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“公設民営”なら、古民家活用で民間も自立できる

一般社団法人ノオト代表理事 金野幸雄氏に聞く

茂木俊輔=ライター【2017.12.14】

兵庫県篠山市を拠点に、全国各地で古民家を活用した地方創生に取り組む一般社団法人ノオト代表理事の金野幸雄氏。公民連携の態勢を築きながら、まちづくりへの展開を図れれば、地域に人を呼び込める、と語る。

一般社団法人ノオト代表理事の金野幸雄氏(写真:加藤 康)
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――自治体の経費負担を抑えながら古民家などの歴史的建築物を活用する道は、「公設民営」にあると説いています。

 建築物を再生するイニシャルコストを自治体が負担する「公設民営」で臨めば、事業者の負担はランニングコストだけになり、民間事業者として自立することが可能です。自立できれば、地域内の古民家をどんどん活用していけます。比較的規模の大きな歴史的建築物を拠点に、まちづくりに発展していく可能性が開けます。

――公設民営の民間事業者として関わっている事例には、どのような例がありますか。

 私たちが拠点を置く兵庫県篠山市に近い朝来(あさご)市の例があります。「天空の城」として知られる竹田城の城下町に市が所有する旧木村酒造場があり、そこを宿泊施設や飲食施設など複合商業施設として2013年11月に生まれ変わらせた例です。事業コンペで選ばれた私たちの提案に基づいて市が再生した建築物を、私たちが指定管理料ゼロ円の指定管理者として一括管理しています。

 公民連携の事業なので、全てを宿泊施設や飲食施設など収益施設にするのではなく、半分は地域に開かれたパブリックスペースに充てています。旧木村酒造場は開業後、国登録文化財に登録されました。

――行政が所有する施設の運営について、まず、活用提案の事業コンペを実施して指定管理者を選定。その活用提案に基づいて、行政が初期費用を負担してリノべーション。指定管理者は事業収益から運営・管理コストを負担し、行政は指定管理料ゼロ円で運営を代行させる――。この方式を、「活用提案型指定管理方式」と呼んでいます。その活用提案型でも一般的な指定管理と同様、期間は5年程度になってくるのですか。

 そうです。朝来市の場合も指定管理期間は5年間です。ただし、事業コンペ段階の私たちの提案が受け入れられ、2期目に入る時には自動更新となりました。

 とはいえ、開業のために労力を割いていますし、追加投資も行っています。指定管理期間が5年間では安定的に運営できません。本当はコンセッション方式のように、20年、30年の期間が望ましいと考えています。

竹田城城下町ホテルEN(えん)の外観。朝来市が所有する旧木村酒造場を、宿泊施設や飲食施設など複合商業施設として生まれ変わらせた(写真:ノオト)
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竹田城城下町ホテルEN(えん)の2階にある客室。ベッドルームと和室を備えている(写真:ノオト)
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竹田城城下町ホテルEN(えん)のレストラン。元は発酵蔵で、太い梁やたくさんの柱、褐色に染まった土壁、丹波たたきの土間など歴史を感じさせる(写真:ノオト)
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複数の古民家を活用して分散型ホテルを展開

――朝来市の城下町では、まちづくりへの展開も既に始まっていますね。

 はい。旧木村酒造場は4室の宿なのですが、その隣の古民家(1棟貸し)を加えて現在は5室分の宿泊施設を用意しています。さらに、近隣の古民家4軒(6室)を私たちが取得したうえで、宿泊施設として再生する事業を進めています。これらを、既に宿泊施設を運営している事業者に貸し出すことになります。

古民家の空き家を活用して、若者の地方回帰や雇用と産業の創造を図る(資料:ノオト)
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 宿泊施設の運営には人件費など一定の固定費が掛かるので、事業規模としては、最低10室は確保したかったという事情もあります。これらは、玄関帳場を1カ所に集約した分散型ホテルとして展開していきます。

 分散型ホテルの展開は、関西圏国家戦略特区内での提案・検討を経て、現行法規内で実現できることが明確になったものです。古民家を1棟貸しなどの宿泊施設とする場合、それは旅館業法上「簡易宿所」扱いになりますが、「簡易宿所」であれば、法令上は玄関帳場の設置義務は課されていないのです。

――再生した古民家で宿泊施設や飲食施設など収益施設を運営する民間事業者を探し出す役割も、一般社団法人ノオトが担っているのですか。

 そうです。建築物の目利き、改修方法の目利き、マッチングする民間事業者の目利き、これらを全てやらないと、プロジェクトとしては成功しません。

 民間事業者のマッチングには、特別な仕組みや手続きがあるわけではありません。希望者に出会った時に、話をしながら判断するのが基本です。

 地元篠山の古民家を改修したレストランには、同じように古民家に店を出したいという若い人が訪ねてきます。例えば、私がそのレストランで仕事をしていると、店主からそうした若い人を紹介されます。会ってみれば分かりますね。しっかりしたスキルがあって、マインドもいいと判断できれば、次に候補物件に連れていきます。気に入った物件があれば、家賃などの条件整理です。

――そうした若い人は地域の景観に価値があるからこそ集まってくるのでしょう。景観保護のあり方はいまのままで良いとお考えですか。

 文化財は、活用を通して保存していくことを考えるべきです。文化財の「保護」には「保存」と「活用」の意味が込められていますが、これまで「活用」は「公開活用」程度しか考えられてきませんでした。その幅をもっと広げたほうがいい。

 さらに、国宝や重要文化財を頂点とする指定文化財は保護の対象ですが、そのすそ野部分にあたる歴史的建築物(未指定文化財)は、これまでは保護されることもなく、朽ち果ててきました。現代社会には不要であるという価値観です。しかしこうしたものこそ、もっと活用することで保存すべきです。幸い、文化庁においても、この2つの方向性を想定しながら、文化財保護法の改正が検討されています。

