて、工事中みたいな雰囲気になりがちなのですが。単にディスタンスを確保するだけでなく、いい雰囲気を作ろうという取り組みが見られました。

 

熊本・白川で、「SHIRAKAWA BANKS」が実施したディスタンス確保の取り組み。「密」を避けるための会場デザインだ(写真:2枚ともSHIRAKAWA BANKS)
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熊本・白川で、「SHIRAKAWA BANKS」が実施したディスタンス確保の取り組み。「密」を避けるための会場デザインだ(写真:2枚ともSHIRAKAWA BANKS)
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熊本・白川で、「SHIRAKAWA BANKS」が実施したディスタンス確保の取り組み。「密」を避けるための会場デザインだ(写真:2枚ともSHIRAKAWA BANKS)

 「ミズベリングいたばし」(東京都板橋区)では、いつも集まっている板橋区小豆沢水上バス乗り場に集まらずにそれぞれの場所で乾杯を行ったのですが、”いつもの水辺”を箱庭風に再現した「携帯可搬型ジオラマ」を製作して、数カ所で”どこでも水辺感覚”の社会実験を行ったそうです。これにはみんな驚きました。

「ミズベリングいたばし」のメンバーが制作した「携帯可搬型ジオラマ」(写真:ミズベリングいたばし)
「ミズベリングいたばし」のメンバーが制作した「携帯可搬型ジオラマ」(写真:ミズベリングいたばし)
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「公共性」があったからできたオープニングイベント

――山名さん自身は、今年の「水辺で乾杯」にどのように関わったのですか。

 9月9日に、東京の竹芝エリアに新しくできた「ウォーターズ竹芝」(東京都港区)で、「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」と題したイベントを開催しました。

*ウォーターズ竹芝:JR東日本が事業主体となって建設し、2020年8月にグランドオープンした複合施設。商業施設や劇団四季のシアターなどが入居する。周辺のまちづくりを(一社)竹芝タウンデザインが担う。「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」は、竹芝タウンデザインとミズベリング事務局が主催した

 水辺の手すりがガラス張りになっていて、水辺のテラスに座ったまま水面が見えるんです。そこで、海に張り出した桟橋部分で、チェリストの袴田容さんにチェロの演奏をしてもらう催しを企画しました。桟橋は基本的に船の乗り降り以外はできないルールになっているので、演奏会の開催に当たって、港区に特別に許可をもらいました。本来なら誰でも参加できるようにしたかったのですが、密になると困るので、招待者を100人に限定して開催しました。

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東京・竹芝で開催した「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」の様子(写真:2枚ともミズベリング・プロジェクト事務局)
東京・竹芝で開催した「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」の様子(写真:2枚ともミズベリング・プロジェクト事務局)
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 施設は8月にグランドオープンしていたのですが、大掛かりな催し物をやるのは難しかったようで、オープニングイベントの類いは実施していませんでした。このエリアは、企画や設計にものすごく力を入れていてすばらしい風景を体験できる場所なのに、もったいなかった。そこで、大イベントではなく、「夕日を見ながらチェロの演奏を聴く会という、エレガントで静かなプログラムを企画してみよう」と主催者に提案しました。

 すると、「ミズベリング」の名の下であればやりやすいという話になった。国土交通省がやっているミズベリングと一緒にやるのであれば、社会実験のように、ある種の「公共性」があるとの判断があったんだと思います。

「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」のイメージビジュアル(資料:ミズベリング・プロジェクト事務局)
「MIZUBEDE KANPAI 2020~新東京水面風景を味わう会」のイメージビジュアル(資料:ミズベリング・プロジェクト事務局)
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 今年はバーチャルな水辺で乾杯が多かった中で、たまたまこういう出会いがあり、現場でチャレンジして喜んでもらえた。それをこうしてお知らせできるのは、我々としても良かったと思います。

