「冒険家の行動基準」で小さな町への出店にチャレンジ

――なるほど、ボケーショナルサービス。でもそうすると、モンベルは利益を追う企業体でもあり、いわゆる社会貢献の実施母体でもあったりする。モンベルとしては、何を目指しているのでしょうか。

 何を目指しているかと言われると、やはり「自分たちがしたいことを実現していく」ということ。今から43年前に私がたった1人で会社を興した時の思いというものは、何ひとつ変わっていない。山登りの道具を作って、自分たちの欲しいものを作って……。というか、私自身が自己実現したい夢を追いかけている。そう言うと、ちょっとキザですが。

 そうして様々な仕事をして、スタッフも組織も成長して大きくなり、今までやりたかったことがますますできるようになってきているということです。

――その辰野会長の夢とは、どのようなものですか。

 具体的にはなかなか言いにくいのですが、要は、できることを1つひとつ形にしていきたいということです。今の延長線上に、さらに1つ。夢というのは、実現性のある夢とない夢があると思うのですが、私が言う夢というのは、あくまで実現性がある、追いかけられるものということです。

 そして、それが実現していく中でいろいろな要素ができてきて、そうして例えば今や45の自治体と包括連携して、横のつながりもできてきている。そうして大きくなっていくと、これまでできなかったことがどんどんできるようになってくる。

 例えば、店舗のオープンにしても、まだ中国地方に1店舗もモンベルの店がなかった当時、大山町に店を出しました。すなわち鳥取県の西部の大山町の、標高750mの山の中に、モンベルの中国地方1号店をつくったわけです。普通出店する場合は、少なくとも鳥取県に出すなら鳥取市もしくは米子市、それか島根県の松江市など、人口が多いところに出すのですが、そうしたところには出さずに大山町に店を出して、地域の人が非常に喜んでくれて成功することができた。

モンベル大雪ひがしかわ店(資料:モンベル)
モンベル富士吉田店(資料:モンベル)

 その次に出したのが、北海道の東川町ですね。このあたりも普通であれば、旭川市に店を出します。人口30万~40万人の都市です。そこに店を出さずに、人口7800人の町に店を出した。結果として今5年経ちましたが、人口が8300人に増えている。これは東川町の松岡市郎町長がおっしゃるには「アベノミクスではなく、辰野ミクスです」と。

 要するに、地域に7800人しかいない町に、あの東京の渋谷とか品川、京橋に店を構えるモンベルの店舗ができるわけです。そうすると、地域の人がまず元気になる。こういう成功事例を受けて、その後、山梨県富士吉田市とか熊本県南阿蘇村とかに、モンベルは出店してきた。モンベルが大きくなることで、こうしたことができるようになったわけです。

 今年の春には北海道東の小清水町に、ここは人口5000人を切っている町なのですが、そこに出店して初日に3000人近い人が訪れてくれました。地域ぐるみでモンベルを歓迎してくれた。そうした地域を元気にしていくということが、1つの我々の役割分担というか、パターンになってきている。例えば、8月に包括連携した北海道南富良野町も、人口わずか2600人の町です。このように小さな町や村と、いろいろな形で取り組みを進めています。

 こうしたことは、元々冒険家であり登山家である、私の行動基準なのかもしれないのですが、人のやらないことをやることが面白いというか(笑)。「普通そういうことしないでしょう」というところにチャレンジして、成功していく。それが非常に心地よいのです。中途半端に大きなところというのは、やることがたくさんあって、我々のアウトドアとかアクティビティが及ぼす影響というのも少ないのですが、小さな地域であればあるほど、我々が起こした行動が、結果として大きな反響につながっていく。これがやはり快感ですよね。

2018年8月の北海道南富良野町との包括連携協定締結式、左がモンベルの辰野勇会長、右は南富良野町の池部彰町長(写真=直江竜也)