活用提案型以外にもさまざまな手法

――歴史的建築物の活用には追い風が吹いているわけですね。活用提案型指定管理方式のほかにも、活用を公民連携で進める手法があると指摘されています。

 一つは、活用提案型指定管理方式にデザインビルド(DB)方式を組み合わせたものです。過去に関わったプロジェクトのなかにも、この方式を採用できれば、もっと効率的だったと思えるものがあります。

 DB方式なら、民間事業者自らが実施設計者でもあり施工者でもあるため、収益施設の設計監理に直接関われるからです。直接関われないと、私たちの意見が聞き入れられないこともあります。ある改修プロジェクトで、構造補強部材を施工者は無垢の木材にしたいという考えでしたが、私たちは文化財保護の観点から元の部材と区別できる金属フレームにしたいと申し入れていました。打ち合わせの場では金属にすることに落ち着いたものの、現場に出向くと、実際には木材になっていたということもありました。収益施設の設計監理は、そこで営む収益事業の成否を左右するだけに重要です。

 このほか、コンセッション方式や都市公園法を活用した方式も考えられます。

 我々は関わっていませんが、コンセッション方式の例には、法務省が奈良市内に所有する旧奈良少年刑務所を保存・活用する事業があります。施設を重要文化財に指定したうえで、監獄ホテルなどとして活用することで保存を図るというのは、画期的な出来事です。

 都市公園方式を取る例としては、奈良公園内の吉城園の保存・活用事業があります。奈良県が吉城園周辺地区を奈良公園区域内に取り込んだうえで、民間事業者による文化財建造物の活用や宿泊施設の新設を、都市公園法に基づいた公園施設の設置管理許可の手続きで実現しようとしています。

古民家などの歴史的建築物を活用したまちづくりについて語る金野氏(写真:加藤 康)
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古民家活用の官民連携手法。実施方針の策定から管理運営に至る官民の役割分担を示す。図中の■は官、○は民を表している(資料:ノオト)
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――公民連携で歴史的建築物の活用を図る事業を通じて目指しているまちや集落の姿とは、どのようなものですか。

 古民家を再生し、そこでIターンやUターンの若者が事業を営むようになれば、移住者や定住者が増え、雇用が生まれます。まちや集落の中でそうした事業が展開されていけば、それは地方創生につながっていくでしょう。古民家の活用という一つの施策で、空き家問題の解消という地域課題だけでなく、雇用の創出や移住・定住の促進といった地域課題まで併せて対応できるわけです。

 そうしたクリエイティブな施策で、ヨーロッパにみられるような、旧市街があって、その郊外にオーベルジュ(宿泊設備を備えたレストラン)がある地域をつくりたい。そうした地域をつくることができれば、ヨーロッパの人が訪ねて来るはずです。

 ショッピングモールとコンビニエンスストアだけで生活しているような地域を観光客が訪ねたいと思うでしょうか。グローバルなプラットフォームの上に、地域の歴史や文化に根差したローカルでクリエイティブな拠点が重なり、それらがネットワークを組んでいるような国土構造をつくっていかないと、日本は、だれも訪ねたくならない、つまらない国になってしまいます。

自治体は事業者選定プロセスの改善を

――そうした地域づくりを公民連携で進めていこうとするときの課題にはどのようなことが挙げられますか。

 たくさんあります。例えば自治体首長の意識の問題です。公民連携への理解が進んでいません。制度そのものの理解もそうですし、それらを活用するとどうなるのか、現在の社会状況の中でどう位置付けられるのか、理解できていない方が多い。

 歴史的建築物の寄付申し入れも積極的に受け入れて、公民連携で活用していくことを考えるべきです。そうでないと、地域のアイデンティティーを失った、つまらない地域になってしまいます。

 自治体側の担当者は異動が多く、常に“新人”であるため、議論を成熟させていくための踏み込んだ話ができない点も課題です。スペシャリストをぜひ育成してほしい。多様な働き方が求められる時代なのだから、週2日は文化財活用を担当するように兼務辞令を出すとか、地元のまちづくり会社に若手を派遣するとか、もっと多様に楽しく働ける環境を整えていくことも必要です。

 自治体の依頼を受けて、古民家の活用に向けたさまざまな作業をこなしサービスを提供しても、最終的には事業コンペか競争入札となる事業者選定プロセスも問題です。事業者を公平に選ぼうという趣旨は分かりますが、もっと早い段階で事業者を選定しなくてはいけない。

 民間事業者を選ぶ段階では、このエリアをだれがやるかという視点が不可欠です。駅前のビル開発のような都市型の事業モデルなら、この敷地をだれがやるのかという視点でいいのですが、農村地域の市街地や集落では、それではまちづくりになりません。そのエリアをだれがマネジメントするのかという視点からパートナーとなる事業者を選び、公民連携で事業を展開していくことが重要です。

金野幸雄(きんの・ゆきお)
一般社団法人ノオト代表理事
金野幸雄(きんの・ゆきお) 1955年徳島県生まれ。東京大学工学部土木工学科卒業後、兵庫県職員、篠山市副市長、流通科学大学特任教授を務める。専門は国土計画、景観政策、官民連携など。2009年にノオトを設立して、古民家等の歴史的建築物を活用した地域再生事業をスタート。「古民家の宿・集落丸山」「篠山城下町ホテルNIPPONIA」など分散型のエリア開発事業を実現し、現在は全国の集落再生、歴史地区再生を支援している(写真:加藤 康)

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