イベント性が小さくなった分「思い」が強まった

――さて、コロナの状況下で行われた各地の取り組みを改めて振り返って、「水辺で乾杯」にコロナが与えた影響をどのようにみていますか。

 昨年までに比べて、「思い」がより強い取り組みが多いことを感じました。ウェブサイトに寄せられた各地からのメッセージを読むと、「3人で乾杯」とか「今年は難しいけど来年は頑張る」とか、「どんな形でもとにかくやりたかった」という医療従事者の人たちとか、何とかして実施したいという気持ちが伝わってきました。写真がなかったので字だけを読んだわけですが、かえってその人たちの気持ちや水辺への感情がよく表れていたと感じます。

――確かに、良くも悪くも昨年までは「水辺で乾杯=イベント」だったんですよね。それが、イベント的な要素が薄れた結果、取り組みの意味を考えるようになったと。

 待っていればチャンスが来るとか、誰かが教えてくれるとかそういうことではなく、自らが考え、アイデアをもって切り開いていく。そういう行動をする人たちが、はっきりとしてきたという感じはあります。

 今年はコロナの問題があるので、「現場ではどうしたらいいですか」「何人が集まっていいのですか」「何人までならいいのですか」と、戸惑いの電話やメールが多いのではないかと思っていました。そうした問い合わせに対して、基本的に事務局は「工夫することも含めて、自分たちで決めてください」と投げかけています。冷たい感じもしますが、自分たちで考えることが大事なんです。ただ、そのような問い合わせは、実際にはすごく少なかった。

 企画は各地の主催者が行っているので、何か不測の事態が起こったら、集まってくださいと声をかけている人の責任になります。自分が主催者になるということの責任と喜び、苦しみを同時に味わわないといけないから、迷いもある。でも、そうした迷いに直面したことがすごく良かったと思います。

 こういう機会を大事にしたいと思ってくださっている人がたくさんいたことが、私たちを勇気づけてくれました。事務局として、「今年はやりません」と決めてしまうという選択肢もあったわけですが、日程をずらしてやったことで、関係が切れなかったのはとても良かったと思います。

――今年の取り組みを踏まえて、今後の活動についてどのように考えていますか。

 今年の「水辺で乾杯」を終えて気付いたことがあります。大雨が降って災害が起こっても、コロナで人との接触ができなくなっても。水辺で乾杯のコミュニティは前向きさを失わない。自分たちでできることを明るくやり通す。このことを各地のアクションに教わり、逆に私たち事務局メンバーが勇気づけられました。「縮んでないで一緒にやろう。ミズベリングはもっと地域や社会を元気にできる大胆さがあるじゃないか」。そう言われている気がしました。

 そのことを強く感じて、事務局では新しいアイデアが次々に生まれ始めています。この秋からは、領域を超え連携する力を養うウェブセミナー「愛と勇気の公共越境力養成塾」が始まりました。もう1つは、ミズベリングらしい、ユニークな防災プログラムを作ろうと動き始めています。

――前回のインタビューでは、「『ニューノーマルの水辺の乾杯』をつくり上げて世界に発信し、日本の水辺から世界を変えたい」という主旨のお話がありました。今年の取り組みで、何か手応えがありましたか。

 今のところ、海外からの反響はあまり聞こえてきていません。ですが、これからも引き続き発信し続けていきたいと思っています。今回もまったく反応がなかったわけではなく、我々の活動を知って米国ニューヨークから「水辺に乾杯」をしてくれた人がいたんですよ。うれしかったですね。

山名 清隆(やまな・きよたか)
ミズベリング・プロジェクト事務局 プロデューサー
山名 清隆(やまな・きよたか) 1960年静岡県生まれ。国際博覧会ディレクター、情報誌編集長、テレビキャスターなどを経て、広報企画を手掛ける会社、スコップを起業し、代表取締役社長に就任。首都圏外郭放水路を地下神殿として世に広めて注目を集め、国土交通省などとともに「ミズベリング・プロジェクト」のプロデューサーとして全国の水辺を活性化・つなげる活動に取り組んでいる

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434148/110500086/